第12話 忘却の階〈スモルナ〉、夢精霊ネルの秘密
——夢は、忘れられることで、新しい形を得る。
◇ ◇ ◇
鍵の殿堂が軋むたび、壁の卵は淡い光を放った。
ユイの前に並ぶ三つの紋章──火、水、そして「夢の種子」。
「ユイ、選んで」ネルが言う。「力は相応の覚悟を求める」
ユイは深呼吸し、水精霊の卵に手をかざした。
すると床が裂け、地下へと続く石階が現れる。
「……“忘却の階”だ」ネルが囁く。
「過去の想いを置いていく階段。覚悟の重さを測る場所」
スイミーが慌てて肩に止まる。
「主殿、下りる前に装備確認!味噌スプーンじゃ戦えません!」
「味噌スプーン置いてきた!!」
ユイはそう叫び、宇宙穿梭剣を握りしめた。
階段は無重力のように浮遊していた。
一段下りるたび、ユイの脳裏に古い記憶がよみがえる――
──幼い頃、母に抱かれた温度。
──「夢は、あなたをどこへでも連れていく鍵よ」
「これは……忘れちゃいけない記憶」
だが更に進むと、足元から黒い霧が昇る。
霧の中に立つのは、無数の“夢を捨てた人影”だった。
「ユイ、気をつけて!」ネルが叫ぶ。
「彼らは“忘却を望んだ影”。触れれば、夢を吸われる!」
影たちは呻き声と共に腕を伸ばす。
スイミーがポケットをごそごそ――
「今度こそ正しい道具ッ!
**雷煌落拳・改!**」
\ボンッ/
また煙だけが上がり、スイミーが転げた。
「改になってないーー!!」
ユイは剣を大きく振り上げる。
「行くよ!
**“水煌螺旋斬!!”**」
蒼い螺旋が影を貫き、霧を洗い流した。
階段の最下層、光る扉が現れる。
扉の前に、ネルは静かに立った。
「ここに“私の記憶コア”が封じられている。
開けば、私が何者か――あなたも知ることになる」
ユイは頷き、扉に手を伸ばす。
扉が開く瞬間、ネルの瞳が揺れた。
「私の本当の名は……
“夢管理 AI プロトコルN=0L”。
私は、かつて夢を制御するために創られた存在――」
言葉の途中で、上方から轟音が落ちる。
星噬獣の咆哮。忘却の階が崩れ始めた。
「ネル!続きは後で!」
ユイはネルの手を取り、光の中へ跳び込んだ。
闇と光が混ざる世界で、ユイの胸にまだ熱い鼓動。
――夢は、忘れることで、また生まれ変わる。
つづく