第127話 創造編開幕――記憶の初音(ういね)
第127話 創造編開幕――記憶の初音
未生の扉が開かれたその先――
そこに広がっていたのは、何も存在しない“原初の宇宙”だった。
色も、音も、時間さえもない世界。
ユイたちの姿は、光の輪郭としてかろうじて空間に浮かんでいた。
「ここが……本当に、“創造の前”の空間……?」
ノエルがそっと呟くと、空間の奥から一つの光が降りてきた。
それは、かすかに震えるような音を伴いながら、徐々に形を成していく。
――少女だった。
白銀の髪に、星屑を纏うような姿。
その瞳はすべてを映し、そして――すべてを忘れていた。
「あなたが……“記憶の初音”?」
ユイの問いに、少女は頷いた。
「わたしは“ウイネ”。この宇宙が初めて記憶した“音”――
そして、始まりを歌う者」
◆
ウイネの声が響くと、空間に微かな振動が走った。
空間の中心に、一冊の大きな“楽譜の書”が出現する。
「この“創造領域”では、音がすべてを形作る。
記憶も、存在も、希望も、絶望さえも――すべては“旋律”によって紡がれる」
そう語るウイネの周囲に、九つの光が集まってきた。
九聖龍の宝。
すべてが揃ったそのとき、楽譜の書が開き始めた。
闇命環、夢の記録石、火命の鍵、水精霊の珠――
それぞれの宝が旋律となって書に流れ込んでいく。
しかし――
「まだ足りない。“心の主旋律”が、ひとつも存在していない」
ウイネの表情がかすかに曇る。
「それは、君たち自身の“心の音”。今ここで、君たちが奏でなければならない」
◆
静寂の中、ユイはそっと目を閉じた。
その胸に浮かんだのは、最初に仲間と出会った時のこと。
苦しみ、迷い、救い、笑顔――
そのすべてが、ひとつの音になって響いてくる。
「……これが、僕の音だ」
その瞬間、ユイの体から金色の光が立ち上がり、空間に響き渡る。
続けてノエル、スイミー、ネル、五人の星座戦士たち――
それぞれの音が、順に世界へと放たれていった。
旋律が重なり、響き、膨らんでいく。
ウイネが微笑んだ。
「これで、“創造の歌”が完成する」
書が開かれ、空間が揺らぐ。
「次に現れるのは……“存在の種”」
◆
楽譜の中心から、小さな光球が生まれた。
それは、“存在そのものの起源”――**オリジン・シード**と呼ばれる始まりの種。
「これが、新たな宇宙の“創造核”となる」
ウイネが語る。
「しかし、創造には“対”がある。“破壊の音”もまた、目覚めつつある」
そのとき、空間の彼方に黒い波紋が広がった。
響き始めたのは、不協和音。
すべての旋律を狂わせる“異音”だった。
◆
「これは……ただの敵ではない」
星座戦士の一人、白鳥秀樹が目を細めて言った。
「創造の反対――つまり、“忘却”そのものが動き出してる……!」
そう、“未生”とは生まれないものではない。
“まだ忘れられていない可能性”でもある。
そして、忘却が動き出すとき――
生まれたばかりの命は、最も脆い。
ユイは決意のまなざしで前を向いた。
「僕たちの音で……この宇宙を守る。
この“記憶の初音”を、決して失わせない!」
創造の編章が、いま始まる。
――つづく