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愛情確認薬、略して愛の飴の実証試験(貴博と真央)

「さて、みんなはどうする?」

「私、おじさまに挨拶に行ってこようかと思うんだけど」


 ミーゼルが言う。


「辺境伯ってこと?」


 貴博が聞くと、そうだとのこと。


「ねえ、えっと、クラリス?」

「なんだ?」

「クラリスってさ、今、クラリス・ローゼンシュタイン?」

「そうだぞ。それが何だ?」

「平民に嫁いだ場合の身分って?」

「平民に決まってる。それを恥じたりしないぞ。私はクラリス・ローゼンシュタインであることに誇りを感じているからな」

「クラリス、ありがとう。うれしい」

「当然のことだ」


 と、クラリスはちょっとだけほほを染める。


「ねえ、ミーゼル。ミーゼルも同じだと思うけど、そんな簡単に領主さまに会いに行けるの?」

「うーん。そういわれちゃうとちょっと」


 クラリスがフォローする。


「親戚同士っていう関係性が変わるわけじゃない。会ってくれると思うぞ」

「そうだよね。クラリス、ありがとう」


 と、ミーゼルは嬉しそうに言う。

 で、ちょっとうつむいて両手の人差し指どうしをつんつんしながら、貴博に聞く。


「旦那様は一緒に挨拶に行ってくれるのかな」


 貴博達の結婚式は、王女をはじめとして三公爵家の令嬢が平民に嫁ぐという異例中の異例だったため、親だけで、かつ、人目につかないように、王城の中でひっそりとおこなわれた。そのため、各貴族、親戚等へすらきちんと周知がされているかもわからない。特にクラリスは偽名を使って騎士兼教師として働いていた。なので、王女が結婚したなどとは、知らない者の方が多い。むしろ、王女がいたことすら。


「ミーゼルはどこまでも僕について来てくれるんだろう? 僕も同じだよ。ミーゼルについて行く。挨拶に行くよ」

「じゃあ、みんなで行くのです」


 と、真央が声をあげた。




 この街に領主の屋敷はなかった。その代わりに、街の真ん中に城が建っていた。


「えっと、城があるんだけど」

「それだけこの街が潤っているってこと。帝国第二の都市はだてじゃないの。むしろ、経済的なことだけなら、こっちの方が大きいかも知れない。正直、この街が払う税金で国が成り立っていると言っても過言じゃないわ」


 城を囲む城壁の門まで皆でやって来た。


 ミーゼルが先に歩き、門兵に掛け合う。


「私は、ミーゼル・ローゼンシュタイン。結婚して家名が変わっていますが、スノーホワイト公爵家の娘です。辺境伯にお会いできませんでしょうか」


 突然、公爵家の家名を出されて焦る門兵。


「少々お待ちください」


 と言って、城内へと走っていった。


 城から代わりにやってきたのは三人の騎士だった。


「ミーゼル様、ミーゼル様じゃないですか。結婚なされたのですね。ローゼンシュタインという家名を聞いたことがありませんが、ミーゼル様が嫁がれるということは、さも著名な家なのですね」

「いえ、平民よ。だから、私も今は平民なの。それでもおじさまは会ってくださるのかしら」

「え? 平民ですか? ちょっと今、諍いの最中でして、それでもよろしければ聞いてまいります」

「じゃあ、お願いします」


 騎士達は、城へと戻っていった。




 しばらくして、騎士が戻ってくる。


「お会いになられるということですので、ご案内いたします。ついてきていただけますか?」

「わかったわ。お願いね」


 先を行く騎士達の会話が聞こえてくる。


「隊長、元公爵家の令嬢とはいえ、今は平民なわけですよね。その平民が我々騎士にため口とはどういうつもりなのでしょう。それに、隊長も隊長です。ビシッと言ってください」

「黙っとけ。平民にはなっても公爵家の令嬢であることには変わらん。ちゃんと敬え。いくら辺境伯家に仕えているという我らであっても、公爵家ににらまれたらどうなることか」


 ミーゼルは、こめかみをぴくぴくさせるが、それで何とか抑えた。




 貴博達は、城に入り、そして、応接室に通された。そこには、辺境伯とその夫人らしき女性がいた。


「ミーゼル、よく来てくれた。大きくなったね。それから結婚したそうだね」

「はい。ご無沙汰しております。おじ様、おば様。こちらが、私の旦那様。貴博・ローゼンシュタイン様です」

「初めまして。辺境伯閣下、奥様。貴博と申します」

「そうかい。まあ、座りたまえ」


 と、辺境伯はソファに座るように促してきた。

 一方の辺境伯と夫人は、それぞれ一人掛けのソファに座るが、なぜかその距離が遠い。

 貴博とミーゼルが三人掛けのソファに座り、真央やクラリス達は、その後ろに立った。


「貴博君と言ったかね。ローゼンシュタインという家名は知らないんだが、平民なのかね」

「はい。私は後ろにいる真央と一緒にキザクラ商会会長の養子となり、そこで育てられました。ローゼンシュタインはキザクラ商会会長の家名です。それから、ミーゼルとは、帝国学園で知り合いました」

「まあ、キザクラ商会ですか? 会長ですか? もしかして、ミーゼルや後ろの方々が着ているのは、ソフィローズでは?」

「はい。おば様、さすが目ざといですね」

「私も好きなのよ、ソフィローズ。なのに、このけちんぼと言ったら」

「な、お前、どれだけ服を持っていると?」


 辺境伯と夫人がばちばちする。


「私達は、旦那様と一緒に旅に出ることにしましたが、その時に、お義父様に餞別としていただいたものなんです」


 それも、たくさん、とは言わない。


「いいわねー。とても着やすいのよね。おしゃれだし」

「ですよね。おば様でしたらスタイルもいいですし、とてもお似合いになると思いますが」

「そう、そうよね。さすがはミーゼルだわ。またキザクラ商会へ行って来なくちゃ」

「そんなに買う必要ないだろう」

「あなただって、仕事仕事って、すぐに女性のいるお店に出かけるじゃない。それこそ無駄な出費ですわ」

「な、仕事だと言っておろうが、付き合いもあるのだ」

「何が付き合いですか。仕事の付き合いならもっと相応しい場所があるでしょう。それに、お酒がなくてもいいはずです」

「なにを!」


 ぐるるるる、と、両者からうなり声が聞こえてくる。


 貴博は、後ろに立つリルに目線で合図を送る。

 リルは、ポーチから飴を一つつみ取り出して、ミーゼルに渡す。

 その一つつみの中に二つの飴が入っている。


「おじ様、おば様、にらみ合いながらで構いませんので、糖分を補給しませんか? 私の仲間のリルが作った飴です」

「ん? リル? まさか、リル・ネビュラス、ネビュラス公爵家令嬢か?」

「ご無沙汰しております。以前、一度ご挨拶をさせていただいたことがあります」

「それに、ルイーズ・シトラス公爵令嬢じゃないか」

「はい。辺境伯閣下。ご無沙汰しております」

「残りの二人は?」

「シーナと申します。父はウェッジ、男爵でございます」

「クラリスと申します。結婚前の家名はミッテンバーグです」

「ミッテンバーグ? それも知らない家名だな。ウェッジ男爵は知っておるぞ。辺境で苦労はしているみたいだが、着実な領地経営をしているという噂だ」

「ありがとうございます」

「公爵令嬢の作られた飴だ。一ついただこう」


 と、辺境伯は一粒を手に取り、口に入れようとする。


「あ、おじ様、待ってください。おば様と視線を合わせながら食べてほしいんです」

「むう。おいしい飴が」

「それはこちらのセリフです」


 と、辺境伯と夫人はにらみ合いながらその飴を口に放り込んだ」


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