《第120話 記憶共鳴のオペラ、そして夢の門が開く》
《第121話 記憶共鳴のオペラ、そして夢の門が開く》
ユイは、手のひらにそっと乗せたユーユーマシンを見つめていた。
その温もりはすでに“装置”ではなかった。
それは、彼女の意志と夢が形を成した、“未来の心臓”のようだった。
「この場所……記憶の宮殿の奥に、何かが呼んでる気がする」
傍らのスイミーがぴょこんと浮かび、頷いた。
「主殿の意識が“共鳴”を始めています。これは――次の扉が、近い証拠です」
その瞬間、足元に広がる鏡のような床がきらめいた。
浮かび上がる音――それは旋律。
それはかつて、ユイが誰かの声に包まれて眠った夜に、確かに聴いた子守唄だった。
「……これ、私の……?」
空間が揺らぐ。空気が音になる。
記憶が楽譜のように広がっていく。
—
白いピアノの前に、少女が座っている。
その小さな指は、ぎこちなく鍵盤をなぞりながらも、懸命に音を紡いでいた。
「ユイ、上手になったね」
振り返ると、そこには、もう会えないはずの――母の笑顔があった。
—
「母さん……!」
ユイは叫んだ。空間が砕ける。
だが、その破片は痛みではなく、未来の扉への鍵になって舞い上がった。
スイミーが静かに語る。
「記憶とは、後ろにあるものではありません。
それは、“前に進むための音楽”にもなり得る」
そのとき、空がぱあっと開いた。
そこに現れたのは――巨大な音叉のような門。
鼓動と旋律が混じり合い、天に向かって振動している。
「……これが、夢の門?」
「いえ、これは“響界門”――
夢と現実の周波数が合った時だけ開く、共鳴の門です」
その門の向こうには、煌めく星々が流れ、
そして――ユイを待つ者たちの影が見えた。
「行こう。私の、音を響かせるために」
ユイはユーユーマシンをそっと抱え、
スイミーと共に、音の渦の中へ踏み出した。
—
そのころ、遥か星系の果て――
「……共鳴したか。ならば、我もまた動くとしよう」
仮面の観測者が、薄く笑った。
その背後に立つのは、封印を解かれた**十三の導〈コード・サーティーン〉**の一柱――
顔のない声、響鬼。
「夢の旋律など、我らの“絶対無音”で、かき消すまで」
—
音が光になり、そして門が閉じた。
ユイの前に広がるのは、まだ見ぬ“響きの宇宙”――
新たな聖龍が待つ、最後の軌道領域だった。
――つづく