第9章「偽神の影、感情の坩堝(るつぼ)」
満腹区・中央大通り
太陽をかすめ、空に浮かぶ“神椅子”が軋む音を立てる。
戦火に焼かれた街並みに、あらゆる感情と野心が渦巻いていた。
ここは、神を巡る争いの中心地。
今まさに、三つの“組”が、殺意を持って交錯しようとしていた。
──それぞれの信念と裏切りを抱えて。
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【太陽連合】第13シマ 路地戦区
「まだ歌うつもりかよ、そらん……!」
ふー太郎が手を握りしめる。
先程の戦いで、彼の肉体は限界に近かった。だが――心はまだ中折れていなかった。
対するそらんは、マイクを握りしめたまま、少しだけ表情を曇らせる。
「……ウチも、あんたには負けたないんや」
ふー太郎はそれを「勝負の意地」だと思った。
けれど、そらんの無い胸の奥でうごめいていたのは、もっと複雑な感情だった。
(なんで……こんなに、苦しいんやろ)
その想いに答えるように、異能《魅了念糸チャームスレッド》が暴走しかける。
そらんの制御が、一瞬、遅れた。
「く……」
ふー太郎がその隙を突こうとした時――
「ストップ! そらん組、撤退や!!」
びびの号令が響く。
彼は、冷静に“引き際”を見極めていた。
「今は“全取り”のタイミングやない。情報が足りん」
「……わかってるで」
そらんはマイクを下ろした。
その顔は、ふー太郎の方を見ないようにしていた。
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【清心会】情報管制区画・極秘戦略室
「……混沌の中で“情報”だけが武器になるの」
リエラがモニター越しに第13シマの映像を見つめる。
その横で、吉師がタブレットを操作していた。
「戦況、そらん側が僅かに後退。感情が揺れてる。“アイツ”が原因ね」
「“ふー太郎”……彼が感情を引き裂く。だから――私は」
リエラがつぶやく。
彼女の計画は着実に進んでいた。だがその瞳は、どこか寂しげだった。
「吉師。あめを“前線”に送って」
「了解。スイートな凶器、投入開始」
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【ふー太郎組本部・臨時医療区画】
ぷんぽんぱんが傷ついた組員にパンを焼いていた。
「今は、癒しと炭水化物が必要なんだよぉ……!」
彼女の異能《しっとり転移ヒーリング》が静かに周囲を包む。
だが、その笑顔の裏では、不安が渦巻いていた。
(もうすぐ、何か……とてつもなくイヤなものが動く)
その“何か”に、名はまだない。
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【暗躍:Aちゃん】
とある高層ビルの屋上で、少女が風を浴びていた。
Aちゃん――
その微笑みは完璧だった。だが誰にも見せない“歪み”が、そこにあった。
「どこまで持つかな、ふー太郎…」
その独り言は、誰にも届かない。
だが、どこかで“誰か”が、それを聞いていた。
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【四天王・葉月、ついに動く】
「WWWWWWWWWWWW」
不気味な笑い声が響いたのは、第9シマ・廃棄処理区画。
葉月が、黒い傘を差しながら歩いていた。
「やだぁ……この街、腐ってるぅ。でも好き♡」
その手にあるのは“指揮石”。
彼女の異能《絶笑制裁》が、ついに解放される。
「今日は、何人泣かせようかな♡」
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【局地戦:タラバガニ vs ギャング残党】
無言で拳を振るうタラバガニ。
異能《無慈悲の構え・第零式》が発動すると、空間ごと“静止”する。
「…………」
彼は何も語らず、ただ前に進んだ。
見ていたハレがつぶやく。
「まーた、止まった空間の中でヤッちゃってる……あの人、恋もできないのかな〜♡」
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【局地戦:にぇるこ × あめ】
「こんにゃろー!!!爆発四連ボケ!!」
「きゃっ……わ、笑っちゃう……! ダメなのにっ!」
あめの瞳が揺れる。
その表情には、わずかな“ためらい”があった。
そらんに忠誠を誓いながらも、彼女の中で“ふー太郎の笑顔”が揺らぎを生んでいた。
(……あたし、スパイのくせに、なにしてんだろ……)
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【戦況整理】
•太陽連合:一部区域を奪還。ふー太郎の成長が兆し。ぷんぽんぱんの異能で再建中。
•そらん組:そらんの異能が一時不安定化。びびの撤退判断で戦力温存。
•清心会:あめが戦線に。葉月が出陣。リエラの“心理戦”が本格始動。
•Aちゃん:動きはまだ読めない。裏で“何か”を準備中。
次に笑うのは、誰だ