倦怠期の夫婦の愛情確認薬~みんなで平等に一緒にやるです!(貴博と真央)
馬車は進む。南に向かって。
「ねえリル、あの惚れ薬だけどさ、リルの最初の作品だから、大事なんだけど、惚れ薬って、相手の気持ちを無理やり変えようってことだよね。それってさ、ちょっとねって思わない?」
「うん。私もそう思う。だから、あんまり使いたいと思わないんだ。ギルドのお姉さんに売っちゃおうって思ったけど、今思うと、売れなくてよかったのかもって」
「でも、夫婦とかカップル同士で愛情確認に使うんだったらどうなのです?」
真央が口をはさむ。
「「「「……」」」」
「リル、メルシーはどうやってその薬を使ってた?」
ミーゼルがリルに聞く。
「砂糖とベリーをこの薬で煮て、ジャムを作るって言っていたわ」
「お酒に垂らしてもいいのかしら」
「そのままでもいいんだと思う、けど」
「じゃあ、今晩、貴博とその薬を垂らしたお酒で乾杯したら、どうなるのかしら」
「「「「……」」」」
貴博は思う。怪しい薬を飲ませるのはやめてほしいと。
「リル、中和剤を作ってほしいんだけど」
と、貴博はリルに頼む。
「……はい、そのうち」
リルは残念そうにつぶやいた。
「ねえリル、その、惚れ薬って言う名前が悪いんじゃない? 倦怠期の夫婦の愛情確認薬とか……余計に怪しい名前になっちゃった」
貴博の提案にリルが顔を赤くする。
「なんか、おじさん臭いわね。でも、どういう形がいいと思う?」
ミーゼルが聞いてくる。
「うーん、飴とかどうかな。二つを一つの袋に包んで、夫婦で一個ずつ口に含むとか?」
「いいアイデアだと。ただ、この薬、原液で使うべきか、薄めて使うべきか、どのくらいまで薄めたらいいのか、など、検討が必要です。貴博さん、実験に付き合ってくれますか?」
リルはもじもじし、途中から敬語になる。
「ちょっと、リル! 実験には私も参加させなさいよ。対象は複数あった方がいいでしょ?」
「若い体に副反応があるといけないから、まず、私と旦那様が試そう。濃いやつでな」
「ちょっとどさくさに紛れて、何主張してんの、いつも歳のことを言うと怒るくせに」
「リル、それ、捨てないか?」
「「「「「ダメです」」」」」
「真央、何とか言って」
「あははは。みんな仲良しで楽しいです。みんな平等に一緒にやるです」
「一緒に? やる?」
貴博が疑問の声をあげる?
「「「「「ぼふん」」」」」
真央を除く五人の顔が一瞬で真っ赤になる。
「え?」
真央が皆の反応に気づく。
「あ、あのそういうことを言ったんじゃないのです。一緒にって、同時にってことじゃななくてあの、えっと……やるって、実験を、実験をなのです。順番にです」
真央の顔も真っ赤になってしまう。
貴博は、真央の頭をぽふぽふした。
「わかってるよ、真央」
「よし、貴博が同意した。計画に入る」
と、ミーゼルが声をあげる。
「そんなの、気持ちの問題なんだから、千倍でも一万倍でも薄めればいいじゃん。個人の感想ですとか、当社比とか書いておけばいいんだって」
「元研究者とはあるまじき……」
真央がつぶやく。
「ま、真央?」
あはははは……
旅は始まったばかり。馬車は笑い声と共に進んでいく。
貴博達は、街に寄っては冒険者ギルドへ行き、貼り紙を張らせてもらう。
「千里さん、桃ちゃん、恵理子さん、優香さん、冒険者ギルドまで連絡を。貴博と真央」
と。だが、こっちの言葉で書いてしまう。これが災いを呼ぶ。
何日もかかり、いくつもの街に寄り、大陸南端の街にたどり着く。
「おっきな街が見えてきたです」
真央は指を差して言う
「それに、海です。海が見えます! 潮の香りです!」
久しぶりの海に大興奮だ。真央は、かつて、海に囲まれた街で過ごしていた。
「真央、海が好きなの? っていうか、見たことあった?」
内陸の帝都で過ごしていたのに、と、ミーゼルが聞く。
「ないですけど、好きなのです」
「あの町は、マリンスノーと言って、マリンスノー辺境伯が治めている街なの。農業も漁業も貿易すら盛んなのよ」
「魚介類、楽しみです」
「マリンスノーと、スノーホワイトって似ているね」
「辺境伯は、親戚にあたるの」
「そうなんだ」
馬車は城門へと近づく。
「おっきい!」
真央が見上げる。
「そうなの。この街は帝都並みに大きいの。人口も多いしね」
城門で冒険者カードを見せて通り過ぎる。
「いつものように冒険者ギルドへ行って、それから宿を探そう」
「「「はーい」」」
「すみません、素材の換金をお願いします」
「はいはい」
ギルドの受付嬢がやってくる。
「えっと、ホーンベアですね。後は、ホーンラビットとホーンウルフですか。はい。すべて買い取ります。冒険者カードをお願いします」
貴博は、全員分のカードを受付嬢に渡す。
「プラチナランクパーティですね。まあ、ホーンベアを討伐するのに、ラビットもウルフも出てきちゃいますからね。仕方ないですね」
と言って、処理をしてくれた。
「それにしても、皆さん、お金持ちですね」
「え?」
お金を稼いだ記憶がない。
「メルシー・タリス様から振り込まれていますよ。すごい金額が」
惚れ薬関係だな、と、あたりをつける。実際には、オークションで売れたお金をギルド受付嬢がメルシー名義で振り込んだのだが。
まあ、ありがたくいただいておこう。返しにも行けないし。
「そうでしたか。教えてくれてありがとうございます」
「えっと、これが素材の対価です。これ以上にお金が必要なら引き出しますか?」
「いや、いいです」
「それでは、もしよかったら、プラチナランクの依頼もたくさんありますから、ぜひ、受けてくださいね」
「あの、依頼をしたいんだけど。というか、掲示板に貼り紙を貼らせてほしい」
「いいですよ。お金かかりますけど」
「お願い」
と、これまでにしてきたように、貼り紙を貼らせてもらった。
「さて、おすすめの宿屋はある? 一人部屋一つと、六人部屋一つなんだけど」
「それなら、向かいの宿が冒険者に人気ですよ。ご飯もおいしいし量も多いらしいです」
「ありがとう」
貴博達は、ギルドから出た。
それを見計らって、一人の冒険者が立ち上がり、貴博が貼った貼り紙をみる。
そして、
「さっきのパーティ、何ランクなんだい?」
と、受付嬢に聞く。
「聞こえちゃったなら仕方ないですけど、基本的には内緒です」
「そうかい。わかった」
その冒険者もギルドを出て行った。
向かいの宿屋へ行って、部屋の確保をする。
しかし、貴博だけ別部屋にしようとして、却下される。しかも、七人部屋なんて中途半端な部屋もなく、結局、十人部屋を一つ借りることになった。貴博は、メルシーにお金をもらっていてよかったと、しみじみ思った。




