がんばれ、シーナ班長(貴博と真央)
「あっ!」
シーナは、足跡を見つける。女子生徒はおそらく足を引きずっている。
「急ぎます!」
シーナはスピードを上げた。
「シーナ、見つけたらファイアボール!」
「はい!」
貴博は、シーナのスピードに追い付けない男子生徒に付き添うことにした。
しばらくすると、
パァン!
ファイアボールが空で破裂する。
「ごめん、このまままっすぐ走って来て」
貴博は、二人に声をかけてスピードを上げた。
シーナが二人を見つけたとき、二人は大木を背にして、何匹ものホーンウルフに囲まれていた。
二人の手には剣が握られていたが、どちらも震えている。
「アイスバレット」
シーナは魔法で一体を倒し、ホーンウルフの気を引く。
そして、剣を振り、もう一体を倒しながら、女子生徒の前に出る。
「ごめんなさい。遅くなって」
シーナは背中の二人に声をかける。
二人は、シーナが来たことに少し安堵し剣をおろしかけるが、シーナが厳しく声を上げる。
「まだ終わってない。剣を握って。戦う意思をもって!」
女子生徒は、痛む足を我慢し、シーナの左右に立って、剣をかまえる。
しかし、盾持ちがいない。囲んでいるホーンウルフに一斉にとびかかられたら、どうしようもない。考えろ。盾、盾、盾……
「アイスウォール!」
三人の前に一メートルの高さの氷の壁ができる。
「ホーンウルフが飛んだら、剣をついて!」
「「はい!」」
「ウォーン!」
「来る!」
ホーンウルフが壁を越えようと飛んだところで、シーナが剣を突き刺す。
女子生徒もそれに習って刺す。
一匹、二匹、三匹……
が、同時に三匹までなら三人で何とかなったところ。
来た。四匹目。抜かれる。
そう思った時に、アイスバレットが飛んできて四匹目に刺さる。
貴博が走って来て、今度は、シーナ達と貴博がホーンウルフを挟む。
それに、男子生徒が二名追いついてきた。
「よし、挟んだ! 私達はこのまま。貴博様! 追い込んでください!」
「わかった!」
貴博と二人の男子生徒がじりじりとホーンウルフに迫る。
ホーンウルフもシーナ達の方へ少しずつ後退する。
が、ホーンウルフもバカではない。下がりすぎるとシーナ達に刺されることを理解している。
「ウォーン」
と、一頭が鳴くと、ホーンウルフ達は、一斉に横へと向きを変えて走り去った。
「ふう」
と、シーナが崩れ落ちる。
女子生徒もお互いを抱きしめて膝をついた。
貴博は、シーナの前に片膝をついて、シーナの頭に手を当てる。
「シーナ。頑張ったね」
シーナは、貴博を見ると、貴博に抱きつき、そして泣いた。
「うわーん。怖かった。怖かったよ。みんなが傷ついちゃうかと思ったよ。死んじゃうかと思ったよ。わーん……」
「シーナ。みんな無事だから。大丈夫だから。全部、シーナの頑張りのおかげだから。ね」
「うわーん」
シーナは泣き続けた。
そこへ背後から二人の女子生徒がシーナに声をかけた。
「あの。シーナさん。ごめんなさい」
「私達、シーナさんの言うことを聞かず、飛び出しました。シーナさんを傷つけました。ごめんなさい」
「助けてくれて「ありがとうございました」」
次いで、男子生徒も声をかけてくる。
「シーナさん、ごめんなさい。俺らも自信過剰になって。シーナさんの言うことを聞くべきだったのに」
「僕も怖かった。シーナさんのおかげで助かりました。ありがとうございました」
「ごめんなさい。ごめんなさい。もっとしっかりした班長だったら。私じゃなかったらこんなことにはならなかったのに」
「シーナさん、違います。シーナさんだからこそ、私達が助かったんです」
貴博は、シーナの頭をポンポンして、立たせる。
「ほら、シーナ班長。次はどうするんだい。班員が指示待ちだぞ」
「え? 私でいいんですか?」
「もちろんです。シーナ班長」
「ですが、私は足をひねってしまい。もう、リタイアした方がいいのかもしれません」
シーナは貴博を見て、
「貴博様」
とだけ言った。
「どっちの足?」
「右です」
「ちょっと見せて」
女子生徒が足を出す。
「ちょっと触るね。ヒール!」
女子生徒の足が光る。
治癒魔法は見たことがある。しかしいつもと違うそれを目の当たりにした四人の目が見開かれる。
「ま、これも内緒にしておいてね」
貴博がはにかんで言う。
「そういえば、貴博様の班は大丈夫なのですか?」
「うん。大丈夫。でも、そろそろ行こうと思う」
「わかりました。では、行ってください」
「それじゃ、お互い頑張ろう」
「はい」
貴博は、シーナ達はもう大丈夫、と、走り出した。
ちょうどそのころ、岩肌を背に、四人の男子生徒がホーンウルフに囲まれていた。
「ホーンウルフ、二十はいるぞ」
「おい、何とかしろよ。前衛だろう?」
「お前、魔法で何とかならないのか?」
「なるわけないだろう。詠唱している間に襲われるかもしれないだろう!」
ホーンウルフがグルグルうなり声をあげながら一歩、また一歩と範囲を狭めてくる。
そして、ついに、
「ワオーン」
と、一頭が鳴くと、二十以上のホーンウルフが一斉にとびかかって来た。
「もうだめだ!」
四人は、頭を抱えてしゃがみこむ。
すると、
ガキン!
と、音がした。
ホーンウルフは、ガリガリと何かを削るような音を立てている。
四人は、そっと目を開けると、そこには、妖精がいた。妖精が氷の障壁を張って、ホーンウルフを食い止めていた。
「大丈夫です?」
「え?」
「助かったの? 助けてくれたの?」
「申し訳ありませんが、助けられていません。私もいつまでもつかという感じです。というわけで、魔法を撃てる方、ファイアボールを空に向かって撃っていただいていいですか?」
と、サンタフェが提案する。
「わかった。火の精霊よ……ファイアボール!」
バシュ! パァン!
ファイアボールが空へと飛んで行き、音を立ててはじけた。
四人の生徒は、サンタフェが障壁を張ってホーンウルフを食い止めているのに少しホッとしたのか、
「あいつはどこ行ったんだ? こんな時に」
と、自分達が置いてきたことを棚にあげた発言をした。
「全くだよ。あいつ、班長のくせに」
と、さらに不満を口に出す。
それを聞いたサンタフェはサンタフェで不満を表す。
「えっと、もしかして、それ、貴博様のことを言っています? 私は貴博様のお付きです。貴博様があなた方を守るようにと私に命じたことにより、今こうしていますが、やめていいですか?」
「え、いや、ごめん。ごめんなさい。守ってくれて感謝しています」
「そういうのは、貴博様に言ってください。それに、どのみち私、もうもちませんけど」
四人が冷や汗をかいた瞬間、
ザシュ! ザシュ!
と、音が聞こえてくる。
その音は、だんだんと近づいてくる。
障壁に張り付いているホーンウルフの間から見えたのは、一人でホーンウルフを切り倒している貴博だった。
「貴博様、そろそろ限界です」
「ありがとう、サンタフェ、最後、弾き飛ばして!」
「はい!」
サンタフェが最後の魔力を障壁に注ぐと、障壁が膨れ上がり、障壁に張り付いていたホーンウルフが吹き飛ばされる。
それを貴博が冷静に切り倒していった。
最後の一頭を倒し、剣についた血を払ってさやに戻す。
サンタフェはふらふらと貴博の肩に降りた。
「サンタフェ、本当にありがとう。助かったよ」
「どういたしまして。ご主人様の命ですから」
「あ、あの、貴博、さん、ありがとう、助かった」
「助かってよかった。それに、他の班を見ていて遅れちゃって、ごめん」
「助けていたんだろ。クラスメートを助けてくれたんだ、感謝するよ」
すると、ズササササ、とクラリスがやって来た。
「ファイアボールを飛ばしたのはお前達か?」
「はい。僕達です。ですが、貴博さんに助けてもらいました」
「で、どうする? 棄権するか」
「いえ、貴博さんがいいというなら、続けさせていただきたいです」
「どうする?」
「僕はいいですよ」
「そうか。じゃあ、がんばれ。私は行く」
クラリスは手を振って去っていった。




