第10章「黒き胎動、祈りは虚無に」
満腹区――中央神域。
街の喧騒が消えたような静寂の中、
“神椅子”が不穏な振動を発していた。
空に浮かぶ神の座は、誰の意思で動くのか。
それを知る者は、まだ誰もいない。
だが、確かに「意志」はそこに宿り始めていた。
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【清心会:戦略情報棟・第零会議室】
「今夜、葉月を動かす。ターゲットは“味方の心”よ」
リエラの声は冷たく、明晰だった。
吉師が頷く。「相手の“武器”が感情なら、それを利用する。
……人間の一番の弱点は、仲間を信じてることだから」
「その信頼、壊してみせるわ」
その言葉の裏には、かつての“自分自身”への皮肉が込められていた。
「で、裏切り者役は……誰にやらせるの?」
吉師の問いに、リエラは一枚の紙を渡す。
そこには――
《あめ》の名前が記されていた。
「……あの子、“スパイ”なのは分かってる。でも、心は揺れてる。
だからこそ、“裏切り者”に選ばれた瞬間、壊れるわ」
吉師は薄く笑った。「ひどい遊びね。嫌いじゃないけど」
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【作戦発動:葉月、前線へ】
廃ビルの上、黒いドレスに身を包んだ葉月が傘をクルクル回していた。
「WWWWWWWWWWWW♡ じゃあ、遊びに行こっかなぁ♡」
異能《絶笑制裁》
──対象の“罪”を見抜き、それに見合った“狂気の罰”を強制する。
今回の対象は……ふー太郎。
「アイツ、自分が“正義”だとでも思ってるんだろうなぁ……
ねぇ、“甘さ”ってさ、罪だよねぇ?」
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【太陽連合・仮設指令所】
「……これ、そらん組の奇襲じゃねぇ。もっと、ヤバいなにかが来る……」
ふー太郎は肌で感じていた。
だが、味方の中で動揺を隠せていない者がいた。
それは――あめ。
「……ふー太郎くん……っ」
彼女は手を強く握りしめていた。
その右手には、小型の通信機が埋め込まれていた。
そらん組に繋がる、“裏切り者”の証拠。
だが、彼女は迷っていた。
(もう……戻れない。でも、笑ってほしい……)
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【裏切りの瞬間】
爆音とともに、仮設指令所が吹き飛ぶ。
中枢回線が遮断されたその瞬間、
ふー太郎の隣にいた組員が、小さなナイフを抜いた。
「すまねぇ、ふー太郎……“家族”を人質に取られててよ……!」
その声に、ふー太郎は拳を止めた。
(これが……“裏切り”……か)
仲間を疑いたくない。
けれど、心は揺れた。
とっさにかばったのは――あめだった。
「なにしてんだよ、お前……」
「わかんない……でも、今だけは……あたし、あたしは味方でいたいの!!」
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【Aちゃん:最初の一手】
一方その頃、中央神域の奥――誰も知らない“地下扉”が開いた。
そこに、少女の影があった。
白いワンピースに、紅のネイル。
ピンクの髪の毛…。
Aちゃん。
彼女は静かに、胸元の豊満から1枚の黒い封筒を差し出した。
受け取った男は、無言で頷き、その場から姿を消す。
──封筒の中には、次なる“標的”の情報が記されていた。
その名は、「リエラ」。
Aちゃんは微笑んだ。
「そろそろ、“情報”ってやつが、信じられなくなる頃でしょ?」
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【神椅子:異変】
空に浮かぶ神椅子が、突如としてうねりを上げた。
誰も触れていないはずのその“椅子”が、
まるで呼吸するように、光を放つ。
その閃光の中で、誰かの“声”が聞こえた気がした。
──「望むか、裁きを」──
ふー太郎はその場で立ち尽くす。
世界が、何かを訴えかけている。
その“意味”はまだ分からない。
けれど――戦いのルールが、少しずつ狂い始めていた




