第二十幕 ピアニスト
鍵木伊里音〘〙
ストリートピアノがある場所に着くと、ピアノを弾く女性の後ろ姿と、それを眺める矢形の姿が目に入った。
〖すごい…!!本物だ…!!〗
ピアノから奏でられる音色は素晴らしいもので、あたりに何人もの観客が集まるほどだった。
「ピアノ上手だね、あの人」
『す…すごい!!きれい!!』
〈これがピアノか、初めて聴く〉
〈生の音はこんなにも綺麗なのか〉
《確かにピアノは綺麗な音だけど…あの人異次元級に上手だよ、ピアノ知ってる私たちからしても》
「うん、ピアノやってる人の中でもかなり上手い方だと思う」
『かっこいい…!!』
演奏が終わると、観客席からは感嘆の声と拍手が飛び交った。
〘ありがとうございます!〙
それに答えるようにお辞儀をする。
〖わぁ…!!〗
〖サイン…いやでも…〗
「サイン欲しいの?」
《じゃあ行っておいで〜、私たちここで待ってるから!》
〖む、無理無理!!稲さんに話しかけるなんて…!!〗
〈そんなこと言ってたら行っちゃうぞ〉
『そうだよ!行った方がいいよ!』
〖でも…!!〗
《いいから行っておいで!ほら!》
天野が矢形の背中を押す。
〖ちょ、ちょっと…!!〗
〘ん…?〙
稲は観察するように矢形を見る。
〖あ…えっと…〗
少しの間沈黙が流れる。
〈…はぁ、仕方ないな〉
八代が二人のもとへと歩いていく。
〈突然すみません。少しお聞きしたいことがありまして〉
〈稲さん、という方で合っておりますでしょうか?〉
今までの口調が全部嘘だったかのように、八代の口からスラスラと丁寧な言葉が出てくる。
〘えっ!!はい!!そうです!!〙
〈この子が稲さんのファンだそうで。良ければサインを頂けませんか?〉
〘え〜!!私なんかでいいんですか!?〙
〘もちろんもちろん!サイン書きますよ!!〙
〖ワ…!!〗
〈ありがとうございます〉
感謝を伝え笑う。
〖じっ、じゃあ、これに…〗
〘は〜い!〙
〘や〜嬉しいなぁ!こんな私にもファンがいるとは!〙
〖い、いっつも見てます、曲もっ、大好きです!〗
〘ほんとに!?わ〜〜嬉しい!!〙
〘ねね、記念に写真撮ってもいい!?〙
〖も、もちろんです!!〗
二つ返事で了承し、写真を撮る。
〘きゃ〜!やったやった〜!ファンの子と写真撮っちゃった〜!!〙
自分のファンに出会うのは初めてのようで、喜びを隠そうともしていない。
〖稲さんの…サイン…!!〗
まるで宝石を掘り当てたかのように書かれたサインをじっと見つめる。
〈良かったな〉
《毬ちゃんがこんなに嬉しそうなの久しぶりに見たかも〜》
『……』
「……」
「いやさっきの誰??」
『知らない人出てきたんだけど』
先程の普段からは考えられない丁寧さを持った八代に困惑するカッピーと弓門。
《あれ、知らなかった?》
《りなちゃん、猫被るの上手なんだよ〜》
〈嫌な言い方するな、人と話すのが上手いだけだろ〉
『マジでびっくりしたんだけど』
〈人を騙してたときは大抵あれだったぞ〉
「なんか…鳥肌…」
〈は??〉
《はーい、そろそろ次行くよ!》
天野が歩き出すと、他の4人も続いて歩いて行った。
〘…あれ?さっき一緒にいた人ってもしかして…〙




