表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/443

「お願い、離れて……」「リル!」(貴博と真央)

 船の上。


「旦那も難しいこと言うよな。あの女らが飛び乗れて、しかも戻ることが出来ないタイミングでの出港ってさ。どんなタイミングよ」


 船長は、港を走ってくる真央達を見ながらつぶやく。


「おーし、来たぞ! 本当に来やがった。船を出すぞ。奴隷ども、漕げよ。最初はお前らが肝心なんだ。沖に出たら風に運んでもらうからそれまでは頑張れよ」


 船が動き出す。タラップから船が外れる。

 真央がタラップを駆け上がり、船に飛び込む。

 ミーゼルが、ルイーズが、シーナが飛び込む。

 そして、最後にクラリスが飛ぶ。すでにタラップから五メートルは離れていたが、クラリスは危なげなく甲板に着地した。


「千里さんはどこ?」


 真央は、出港作業をしている船員に聞く。


「なんのことだ? 知らないな」

「桃ちゃんは?」

「なんのことだよ。邪魔すんな」


 真央は、次から次へと船員に聞いて行く。

 そこへ、船長らしき男が現れる。


「すまないが嬢ちゃん、出港作業中はおとなしくしていてくれるか? 出港に失敗すると、座礁するかもしれないんでね」

「千里さんは? 桃ちゃんは? 恵理子さんに優香さんは?」


 真央は必死だ。


「おとなしくしてろって言ってるだろう!」


 船長は、真央の腹に蹴りを入れた。

 真央は吹っ飛ばされる。


「貴様!」


 クラリスが前に出るが、


「今は忙しいって言っているんだ。邪魔をするなら海に落ちろ!」


 真央は、立ち上がり、ここで探しても仕方がないと、船内へと続く階段に飛び込んだ。




 貴博とリルは、キザクラ商会を後にする。

 二人は、屋台を冷やかしながら、港に向かって歩いた。宿に帰るにはまだ早いし、港に行けば真央達に会えるかもしれないと。

 港に近づくと、倉庫が多く並んでいる区域に出た。人がせわしなく荷を運んでいる。

 貴博は、ふと、倉庫と倉庫の間の細い路地で何かが光ったように感じた。


「ん? 何か光ったな」


 と、その路地に近づき、薄暗い中を覗き込む。


「うう……」


 と、うめき声が聞こえてきた。


「リル、ポーションあるか?」


 リルは、道中、手に入りやすい薬草を集めて、ポーションを作っていた。


「はい。低位ポーションしか作っていませんが」

「それでいい」


 リルが差し出してきたポーションを貴博は手に取る。そして、その空間に入り込んで、ずぶ濡れの子供を抱き上げた。


「ほら、飲め」


 と言っても、子供はうめき声をあげることしかできない。よく見ると、首に金属の輪がはまっており、子供はそこへ両手の指を入れている。

 その内側にはまっている、赤い石が点滅しているのが貴博にもリルにも見えた。


「貴博さん、危ない、その子から離れて!」


 リルが叫ぶ。


「え? なんで?」


 貴博はリルを見るが、


「お願い、離れて……」


 と、リルは震えるだけだ。

 赤い石の点滅が早くなる。

 それを見て、リルは意を決する。貴博と子供の間に無理やり体をねじ込み、貴博に抱き着いた。

 ちょうどそのタイミングで、


 ドン!


 と、リルの背中側で音が響き、首輪が爆発した。

 首輪が爆発した瞬間、リルの右肩から脇にかけて吹き飛んだ。そして、子供を抱えていた貴博の左腕も。

 貴博も、壁も、リルと貴博と子供の血しぶきで真っ赤に染まった。


「リル! リルッ!」


 貴博は自分の左腕が吹っ飛んだにもかかわらず、リルに呼びかける。

 しかしリルは目を閉じたまま。ただ、唇だけがわずかに動いた。ごめん、と。


「カンタフェ! カンタフェ!」

「はい、ここに」

「グレイスに連絡はつくか?」

「つくと思いますが、その子には間に合いません」

「じゃあ、どうしたら?」

「ご主人様の左腕もそうですが、貴博様自身で治すしかありません」

「部位欠損のメガヒールを?」

「はい。そうです」


 優香達、千里達は部位欠損を治す特訓を受けている。しかし、貴博と真央は、そこまでやっていない。


「ご主人様、魔法はすべてイメージです。そう習いましたよね?」

「だけど……」


 貴博はイメージする、元のリルを。リルの腕を、肩を。


「メガヒール!」


 リルの周りに光が上り、そしてはじけ飛ぶ。次の瞬間、リルが輝き、そして、右腕から肩、脇にかけて、再生した。


「ご主人様、ご自分の腕も」

「わかった。メガヒール」


 貴博の左腕が再生した。


「はぁはぁ」

「ご主人様、休んだ方がいいです。二度もメガヒールを使えば、魔力を相当使っているはずです」

「いや、まだ子供が」


 と、貴博は、子供を見る。しかし、そこには胸から上がない子供の死体があった。


「ご主人様。その子はもう無理です」

「そうか。わかった」


 貴博は、気を失っているリルを抱きかかえて、立ち上がる。そして、その空間から出た。

 そこには、大きな音に驚いた人が何事かと集まって来ていた。しかし、タイミングが悪い。


「おい、子供の死体があるぞ」

「な、殺人か?」

「おい、兄ちゃん、あんたがやったのか?」

「おいやめろ、そいつが犯人だろう? 血だらけだぞ?」


 と、貴博から人が離れていく。


「誰か衛兵を呼んで来い。殺人だ」

「「「うわー」」」


 集まった人々が何が起きたかを察し、散り散りに逃げて行った。


「カンタフェ、どうしたらいい?」

「まずはリル様を安全な場所に。それから……、ちょっとお待ちください」


 カンタフェはこめかみに人差し指をあて、目をつむる。


「ご主人様、まずいです。真央様達が、船で連れ去られました」

「なに?」

「サンタフェが同行していますが、陸からかなり離れてしまったようです」

「サンタフェにそのまま真央たちの様子をトレースしてって」

「はい。貴博様は?」

「まずはリルだ」


 貴博は、リルを抱えたまま、港とは逆方向へ走る。そして、キザクラ商会へ。


「ロクサーヌ! ロクサーヌはいるか?」

「はい。何事……」


 ロクサーヌは血みどろの貴博とリルを見て固まる。


「どうなさいましたか?」

「僕にもよくわからない。とりあえず、リルの安全を頼む。それから、真央達が船で連れ去られた。船を出してもらえないか?」


 貴博と真央は、養子とはいえ会長の子供である。つまり、二人はキザクラ商会にとっても子供同然。


「全員、戦闘態勢! 店を閉めろ。船を出す!」

「「「はい!」」」

「リル様をこちらへ」


 貴博は、ロクサーヌに連れられて、奥の来客室へと入り、そして、そこにあったベッドにリルを寝かせた。


「では、行きましょう」


 ロクサーヌが走り出す。貴博もそれに続く。すでに店には誰もいない。


 ロクサーヌは通りを駆け抜ける。貴博はそれについて行く。カンタフェはすでに貴博のポケットの中だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ