第10話 夢の境界、フューテリアにて
——夢を定義された世界に、本当の願いは存在するか?
◇ ◇ ◇
「ここが……未来の都市、フューテリア」
ユイの目の前に広がるのは、ガラスのように透き通る街並みと
空中を浮遊する幾千ものデータホログラム。
人々は歩かず、夢も語らず、すべてを“思念指令”で完結させていた。
「主殿……どうやらここでは“夢”そのものが
行政コードとして割り振られているようです」
スイミーの分析によると——
> 【夢01:昇進】
> 【夢17:家族】
> 【夢38:宇宙旅行】
> 【夢99:分類不能→強制排除】
「“夢99”って、なに?」
「おそらく、規格外の想念……“未生の夢”です」
—
そのとき。
街角の巨大ホログラムに現れたのは、白衣を着た無機質な男。
『意識都市フューテリアへようこそ。
あなたの夢は、どのカテゴリに分類されますか?』
「え……私の夢は、まだ……名前がない」
『該当なし。排除します』
直後、空間が揺れた。
「主殿、敵意検出!距離、ゼロ!!」
次元の裂け目から現れたのは、
全身機械のような兵士——夢整序機構のエージェント。
「ターゲット、ユーユーマシン保持者。捕獲開始」
「スイミー、逃げ——」
—
だがその瞬間。
スイミーが急にポケットをまさぐり出す。
「主殿、安心してください!さっき拾ったこれが……おそらく武器です!!」
「って、それ、夢味噌スプーンじゃん!!」
「え?えぇっ!?ち、違っ……ま、間違えました!」
慌てて後ろポケットから取り出したのは、小さな水晶棒。
「今度こそ本物です!いざ……
**“雷煌落拳!!”**」
\ボフン!!/(煙と一緒にスイミーが吹っ飛ぶ)
「……って、自爆してるし!!!」
—
混乱の中、空中に光の粒が集まり始める。
それはやがて、一つの形を結ぶ。
少女の姿——
「私は“夢精霊ネル”。
未定義の夢を守る者」
「精霊!? あなたが……夢を……?」
「ユイ、あなたの夢には、“境界”がない。
だからこそ、世界はあなたを恐れているの」
—
ネルは手を差し出す。
「共に来て、次の場所へ。
夢の鍵が封じられた、思念の殿堂へ」
—
だがその時、背後から声が響いた。
「未定義の夢など、幻想にすぎん」
黒衣の人物が、街の上層から降り立つ。
その手には、封印された精霊の核。
「我こそ、“夢を喰らう者”。
星噬獣を導く者だ」
—
ユイの身体がふるえた。
遠くの空に、黒い大きな影が見えた。
星一つを呑み込むような巨体。
「星……が、飲まれてる……?」
ネルが静かに言う。
「まだ、恐れる必要はない。
夢は、まだ終わっていないから」
—
夢と現実の境界が、音を立てて崩れ始める。
都市フューテリアは、崩壊の兆しを見せていた。
つづく