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第十九幕 稲
〖まだ正午だから…あと何件かは回れるね〗
《じゃあ次は…》
次の行き先を言いかけたが、どこからともなくピアノの音が聴こえて立ち止まる。
『なんの音?』
「ピアノだよ、多分噴水近くのストリートピアノだと思う」
〈ピアノ…お母さんが話してくれることはあったけど、しっかりと聴いたことはないな〉
《じゃあちょっと寄ってこっか!》
『ねぇ、ちょっと…』
歩き出そうとする3人を呼び止め、カッピーが矢形の方を指差す。
〈え、どうした?〉
そこには顔を手で覆っている矢形がいた。
〖……の〗
「え?」
〖稲さんの曲だ…!!〗
しばらくの沈黙が流れる。
〈誰って??〉
《あ〜…毬ちゃんが好きなあの…》
「誰…?」
《毬ちゃんね、インターネットで音楽活動してる「稲」さんって人が好きらしくて…》
《その人が作った曲なんだと思う》
〖早く行こう!!〗
『あ、ちょっと!』
〈好きな物となると早いな…〉
「早く行かないと置いてかれるよ!」
そう言って急いで矢形の後を追って行った。