第124話 三悪の障壁――聖環統合の刻
第124話 三悪の障壁――聖環統合の刻
九つの宝がそろった瞬間、空間に歪みが走った。
金の聖龍が消えた後、残された聖域〈オウリム・ノート〉の空間は、激しく震えていた。
音なき世界が、狂気の叫びで塗り潰されていく。
「来る……!」
ユイの声と同時に、黄金の宇宙が裂けた。
現れたのは、禍々しき双子の影。
蛇ノ目文牙と文獄――悪名高き蛇ノ目兄弟が、暗黒の亀裂から這い出た。
「お前たち、よくぞここまで辿り着いたな……だが、ここから先は通さぬ」
文牙の舌が不気味に光り、文獄の腕には獣のような増殖装甲が形成されていた。
「我らは、“三悪の障壁”の一角にすぎぬ。それでも十分だろう、聖環を潰すにはな!」
その瞬間、空間が崩壊するように歪み、
第三の影が、六枚の呪翼を広げて降臨した。
三メートルを超える巨体。黒紫の獣甲に包まれた王の姿。
「……我は、獄獣王バルザ=クライムス」
声は低く、詩のように美しい。しかし、全身の血が凍るほど冷酷な響きだった。
「貴様らが集めた聖環、それは“再構築の鍵”に過ぎぬ。ゆえに我らはそれを斬る――絶望へ導くために」
彼の手には、終獄剣〈グラン=デスティア〉。
記憶、感情、希望――すべてを断ち切る刃が、空間そのものを引き裂く。
「来い、ユイ……聖環を賭けて、命の価値を示してみせよ」
ユイは一歩、前に出た。
仲間たちも迷わず並ぶ。
「逃げても無意味だ。私は……ここで、終わらせるために来た!」
九つの宝がユイの胸元で共鳴する。
風、火、水、光、闇、夢、雷、大地、そして金。
九つのエネルギーが螺旋状に結びつき、空間の中心で一つの輝きを放つ。
「聖環統合――!」
スイミーが叫んだ瞬間、ユイの背後に巨大な輪が出現する。
九聖龍の意志が交差し、宇宙の因果を編み直すように回転を始めた。
だがその輪に、獄獣王の剣が襲いかかる。
「滅びを恐れるな。虚無は、最も美しき沈黙なのだから」
終獄剣が振り下ろされる。
だがその直前――
「甘いな、バルザ!」
風の刃が遮った。
立川建真が空を裂いて突入する。
「射手座、風の星霊! オレたちが全員そろったらどうなるか、見せてやるよ!」
その声に応じて、水瓶座の白鳥、蠍座の如月、蟹座の稲森、そして金牛座の朝比奈が現れる。
正義の五星戦士、全員集合。
「ここで決着だ――“九環共鳴陣・ユニヴァースレゾナンス”!」
聖環の力と星座の力が融合する。
爆発する光。歪む空間。共鳴する想い。
「バルザ……あなたの時代は、もう終わりよ!」
ネルが一歩踏み出すとき、光の剣が彼女の手に集まり始めた。
戦いの火蓋は、いま――切って落とされた。
――つづく