自称魔女の依頼~そんなのオタマジャクシより危ないじゃん(貴博と真央)
真央は、森から出たところで馬車を止める。
「もう追ってこないです?」
「そうみたいね」
ミーゼルが馬車から顔を出して後ろを確認する。
「貴博―、どう?」
と、ミーゼルが声をかける。
「追ってこないよ。というか、振り切った。あきらめたんじゃない?」
「そう。よかったわ」
「あははは、面白かったじゃん」
「もう。気持ち悪かったわよ」
「ところで、どうするです?」
「森から出ちゃったから、森を迂回して、南の街に行こうか」
「はーい」
貴博は、御者台に乗り、真央から手綱を受け取ると、馬車を南の街に向けて進めた。
さて、サンショウウオ達は、決してあきらめたわけじゃない。北に向かって前進した。大量のサンショウウオが。森を出て、さらに北へ。
貴博達は知らない。帝都が大量のサンショウウオの侵攻に、必死であらがったことを。帝都の皇帝、それの対処を任された公爵も知らない。まさか自分の娘達がこれを起こしたということを。帝都へと続く街道はしばらくぬめぬめに覆いつくされた。
のんびりと馬車を進めると、飽きてくるメンバーが出てくる。
「私、歩く」
「私も」
と、ミーゼルやルイーズ、リルにシーナまでもが馬車から降りて歩き出した。しかも木剣をもって。
「やっぱり一日一度は木剣を振らないと落ち着かないのよね」
とはミーゼル。
「ミーゼル覚悟―」
と、ルイーズが木剣で切りかかる。
「お、来なさいルイーズ」
と、二人は木剣を合わせながらついてくる。
「私達も!」
と、リルとシーナも木剣を打ち合い始めた。
さらに馬車を進めると、街が見えてくる。
「おーい、そろそろ街だからねー」
と、貴博が声をかけると、ミーゼル達は木剣を馬車にしまって、馬車と一緒に歩いた。
街の門では、門兵に冒険者カードを見せて通してもらう。年齢の割に、プラチナであることに驚かれたが。
「とりあえず、肉があるからギルドに行こうか」
「「「はーい」」」
冒険者ギルドの表に馬車を止める。
クラリスを留守番にして、貴博達はギルドへ入っていった。
「こんにちは」
「こんにちは。見ない顔ですが、今日この街にこられたのですか?」
「はい。旅をしていて、今日、この街に入りました」
「ようこそ、タリスの街へ。で、どのようなご用件です?」
「はい。ホーンウルフの買取をおねがいします」
「はい。いいですよ。こちらに出してください」
貴博をはじめ、真央やミーゼル達がホーンウルフの角や毛皮、肉などを置いて行く。
「結構ありますね。それでは、冒険者カードをお願いします」
「全員分いります?」
「はい。必要です」
「クラリスから借りてくるよ」
「私が行くー」
真央がギルドを出て、また戻って来た。
「はい。七人分ですね。ポイントは均等割りでいいですか?」
「はい。それでいいです」
「それでは、毛皮もお肉も状態がよかったので、銀貨十枚になります。それでは、冒険者カードをお願いします」
貴博達は、全員分の冒険者カードを受付のお姉さんに差し出す。しかし、お姉さんは、それを受け取らずに固まっている。
「あの、お姉さん?」
「あ、ごめんなさい。えっと、皆さんプラチナなんですか?」
「はい。そうです」
「で、見る限り、パーティランクもプラチナだと」
「はい。そうです。それがえっと……」
貴博がお姉さんの次の言葉を待つ。お姉さんは、ふう、とため息をついて言う。
「あの、プラチナランクの皆さんが、シルバーランクの依頼を取るの、やめてもらえませんか?」
「え? えっと、どういうこと?」
「ホーンラビットやホーンウルフなんかは、カッパープラスランクだったり、シルバーマイナスランクのような初心者を終えたくらいの冒険者がいるパーティのちょうどいい稼ぎなんですよ。それをプラチナランクが狩ってしまうと、彼らの稼ぎがなくなるんです。プラチナランクの皆さんは、それ相応の依頼を受けてください」
「あの、えっと、ごめんなさい?」
「何で疑問形ですか。わかっていませんね? ほら、あそこの掲示板の一番左、あそこにあるのがプラチナランクが受けるべき依頼です。常設依頼はやめてくださいね」
「僕ら、お金を持っていないんだけど」
「ですから、プラチナランクが受けるべき依頼を受けてください。そうですね。これなんてどうですか?」
と、お姉さんは一枚の依頼書を差し出す。誰も受けず、どうしたものかと思っていた依頼だ。
「あの、とりあえず、ホーンウルフの報酬をください」
「んもう。はい。銀貨十枚。で、この依頼、受けるの?」
お姉さんは依頼書をひらひらさせる。
「うんと、その前に、僕らも依頼を出しても?」
「お金がないのに?」
「う、ごめんなさい」
「で、これ受ける? 誰も受けてくれなくて今日が期限切れなの」
「依頼内容を教えてください」
「難しい依頼だけど、やることは単純よ。北の森の中にある湖に行って、オタマジャクシを五匹、生きたまま捕まえてくること」
「オタマジャクシ、どうやって生きたまま運んでくるんですか?」
「今なら、酒樽を銀貨十枚で売ってあげるわ」
「……」
「ねえ、貴博。もう、この街出ようよ。オタマジャクシなんていいよ」
と、ミーゼルが言う。
「そうなのです。オタマジャクシはいいのです」
と、真央も言う。
「そうだね。次の街に向かおうか」
「あ、え、ちょっと待って、あの、これ、受けてほしいんだけど」
「えっと、僕ら、オタマジャクシにトラウマがあって。あまり関わりたくないというか」
「トラウマがある? もしかして、オタマジャクシ、見たことがあるの? 湖にいるってことはわかっていても、見たことのある人は少ないのよ。そもそも、誰も捕まえ方すらわからなくて、手に入らないのよ?」
「……何でそんなものが必要なんですか」
「そんなものって……まあいいわ。依頼主は、この街の領主の娘、自称魔女よ」
「みんな、帰ろうか」
「待って待って、何で帰るのよ」
「自称も怪しければ、魔女だって怪しいでしょ。オタマジャクシより危ないじゃん、きっと」
「そんなこと言わないで。メルシーはいい子なのよ。ちょっと変わっているだけで」
「もういいよ。それで」
「メルシーが言うには、新しい薬を作るために、オタマジャクシが必要だって。失敗した時の予備も必要だから五匹欲しいって」
「なんの薬なんですか」
お姉さんがニヤリとする。
「あ、気になって来たでしょ」
「……」
「ちょっと気になって来た」
と、リルが言ってしまう。
「でしょ。じゃあ、受付しちゃうね」
と、お姉さんは受付を終えてしまう。
「じゃあ、依頼主のところへ行ってね」
「はーい」
リルが答える。
「はい、これ、紹介状。これ持って行ってね」




