第123話 黄金の残響――終極の聖域へ
第123話 黄金の残響――終極の聖域へ
九つの聖龍の宝――そのうち八つが揃った。
ユイたちの手には、雷の宝「雷鳴環〈ヴァル=ボルテックス〉」が新たに加わり、
残るはただ一つ、「金」の宝のみ。
「次が……最後の聖龍」
静かにそう口にしたのは、稲森晴佳。
星の鼓動を受けて開かれた座標が、空間に黄金の光を放つ。
響き渡る音はなく、ただ、心そのものが静かに共鳴していた。
「“無音の聖域”。それが……金龍の眠る場所よ」
ネルの言葉と同時に、空間が反転するようにねじれ、
彼らは一瞬にして、新たな世界へと導かれる。
――そこは、**無音の黄金宇宙〈オウリム・ノート〉**。
音も風も存在せず、時間すら止まっているかのような世界。
ただ、無数の黄金の粒子が、音符のように浮かび続けていた。
「ここは……何も聞こえない。でも、心の中に語りかけてくる……」
ユイは歩くたび、足元に黄金の波紋が広がっていくのを感じていた。
その中央に浮かぶ、巨大な鐘のような構造体――**金響殿〈カナデリア〉**。
「最後の宝は、魂そのものの純度を試すらしいわ」
スイミーの声も、心に直接響く“共鳴言語”で伝えられる。
言葉ではない。魂の振動。
そこに、ひとつの存在が降りてくる。
鋼のような鱗を持ち、透き通った金属音の羽ばたきを奏でる龍。
――金聖龍〈エリュシオン=ミラーダ〉。
その存在は、まるで宇宙の終焉と誕生の間にだけ現れる幻のようだった。
「求めるのならば、お前自身が“空”になれ」
その声とともに、金聖龍のまなざしがユイの心を見抜く。
欲も執着もない、ただひとつの願いだけが――金の宝を照らす鍵。
ユイは目を閉じた。
「わたしの願いは……夢を、すべての存在に届けること」
沈黙のなか、ユイの身体が黄金に包まれる。
そして、金の宝が現れた。
――その名は、「終音環〈フィナーレ・リング〉」
静寂の中で、それは確かに、音なき音を響かせていた。
ユイが目を開く。
「これで、九聖龍の宝が……揃った」
仲間たちは頷いた。
だがそのとき、空間の一角が崩れ始める。
「……来るぞ、奴らだ!」
スイミーの叫びとともに、暗黒の裂け目から――
あの存在が現れる。
蛇ノ目兄弟、そしてその上位存在――
獄獣王バルザ=クライムスの気配が、確かに、迫っていた。
――つづく