第125話 決戦の聖響陣――虚無を越えて
第125話 決戦の聖響陣――虚無を越えて
爆ぜる光、轟く咆哮。
ユイたちと“三悪”の決戦は、聖環の中心〈響界交差点〉で幕を開けた。
「風煌翔陣、展開!」
立川建真の号令と共に、風が渦を巻く。
射手座の力が、聖環の一角を守る防壁として働き始めた。
だが蛇ノ目文牙が笑う。
「防ぐだけじゃ勝てんぞ、坊や……見せてやる、俺の“呪構撃”!」
黒い蛇の文様が空に浮かび、無数の呪刃が星空から降り注ぐ。
如月龍一が素早く跳び出し、槍で刃を弾いた。
「蠍座の猛毒穿破〈ヴェノム・ピアース〉――通じろッ!」
螺旋を描く毒の槍が文牙に突き刺さる。だが次の瞬間、文獄が乱入する。
「兄をよくも……地獄を見ろ、“圧滅連爪撃”!」
鋼鉄の爪が嵐のように振るわれ、如月が吹き飛ばされる。
「龍一ッ!」
稲森晴佳が駆け寄り、蟹座の守りの力で彼を庇う。盾の紋章が宙に広がる。
「私たちは、絶対に倒れない!」
だがその背後から、禍々しい詩声が響く。
「……死とは、時の沈黙。生とは、痛みの織物……」
獄獣王バルザ=クライムスが静かに歩み出た。
六枚の呪翼が音もなく開き、空が染まる。
彼の口元がわずかに動いた。
「災厄領域〈デスブレイン・ドメイン〉、展開」
空間が歪み、記憶と時間が溶け合う。
「この世界は、我が精神の中だ」
ユイたちは異形の領域に閉じ込められる。
動いた瞬間、記憶が巻き戻され、痛みが再生される。
「これが……バルザの力……!」
ネルが歯を食いしばり、光の剣を掲げる。
「記憶は……私たちの味方よ! ユイ、統合をもう一度!」
九つの宝が共鳴する。
ユイの瞳が光り、両手に集まった力が聖環を再び輝かせた。
「九聖龍よ……もう一度、力を貸して!」
その瞬間、ユイの背後から金龍が顕現した。
続けて風、火、水、光、闇、夢、雷、大地――すべての龍が虚空を翔る。
「九聖響陣――聖なる共鳴を!」
空間が反転する。
バルザの領域が崩壊を始める。呪翼が一本、折れた。
「ほう……これほどの共鳴を成すとは。だが――まだ甘い」
バルザが剣を振り上げた。
「終獄剣〈グラン=デスティア〉、第二形態……“記憶刈りの黒譚”!」
巨大な黒の刃が、まるで大地を断つように振り下ろされる。
そのとき――
「やめろ……その刃は、もう誰にも向けさせない!」
声が響いた。
空間の端から現れたのは、**ノエル**。
彼女の背後に、かつての“夢精霊”の幻影が重なる。
「私はもう逃げない。私も、この世界と向き合う!」
ノエルの体が光に包まれ、彼女自身が“第十の共鳴”となった。
「ユイ、これで九+一……完成させて!」
ユイがうなずく。
すべての宝が、すべての想いが、ひとつの光になる。
「――今こそ、終わらせる。“完全統合・聖環開放”!」
放たれた光は、バルザの剣を打ち砕き、空間を貫いた。
獄獣王が、初めて呻いた。
「……見事だ。では、次の幕を見せてみろ、統合者よ」
彼の姿が、呪翼とともに崩れ消えていく。
ユイたちは膝をつきながらも、立ち上がった。
「これで……終わりじゃない。まだ……“鍵”がある」
ネルがそっと微笑む。
「そう……鍵の扉は、まだ開いていない」
――そして、新たな予兆が、聖環の中心に揺れていた。
――つづく