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旅の始まり(貴博と真央)

 貴博は、真央と一緒に御者台に座り、馬車を南に進めている。残りの五人はというと、馬車の中で荷物のチェックだ。


「なあ、旦那様、この大鎌ってどうやって使うんだ? バランスが悪くて振りにくいったらありゃしないんだが」


 貴博は、クラリスに敬語を使うのをやめてもらった。十歳も年上だし、元担任だし、何より、妻なのだ。敬語なんて使う必要がない。


「僕も昔習ったっきりだったから、うまくは使えないけど、どちらかというと、刺して引き裂くイメージかな。後は、その背ではじいたり牽制したり」

「後で振ってみていいか?」

「いろいろ試してみてよ。それも人数分あるんでしょ?」

「うん。そうする」


 馬車に戻ったクラリスは、「この片刃の槍もよくわからんな」などと、武器のチェックに余念がない。

 一方で、ミーゼルをはじめとして貴族家御令嬢達は、


「あー、これ、ソフィローズ。全部ソフィローズだよ。すごい贅沢」

「私、着てみてもいいかな」

「え、貴博に覗かれちゃうよ」


 そんな会話が聞こえてきて、貴博は沈黙しつつ、前方を注視する。決して振り返るまいと。


「うわっ、見てこのパンツ、生地少なっ! こんなのをはいたらお尻丸見えじゃん」

「そ、それは私のだ! お前達おこちゃまはそっちのクマちゃんをはいておけ!」


 クラリスが叫ぶ。


「何でクラリスだけそれなのさ」

「シャルロッテお義母様から、勧められて、用意してもらった……」

「あー、シャルロッテお義母様っぽいわ。大人っぽくって超美人だもんね」

「そういえば、そら義兄さま達子供が結構大きいのに、お義母様達はみな二十歳前後かと思うくらいきれいだったが、いい化粧品とか使っているのだろうか」


 二十代後半に突入するクラリスが御者台に顔を出して当然の疑問を口にする。


「旦那様、お義母様達の若さの理由って知っているか?」

「ごめん。今気づいた。そういえば、そうだよね。そら兄様達だって、二十歳くらいだったのに」

「実は、お義母様方の中にいて、自分が一番年上にみえそうで嫌だったのだが」

「大丈夫だよ。クラリスはとてもきれいだ」

「なっ!」


 クラリスは顔をあからめてもじもじする。


「あははは、そういうクラリスがかわいい。ほら、クラリスは若いよ」

「旦那様、忘れていると思いますが、私の方が年上ですよ。そんな年上みたいな発言は」


 もちろん、精神年齢は貴博の方が上だ。よって、二十台後半なんて気にならない。かつての千里のような年齢だ。


「そうだった。クラリスが時々そうやってかわいくなるから悪いんだ」

「も、もう……」


 クラリスは馬車の中に戻り、クマちゃんパンツを手に取った。



「あ、あれ? この大きな箱は?」


 ミーゼルが箱を開ける。


「……なんでこんなものが」


 ルイーズがそれを覗き込んで固まる。


「なになに」


 リルとシーナも覗き込む。

 疑問を持っている四人に対して、答えたのはカンタフェだった。


「皆さまはそれを着られたことがないかもしれませんが、メイド服は最強なのです。いろんな意味で」

「はい。旦那様にめでられるときも、戦闘するときもです」


 サンタフェが補足する。


「「「「……」」」」

「私達も、今は旅の途中ですので、このように皆様と同じく団服を着ていますが、この下はメイド服です」


 そういえば、団服の下半身部分が膨らんでいる。


「あの、その、旦那様にめでられるというところを詳しくお願いします」


 シーナが顔を赤らめて聞く。


「シーナ、よく聞いた」


 と、ミーゼル。


「メイド服はすべての男性を魅了します。特に、この膝上までのソックスと短く広がったスカートの間の生もも、ここを絶対領域と呼ぶようですが、メイド服の最強防御と無防備な生足とのギャップが萌えるそうです」


 貴博は思う。好みの問題じゃないかと。

 カンタフェとサンタフェは団服を脱いでメイド姿になる。


「見ていてください」


 と、二人はくるっと回転する。スカートが広がり、そして、中のピンクのレータードがちらっとする。


「「「「おおー」」」」


 聞き耳を立てて聞いていたクラリスは、そっとメイド服に手を伸ばす。


 バシン!


 ミーゼルがクラリスの手をはたく。


「クラリスのそのお尻丸見えのパンツにメイド服はダメでしょう。無防備部分が多すぎて萌えないわ」

「な、私だってクマちゃんはきますよ。クマちゃん」

「え、アラサ……」

「ミーゼル、ちょっと表に出ろ! 大鎌の練習をしたいと思っていたんだ」

「いやー」

「「「あはははは」」」




 御者台で真央は貴博の肩に頭を寄せる。


「みんな仲良しで楽しいのです」

「ほんとだね。真央。仲間がいっぱいできてよかったね」

「仲間ですし、同じ貴博さんの妻なのです」


 チュッ!


 と、唇を合わせる。


「あ、こらこら、ちょっと目を離したすきに―」


 ミーゼルが顔を出してくる。


「私なんて、今、命の危機にあるんだから」

「自業自得なのです」


 と、真央は笑った。


「なあ、旦那様、次の街に行く前に、冒険者らしく森に入って、素材集めをしないか? 私も大鎌の練習をしてみたいんだが」

「そうだね。じゃあ、避けよう思っていたけど、一年生の時に実地訓練をした森に行ってみようか」

「そうしてくれると嬉しい」

「じゃあ、湖まで行って、そこでキャンプをしよう」


 貴博は、森へと馬車を進めた。




 森を抜け、湖のほとりまでやって来た。


「僕はキャンプの用意をしておくから、みんな行ってきていいよ。魔物も倒して持って来てくれたら、こっちでさばくから」

「「「はーい」」」


 妻達は皆、なぜかメイド服に団服という格好をしている。真央までもが。

 貴博はあえて突っ込むような真似はしない。


「じゃあ、いってらっしゃい。危なくなったらファイアボールね」


 貴博は、火を起こし、キャンプの用意をする。と言っても、ほぼほぼやることがない。火も魔法で起こせてしまうのだ。


 暇になったので、貴博自身も荷物の確認を行う。

 武器、服、食料……そして、


「あ、これ!」


 貴博は釣り具を手に入れた。


「すごい、グレイス、釣り具までくれたんだ。っていうか、あったんだ。ま、竿が木なのは仕方がないとして、リール、すごいな。この世界じゃこんなもの作る技術ないだろうに。それに、ジグヘッドか。わかってるなー。しかし、やっぱり糸はナイロンじゃないか」


 など、ぶつぶつ言いながら、釣りの準備をする。


「ん-、えさえさ、あ、レイ母様からもらったイカゲソ」


 貴博は、乾燥したイカゲソを一本、何とかジグヘッドに取り付けた。



 貴博は水辺に立ち、そして、第一投をする。


 ヒュー……ポチャン!


「意外とできるもんだな」


 と、リールを巻く。くるくると。

 すると、


 ガツン!


 即、あたりがくる。


「すれてねー。入れ食いなんじゃ、これ」


 貴博は、久しぶりの魚とのやり取りを楽しむ。


「糸がナイロンじゃないから怖いなー」


 と、膝を使って魚の勢いを殺す。

 竿をしゃくっては糸をまく。


「おおっ!」


 意外と抵抗が大きくて、ちょっとうれしくなる。

 慎重に慎重にやり取りをし、ようやく、魚が見えてきた。

 頭が大きくて丸い。


「よいしょ!」


 と、貴博は魚を取り上げる。


「……」


 針にぶら下がっていたのは、三十センチはありそうな大きな丸い頭、ひょろっとしたしっぽ。


「オタマジャクシじゃん……」


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