第3章「初王の一撃」
空が割れたような朝だった。
満腹区上空に現れたのは――巨大な“椅子の影”。
それは神の形をしていた。
衛星よりも巨大で、ビルよりも黒く、
その威圧だけで空気が揺れていた。
街中がざわつく。
「……タワー・オブ・ゴッドが…呼んでる?」
そして、空から響く一つの声。
「宣戦布告――
初めに“戦い”を起こした組の名が、
第一の王として記録される」
「この戦争の“初王”を決めるのは――今だ」
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【太陽連合本部・地獄の運動場】
ドゴォォォッ!!!
ふー太郎の拳が地面を叩いた瞬間、
武闘場の床が“面”で沈んだ。
まるで地殻がうめき声を上げたかのような衝撃。
「俺は無能力者や。だけどな……」
「この拳ひとつで、全部守ったる!!!」
――ふー太郎、異能なし。
だがその肉体は、かつて一晩で武装グループ百人を“カレーを食べながら”壊滅させた伝説を持つ。
筋力・チン力・反応・精神力、いずれも“人間の限界を超えている”。
彼が構えを取ったとき、周囲の太陽連合員が一斉に吠えた。
「総長ォォオオオ!!」
「アニキィィイ!!」
「おにぎりチャージいきます!!!」(※10個)
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【空風巡回組・出撃】
異能ファッションモール《パラダイス#ぱんくず》。
そこに集結したのは、戦闘力と自撮り力に特化した“100人の暴走美少女軍団”。
戦闘服はミニスカ・ヒール・デコ盛りケープ。
一昔前前のバブル期を彷彿とさせる出で立ちだ。
動くたびにキラキラし、目がやられる。
先頭に立つそらんは、腰に手を当てて高笑いした。
「この世は可愛さでできてる。なら……ウチが神になるのは、当然やんなぁ?」
右手の指先が、空をくるりと指す。
「ふーくん!まずアンタから奪いに行くで!
椅子も、地位も、愛も――ウチのもんや!!!」
「セクシーダイナマイト百人組手、発進ッ!!!」
「「「ヒール(悪役)だけに、ヒールで急所いきまーす!!!」」」
「豊胸手術しに行ってきます!」
爆走する美少女軍団は、そのまま満腹区南側から太陽連合領域に雪崩れ込んだ。
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【清心会・リエラ】
旧図書館・地下の書庫。
静寂の中、リエラは手元の端末に目を落とす。
【空風巡回組、進軍開始】
【太陽連合、迎撃体制】
【スパイ・No.02、配置完了】
彼女は紅茶を一口すする。
「さて……駒はすべて、動いたわね」
彼女は戦わない。
だが戦場の“流れ”そのものを操る。
それが清心会――無血の支配者の戦い方だった。
「ふー太郎の“覚醒”……起こすには、まだ足りない。
そらんの暴走……それも想定内。
――でも、“誰か”が、裏切れば世界は変わる」
誰にも聞こえない声で、リエラは囁いた。
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【戦場・市街区画B】
空風巡回組、突撃完了。
太陽連合、全力迎撃。
ヒールが鉄骨を砕き、
パンチが車を吹き飛ばす。
戦場はもはや、アクション映画のクライマックス。
ふー太郎は最前線で、戦っていた。
異能なし、補助なし、お金あり、脂肪ありよりのあり――だが誰よりも速く、誰よりも重い拳で。
そらんの軍勢の一人が叫ぶ。
「ふー太郎、アンタなんも能力ないくせに……なんで……!!!」
その問いに、ふー太郎は一言。
「力ってな、“誰かのため”に使う時が――一番、強いんや」
バッ!!
その拳が、一撃で壁を割った。
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そして、空が震えた。
タワー・オブ・ゴッドが、また光を放つ。
「初王:記録完了。
空風巡回組・そらん、得点10」
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そらんは両手を広げ、笑った。
「ウチが……一番乗りや。ふーくん。
ウチのこと、もう無視できへんで?」
だが――その笑顔の奥に、
わずかな“寂しさ”が滲んでいた