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貴博、グレイスの記録まであと十四人(貴博と真央)

 貴博と真央がいつまでも抱き合っているので、式が進まない。

 神父がやれやれ、って顔をしていると、外から声がかかる。


「ちょっと、真央! 貴博! 後がつかえているんだから、早くしなさい!」


 ミーゼルである。


「「え?」」


 と、貴博と真央が教会の入り口を見ると、ウエディングドレスをまとった五人の花嫁がいた。


 クラリス達五人は、


「もう、待てません」


 と、皇帝をはじめとした父親を置いて、バージンロードを歩き始めた。


「え、えっと、真央、どうする?」

「んー、仕方ないのです。ここは順番なのです」


 真央は、場所を譲る。

 結局、クラリス、ミーゼル、ルイーズ、リル、シーナの順番で、指輪をはめ、キスをした。


「あーあ、千里さんが見たら、どんな顔をするかなー」




 この突然の結婚式から旅に出る日まで、七人はグレイスの屋敷に住んだ。

 当然、おりひめ達の特訓付きで。

 そして、旅に出る前日、七人はグレイスに呼ばれる。

 七人でグレイスの部屋に行くと、そこには、グレイスの他、二十人の妻がそろっていた。


「貴博、明日この街を立つのだろう?」

「はい。そのつもりです」

「私から皆に餞別だ」


 グレイスは大きなテーブルを指さす。

 そこには、団服と刀が七人分置いてあった。


「そのほかのナイフや薙刀、大鎌なんかは、馬車に入れてある。明日から使ってくれ」


 次いで、ソフィリアが口を開く。


「団服の上に着る防寒着や普段着、下着など衣類も全部馬車に入っています」


 シャルロッテも続ける。


「当面の食材や野営道具などもすべて積み込んであります」

「お父様、お母様方、何から何までありがとうございます」

「「「「「「ありがとうございます」」」」」」

「それじゃ、今日は最後の夜だ。君らの旅立ちを祝して、飲もうじゃないか」

「「はい」」


 と、返事をするのは、貴博とクラリス。


「「「「「……」」」」」


 以前飲んですぐに寝てしまった真央と、飲んだことのないミーゼル達。


「さ、あなた達も、乾杯しましょう」


 と、ソフィリア。


「そうだよ。お祝いなんだしさ」


 リリィもグラスを勧めてくる。


「今日もイカを用意してあるぞ」


 と、レイはすでにイカゲソを咥えている。


 皆にグラスがいきわたったところで、グレイスが言う。


「君達は、人を探しているんだよね。絶対会える。希望を持っていれば、あきらめなければ絶対に会えるからあきらめるな。それと、みんな一緒にいろ。離れるな。いつまでも」


 そういうと、グラスを掲げた。


「カンパーイ」

「「「カンパーイ」」」

 



「あの、パパ」


 貴博がグレイスに顔を寄せる。ちなみに、クラリス達がいるので、パパ呼びだ。


「何?」

「パパは、僕らの探している人達のことを知っていますよね?」

「いや、知らない。誰のことだ?」


 グレイスは目をそらす。わかりやすい。と、貴博は思う。


「まあ、話せない事情があるということを理解しておきます。ですが、希望を持てました。ありがとうございます」

「いや、僕はできることをしただけだ。これからは、君達が自分達で頑張らないといけない」

「はい」


 グレイスは、貴博の肩に頭を寄せて眠ってしまった真央を見て、


「結婚もおめでとう。ずっとこの時を待っていたんだろう?」

「はい。真央は、僕にとってかけがえのない女性ですから」

「貴博、僕からの助言を一つ。全員を平等に愛せ。いいな」

「この一夫多妻制っていうのになれるかどうかわかりませんが。結婚したんです。全員を大事にしますよ」

「そうですよ。旦那様。私が十歳年上だからって、捨てないでくださいよ」

「捨てる? クラリスも一緒にいてくれなきゃ困る」

「旦那様。末永くよろしくお願いします」

「こちらこそ」

「あー、私達も混ぜて」


 ミーゼル達がやってくる。

 そこでグレイスが発言する。


「はいはい。お開きにするから、みんな続きは部屋でやりなさい」



 貴博は、眠ってしまった真央をお姫様抱っこし、グレイスの部屋を出る。クラリス達も後をついて行く。


 七人はいま、同じ部屋で寝ている。その部屋へ入ると、貴博は真央をベッドに寝かせる。

 クラリスは、部屋のテーブルについて、貴博においでおいでをする。

 六人でテーブルを囲む。


「旦那様。探しているという人とは?」

「ああ、僕と真央のかけがえのない友人なんだ」

「女性です?」

「……ああ」


 貴博がそう答えると、ミーゼル達が眉を顰める。


「私は旦那様にどこまでも、何があっても、どんな理由があろうとも、ついて行くと決めました。いいですよね?」

「ああ。クラリス。僕の方からお願いしたい。そばにいてくれ」

「あー、私だってくっついて離れないもん」


 ミーゼルが張り合う。


「あははは。みんなで旦那様を支えようじゃないか」

「「「「はーい」」」」


 十歳年上で、元担任のクラリスが、よい取りまとめ役になりそうだった。貴博は、仲良くやれそうで安心をする。


 グレイスが言っていた。平等に愛せと。


「ルイーズ、リル、シーナもよろしくね」

「「「はい」」」

「さあ、明日は早いから、もう寝ようか」


 七人は、幅広のベッドに並んで眠りについた。




 翌朝、玄関前で、グレイス達に別れの挨拶をする。


「お父様、お母様方、これまで十六年間、ありがとうございました。それでは、僕達の目的を果たすため、旅に出ます」

「ちょっと待ってくれ」

「え?」


 と、挨拶の腰を折られた貴博が疑問の顔を浮かべる。


「カンタフェ、サンタフェ」

「「はい」」

「お前達、どうするんだ?」

「お許しいただけるのであれば、貴博様について行きたいと思います」

「そうか。実は、そう頼もうと思っていた。何かあったら、つなぎをして欲しい」

「はい、かしこまりました」

「それでは、カンタフェ、サンタフェ、今日より、貴博と真央に仕えよ」

「「はい」」

「ということだから貴博、二人のこともよろしく頼む」

「よろしいのですか?」

「二人が行きたいと言っているんだ。連れて行ってくれ」

「はい。こちらとしても助かります。カンタフェ、サンタフェ、ありがとう」

「「はい、よろしくお願いいたします」」

「それじゃ、困ったことがあったら、カンタフェ達に言うか、キザクラ商会に駆け込むかしてくれ」

「ありがとうございます。それでは。行きます」

「お父様、お母様方、ありがとうございましたです」


 と、真央も別れを告げた。




 馬車は帝都を出て、進む。


「貴博さん、どっちへ行くのです?」


 真央が貴博に聞く。


「ごめん、全然考えていなかった」

「……」


 真央がジト目をする。


「真央だって、考えてなかったじゃん」

「そうなんですけどお」

「旦那様、どっちにその人達がいるかもわからないのですよね? 手掛かりは何もないのですよね?」

「そうなんだよ。クラリス、どうしたらいいと思う?」

「とりあえず、人の街をひとつずつ回るしかないかと」

「だよね。その場合はどうするの?」

「この国は、北側が森なので、まずは、南の街を回った方がよろしいかと」

「わかった。そうしよう」


 御者台でクラリスと人探しのための方向性を練っていると、馬車の中からミーゼルが声をかけてきた。


「貴博、えっとね」

「どうしたの? 改まって」

「あの、お金が入ってない」

「え?」

「たくさん食材とか衣類とか武器とか入れてくれていて感謝しているんだけど、お金がない」

「ミーゼルのお小遣いは?」

「ないわよ。食べさせてもらう気満々だったんだから」

「ルイーズは?」

「持ってないわ」

「私もないです」「私もです」


 と、リルとシーナも言う。


「え、どうしたら?」


 と、貴博が言うと、クラリスが笑いながら言う。


「私達はプラチナランクの冒険者でしょう。何とかなりますよ」

「何とかなるならいいか」

「まあいいけどね、困らないなら」


 と、ミーゼルが引っ込んでいった。


「お金を稼ぐにいい方法ってあるかな。一番稼げそうなのはなんだろう」

「まあ、盗賊を捕まえて売るでしょうかね」


 クラリスが答える。


「そういうのフラグになりそうだから、やめてほしいなー。盗賊相手とかやだしね」

「あはははは、そうなのです」


 真央が笑う。貴博が笑う。みんなが笑う。

 馬車は進む。南に向かって。


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