第7章「戦火の宴、鬼を抱く街」
満腹区・西エリア
「――ほなお前からなァァ!!」
地面が鳴いた。ふー太郎の拳が、路地裏の闇を引き裂く。
対するは、タラバガニ。
無口なその男は、盾のような両腕を交差し、ふー太郎の猛撃を受け止めた。
「…………。」
「お前、言葉足りなすぎて逆にこわいわ!!」
タラバガニは無言。だが、その沈黙には鋼より重い“決意”が宿る。
背後に立つのは――ハレ。
「ふふ、わたしってば、めちゃくちゃかわいくてこわ〜い裏切者〜」
彼女の異能《虚言転写メルティライ》は、ウソを“現実”に変える力。
「わたし、空飛べるよ♡」と言えば、実際に飛べるのだ。
ハレが囁く。
「タラちゃん、今からアレして。ふー太郎の右腕、キリンにして♡」
「…………。」
タラバガニは微かに頷いた。空間がうねる。
「させるかァァァァアアア!!!!!!」
ふー太郎が拳でその虚言現実を叩き壊す。
「オレはな、右腕も左腕も立派なポークビッツも全部、人のためにあるんじゃい!!!」
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清心会・南ブロック隠密線
「ううっ……ふー太郎くん、がんばってる……私も、がんばる……(ガチ泣き)」
あめは、レノバのノートPCを抱えながら鼻水をすすっていた。
清心会の隠密アジト。
あめはリエラ陣営に身を置いている“フリ”をしていた。
――だが、彼女の本当の所属は、そらん組のスパイ。
そして彼女の異能《感情逆流リバース・エモーション》は、
“他人の感情”をそのまま自分の“演技材料”に使える能力。
要するに、「相手が怒れば自分も“本気で怒れる”」という、
超演技力系スパイ異能だった。
あめは、画面の向こうで戦うふー太郎の映像を見つめながら、
リアルに泣いていた。
「ふー太郎くん……すごい…(涙)」
「でも、これ……敵なんだよね……? あれ……? わたし、どっち……???」
完全に自分でも混乱している。
吉師が冷静に言った。
「その感情のブレこそが“武器”よ、あめ。あなたは裏切り者じゃない。裏をも欺く、究極の“駒”になる」
「……吉師さんって、たまに悪魔みたいですね……すき……」
「聞こえてるわよ(冷笑)」
――清心会の心理戦は、もう始まっている。
⸻
空風巡回組・第十三抗争拠点
「爆笑爆笑爆笑爆笑爆笑爆笑爆笑爆笑!」
叫びながら乱入してきたのは、うかんむり。
「せきたてぇぇえええっ♡♡」
せきたてが血まみれの刀を背中に背負って現れる。
「やぁ、うかんむりちゅわぁん。……今日は何人、笑い殺そっか?」
そらん組の“闇”と“癒し”の融合。
※うかんむりの異能:《逃避抱擁ヒステリカル・ハグ》
抱きついた相手の心を“癒す”と同時に、意識崩壊を起こす。
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太陽連合・別動隊
「さくら姐さん!!無茶です!!!」
「うるさい!うちの異能は、“猪突猛進”やけぇぇぇええ!!!」
さくらの異能:《脳筋解放マッスルゲート》
筋肉量と比例して戦闘力が倍増する脳筋異能。
その拳は、空風巡回組の一角を粉砕しながら突き進む。
「筋肉と根性に、説明なんていらんじゃろがああああ!!!」
⸻
その頃、空の上
「さて……この宴、どこまでいけるかな」
四天王・葉月は、ぼんやりと雲の上から眺めていた。
「WWWWWWWWWWWWWWWW」
彼女は笑っているだけ。
だがその背中には――“何か”が蠢いていた。
リエラは呟く。
「まだ動かさない。葉月は切り札……彼女の狂気は、“未来”を狂わせるから」
⸻
【びび】登場(そらん陣営)
「……守らなきゃいけないものがあるんだ」
びびは静かに呟くと、足元の瓦礫を持ち上げる。
その下には、まだ動けない仲間たちがいた。
「……心臓の裏に、“力”が眠ってるって……おばあちゃんが言ってた」
彼の異能は《報恩回路》
仲間への“恩”を受けた数だけ、火力が倍化するというシンプルでエモすぎる能力。
そして今、彼の火力は――
恩:1280ペソ(MAX)。
「いきますよ、総長。恩返しは、魂で」
拳が炸裂し、敵陣の戦闘車両を丸ごと逆方向に走らせた。
【ぷんぽんぱん】登場(ふー太郎サイド)
「ごめんね……でも、殺すね……ほぇ〜」
戦場に立つには優しすぎるその声。
だが彼女の足元に、眠っているだけの敵100人。
異能《癒封陣》
範囲内の者に“母性”を与え、眠らせる能力。
しかも寝てる間にパンを焼いてくれる。
「ほら、パン焼けたよ〜。あとついでに心も焼いといたよ〜ほぇ〜」
敵陣は壊滅した。笑顔のまま。
混沌の報せ:髭もぐらとガバチョ
「なんか、戦争始まってますけど……オレたち、何しましょか?」
「ボソ……ボソ……突っ込む相手すら……おらんのか……」
髭もぐらとガバチョ、ギャグ要員として孤軍奮闘中。
だが――この2人こそが、後に戦況を“ひっくり返す存在”となるとは、まだ誰も知らない。