第126話 鍵の扉の先へ――始まりの創造
第126話 鍵の扉の先へ――始まりの創造
聖環の戦いが終わったあと、空間には一瞬の静寂が訪れた。
バルザ=クライムスの姿は呪翼とともに崩れ去り、虚無の叫びも沈黙した。
しかし、ユイたちの胸には明確な実感が残っていた――
「まだ……終わっていない」
ネルが空を見上げてつぶやく。
そこに浮かんでいたのは、“鍵”の紋章だった。
それは九聖龍の共鳴によって目覚めた、宇宙創造の門。
“未生の扉”――その本当の入り口。
「行こう……この旅の、本当の始まりへ」
ユイの言葉に、仲間たちは頷く。
◆
金龍の導きにより、彼らは“鍵の光路”と呼ばれる通路へ入った。
それは星々が連なる一本道であり、光そのものが足元を形作る幻想の道。
彼方にそびえる扉は、輝きと闇が同時に脈打っていた。
その扉の前に、ひとりの存在が立っていた。
「……お前たちか。ついに来たのだな」
声の主は、ローブに身を包んだ男。
その名は――**カデンザ=ネメシス**。
「十三の導」の一人にして、“記憶の創造層”を管理する存在だった。
「鍵の扉を開くには、最後の審問を超えねばならぬ」
そう言うと彼は、手に一冊の本を現した。
それは――ユイの“書かれなかった未来”を記した禁断の書だった。
「これは、君が選ばなかった道の記憶。
この先に進むなら、君は自分自身の“選ばなかった可能性”すら肯定しなければならない」
ユイはその本を開いた。
そこには、かつて諦めた夢。出会わなかった仲間。
選ばなかった言葉。踏み出さなかった一歩が、すべて記されていた。
「こんなにも、あったんだ……“もうひとつの自分”が」
ユイの瞳が揺れる。
「だが、今の私は――この道を選んだ。仲間と出会い、夢を信じた。
それが……“今ここにいる私”だ!」
その言葉と共に、宝が共鳴する。
鍵の扉が、静かに開き始めた。
◆
扉の向こうに広がっていたのは、**“無生界”――何もない原初の空間**。
光も音もなく、ただ意識だけが漂っている。
「ここが……“創造の前”の場所……?」
そのとき、ユイの中からひとつの声が響いた。
「君に問う――“生まれること”を、君は望むか?」
それは、宇宙そのものの問いだった。
ユイは答える。
「私は、望む。夢を描き、記憶を紡ぎ、仲間と歩んできた。
この命がたとえ一瞬でも、それは確かな意味を持つ」
光が差し込む。
全てが揺らぎ、そして――“始まり”が刻まれる。
◆
創造の時が満ちる。
ユイの胸に、ひとつの小さな鍵が現れた。
それは、“未生の扉”の中心部に眠る真なる鍵。
「行こう、皆……この先に、“まだ見ぬ宇宙”がある」
仲間たちが頷いた。
――物語は、いよいよ**創造編**へと突入する。
――つづく