惚れ薬、売っちゃうの?(貴博と真央)
冒険者ギルドにて。
「すみませーん」
「はいはーい」
「魔物の討伐証明部位を持ってきたのと、ホーンベアの素材や食材を買い取ってほしいのですが」
「えっと、あなた達、この様子だと、森に入った?」
「入りました」
「で、戻って来たと?」
「はい。今」
「ということは、メルシーの依頼を達成したのね?」
「えっと、お姉さん?」
「あ、ごめんなさい。換金ね。はいはーい」
受付嬢はスキップして奥へと入っていった。
「はい。これが報酬です」
と言って、お金の入った袋を貴博に渡した。
「えっと、ご機嫌そうですね」
「そんなことないわよー」
と、にやけた顔を押さえられない受付嬢がいる。
「もしかして、メルシーが何を作りたいか知っています?」
ギクリとする、受付嬢。
「もしかして、それを知っていて、僕らに依頼を受けさせました? 報酬のないこの依頼を」
受付嬢は目をそらす。
「お姉さん、その薬を分けてもらうつもりですか?」
「な、何のことかなー」
頭の後ろで手を組んで、口笛を吹く受付嬢。
「お姉さん、これだけは答えてください。その薬、使うつもりですか?」
受付嬢は逆切れる。
「いいじゃない。私だって夢を見たいわよ。私だってそれなりの歳なの。こんな仕事をしていても、いい出会いなんてないの。冒険者は下品だし、ギルマスは脳まで筋肉だし。あんたみたいなリア充に私の気持ちはわからないわよ。私は王子様をゲットするのよ」
「はあ、できるといいですね、惚れ薬」
と、貴博が言うと、受付嬢とのやり取りに聞き耳を立てていた冒険者(女性)がガタタタタと、立ち上がった。
「やばい。行こう」
貴博達は、急いで冒険者ギルドを出た。
冒険者ギルドの中では、殺気だった冒険者(女性)に囲まれる受付嬢がいた。
メルシーとリル、そしてシーナは、メルシーの小屋にやって来た。
「じゃあ、まず、オタマジャクシをさばくわ。手伝ってくれる?」
と、メルシーはリルとシーナに声をかける。
リルとシーナは顔をフリフリする。
「え? 手伝ってくれないの?」
「それ、触りたくない」
「でも、これをさばかないと惚れ薬できないわよ?」
「私、惚れ薬が欲しいわけじゃないんですけど」
「そうかもだけど、早くやっちゃわないと、教えられることも時間的に少なくなっちゃうよ」
「……仕方ないか。わかりました」
二人はメルシーに教わりながら、オタマジャクシをさばいた。
オタマジャクシの腹を裂き、内臓を取りだす。塩で身をよく洗ってぬめりを取り、腹を開いて乾燥。乾燥には魔法を使ってメルシーに驚かれた。
メルシーは、二つの小さな竈のそれぞれに小さめの釜を置き、水を入れて火にかけた。
「惚れ薬の材料は、これとこれとこれ、そして、これ」
と言って、次から次へと材料を並べていく。
「これらを沸騰した鍋に入れます。この時に、さっきのオタマジャクシの干物も入れます。これを、煮詰めていくんだけど……」
メルシーは二人を見て、
「二人は、魔力を注ぐってわかる?」
魔力操作を知らないとできない。よって、それをできる人は貴博の周りにはたくさんいるが、世の中にはほとんどいない。
「はい。わかります」
「私もできます」
メルシーは目を見開いて驚く。
「え、驚いた。そんな人がここに二人もいるなんて。ねえ、二人とも私と一緒に魔女をやらない?」
「やりません」
「私達は、旅をするんですから」
「でも、リルは興味あるって言ったじゃん」
「旅をしながら、できることをします」
「そっか。わかったわ。旅をしながらでも魔女になれるように、基礎を教えてあげるからね」
メルシーは、かき混ぜる棒を二本もってきて、一本をリルに渡す。
「これはね、超貴重金属、ミスリルを使った棒なの。ミスリルは魔力を通すの。だから、魔力をこの棒に伝えながらかき混ぜる。これが製薬の基礎よ。やってみて」
と、一方をメルシーがかき混ぜていく。もう一方はリルだ。
すると、釜に入れた素材が少しずつ溶けていった。オタマジャクシの干物すら。
リルは、魔力を注いでいく。どんどんと。すると、魔力の欠乏が近くなってくる。
「シーナ、ごめん、変わってもらっていい? ちょっと魔力を注ぎすぎたみたい」
「わかった」
シーナは、リルからミスリルの棒を受け取り、同じように魔力を注いでいく。
しばらくすると、シーナもミスリルの棒から手を離す。
「メルシー、もうだめ」
「そう? じゃあ、火を消すわね」
「ちなみに、魔力ってどれだけ注げばいいの?」
「まあ、できるだけとしか言えないわ。だから、二人が魔力を注いだこの薬が、二人が作れる最高品質、ってことになるわ。まあ、私はまだまだ注ぐけどね」
と、メルシーはかき混ぜ続ける。
実際には、リルとシーナの方が圧倒的に多量の魔力を注いでいる。時間当たりの注ぐ魔力量がメルシーより多くて、二人は魔力の欠乏を起こしただけである。
「私も、こんなものかしら」
と、メルシーも額の汗をぬぐう。
「メルシーもできたの?」
「できたわ。じゃあ、これを瓶に詰めるわよ。瓶はサービスしておくわ」
リルとシーナは、煮詰まった惚れ薬を瓶に入れていく。ちょうど十本分になった。
メルシーも同じように十本の惚れ薬が出来た。
「メルシー、これ、本当に効くの?」
「効くわよ、実験したことないけど」
「「……」」
「みんなのおかげで、思いがけず早くできちゃったわ。それじゃ、魔女見習の二人に、製薬の基礎知識を教えてあげるわ。まず、この本、それにこの本、この本とこの本」
と、メルシーは、本を積み上げていく。
「この辺りは、あなた達にあげるわ。私、もう覚えちゃったし」
「これは?」
「体力回復薬と魔力回復薬が載っている本、こっちが状態異常を解消する薬が載っている本、虫よけとか魔物に効く薬の本と農業の防虫や肥料とかの本、それから、エンチャントやデバブの薬の本よ」
「これくれるの?」
「私、全部覚えているからいらないわ」
「ありがとう」
「それと、その釜とミスリルの棒も持って行っていいわ」
「うれしい。ありがとう」
「ところで、あなた達の作った惚れ薬、私のより濃いわね」
「どうしてかな」
「わからないけどね。うまくできているといいわね」
「うん。使わないけどね」
「そう。まあいいわ」
と、メルシーはベルを鳴らす。
メイドが部屋にやって来た。
「この瓶の中身にベリーと砂糖を入れて煮詰めて、ジャムを作ってくれる?」
「はい。かしこまりました。ところでこれは例の薬ですか?」
「そうよ。今できたの」
メイドは顔を明るくする。
「効くのですか?」
「効くわよ。これから試すんだけどね」
これから実験か、と、メイドは顔を曇らせた。
そこへ貴博達が帰ってくる。
「あれ、できたの?」
「うん。これ」
と、リルが十本の薬を見せる。
「それ、どうするの?」
「どうもしない。使わないし」
「そっか。なんか、ギルドのお姉さん達が欲しそうな顔をしていたから、明日にでも売ったら?」
「売れるといいけど」




