貴博達の特訓と放課後木剣クラブの存続の危機(貴博と真央)
教室に戻る。
「今日の試合、残念だったが、上級生の方が一枚上手だったってことだろう。まあ、ジェイドだけでなく、皆も三年間、頑張るように」
「「「はい」」」
「それじゃ、今日は解散」
校舎を出て、庭のベンチに座って今日のことを話す。
「あーあ、負けちゃったよ」
「あの先輩、うまかったよ。試合の相手が誰であろうと、あの先輩なら対応できそうだし、いい人選だったのかもしれない」
「って言うことは、もっと強い先輩がいるかもしれないってことか?」
「ルーク先輩はマルチプレイヤーであの強さだから、特化した先輩はもっと強くてもおかしくないかもね。そういう意味では、相手が悪かったんだと思うよ」
「くそ―勝ちたかったぜ」
「おい、一年生のお前」
貴博が振り返ると、そこにルークがいた。
「お前、この中で一番強いだろう」
「え? 僕ですか? 違いますよ」
「じゃあ、誰だ」
「この子です」
と、真央を前面に押し出す。
「……まあ強さにはいろいろあるが、魔法という意味ならお前じゃないのか?」
「いやいや、そんなことないと思います」
「そうか。失礼した」
ルークは踵を返して三年生の校舎の方へ帰っていった。
あぶないあぶない、と貴博は思う。おそらく、魔力量を気配で感じているんだなと。
「お兄ちゃん、どうして自分だって言わなかったのです?」
「だって、めんどくさそうじゃん」
「そうかもだけど、もしかしたら面白いことがあったかもしれないのです」
「面白いことならいいけど、めんどくさいことは嫌だな。そうゆうの、真央に譲るよ」
「なあ、放課後木剣クラブどうする?」
手持ち無沙汰になったジェイドが貴博に聞く。
「帰ったら先生に聞いてみるよ」
「よろしくな」
真央と二人で帰る貴博。
自宅につくと、玄関で仁王立ちしている、チャイナドレスで赤髪の美人がいた。
「ただいま帰りました、おりひめお姉様」
「ただいまです」
「遅い。今日から私の特訓だろう。逃げたかと思ったぞ?」
「あ、ごめんなさい。新入生歓迎会があり、友人が戦ったのでそれを見てから帰ってきました」
「そうか。それでその友人は勝ったのか?」
「相手が三年生だったこともあり、負けてしまいました」
「なるほど、それを見てお前達は、もっと強くなりたいと思ったわけだな?」
「あの、おりひめお姉様。強くなりたいと思っていますが、それを見て、というわけではありません。僕は、真央を守る強さが欲しいって、ずっと思っています」
「まあ、どちらでもよい。荷物を置いてこい。訓練場で待っているからな」
「「はい」」
訓練場に急いで行くと。
「今日は、貴博はそらと、真央はみずきと手合わせだ。ヒーラー役はリンとレンだ。よろしく頼む」
「そら兄さま、よろしくお願いします」
「うん。かかっておいで」
「行きます! たー」
貴博は素手で殴りかかる。が、簡単にひょいっとよけられる。
右ミドルキックと見せかけてハイ。よけられる。右と見せかけて左、それもダメ。何一つ当たらない。
「そら兄さま、どうして当たらないのですか?」
「まあ、スピード変化、フェイントがきれいすぎる。おかげで、狙いが読みやすい。それに……」
「……」
「試してみようか」
と、そらは自分に目隠しをする。
「ほら、打っておいで」
「行きますよ。た―」
と、思いっきり狙うように見せつつフェイントをかける貴博。しかし、それをはじかれる。
「え?」
そらが目隠しを取って、貴博に言う。
「動きって言うのは、何も体のことだけじゃない。気配、つまり魔力の流れ。それも判断材料になる」
「あ、今日の……」
「心当たりがあるのか?」
「今日の友人の戦った相手が、盾の後ろから動きを読んでいました。それですね」
「僕は見ていないからわからないけど、そういうことだな、きっと」
「じゃあ、どうしたいいのでしょうか」
「僕が攻撃するから、かまえて」
そらは、貴博の前に立っている。構えもしない。しかし、
貴博は、自分の左側から殺気を感じ、左を向く。が、
「はい」
コツン
正面からそらが貴博の頭に手刀を落とした。
「い、今のは?」
「魔力でデコイを作っただけ。貴博ならできるはずだよ。魔法を自分と離れた場所で発動させるのと基本は同じだからね。まあ、三年間、頑張ろうよ」
「はい」
「さて、仕切り直しと行こうか。ここからはファイトアンドヒールだ」
「はいっ」
と言った瞬間に、
ドゴーン!
貴博は壁にたたきつけられる。
「スピードもマシマシで行くよ。目も、気配の読みもスピードにならして。今は、それでいい」
貴博にレンがヒールをかけて、復活させる。
「行きま……」
ドゴーン!
「くっ」
「ほら立って」
「真央、あなた面白いステップ踏むのね」
「はい。猫ステップなのです」
「あー、そういわれるとそれっぽいわ。でもね、飛ぶのはダメよ、よけられなくなるから」
ドゴーン!
真央も吹っ飛ばされる。
「いたたたた」
「ヒール」
リンがすかさずヒールをかける。
「向こうと同じように、こっちもスピード上げていくからね。とにかく、慣れるのよ」
「はい」
ドゴーン!
「まずは、反応しなさい」
「は、はい」
「ただいまー」
クラリスが帰ってくる。
「おい、クラリス。私が相手をしてやる。準備して、すぐに来い」
おりひめが声をかける。
「……は、はい」
「不服か?」
「滅相もないです、今すぐ!」
結局、クラリスもぼこぼこにされた。
これが三年間続くのか……グレイスお義父様のほうが、優しかったな。
おりひめ達との特訓は、夕食を挟んでその後も行われ、ヒールにより体力は回復しても、最後には魔力を全放出させられて眠るのは、これまで通り。
朝、登校時に、そらが声をかけてくる。
「貴博、それに真央とクラリスも。授業中も魔力操作の練習を欠かさないでね。できれば、人の魔力を感じることと、自分の魔力の放出をコントロールすること。いいね」
「「「はい」」」
「そら兄さまもみずき姉さまも、厳しいのです」
「ほんとだね。だけど、まだ強くなれるって思っていてくれるから、厳しくしてくれるんだよね。鍛えてもらえるの、あと三年しかないから、頑張らなきゃ」
「そうなのです。頑張るのです」
「帝国一とか言われていても、これか……。まだまだだってことを思い知らされるよ」
クラリスが肩を落とした。
その日に行われた、リンとレン、みのりとしずくによる魔法の特訓も厳しかった。とにかく発動数と発動までのスピード、発動する場所のコントロール。それを、おりひめ達とこぶしを交えながら行うのだ。
「ほら、私が発動したアイスバレットを相殺して。じゃないと当たるよ」
という感じで、同時に何発も撃ちこまれる。
相殺って、バレット同士を当てることがどれだけ難しいか。
貴博は何度も吹っ飛ばされた。そして何度も思った。脳がショートすると。
さらに翌日、ジェイドが貴博に聞いてくる。
「なあ、放課後木剣クラブ……」
ミーゼル達も不満を顔に表す。
「「あっ!」」
貴博も真央も、帰宅後すぐにそら達にぼこされるので、聞くのを忘れていた。
結論として、友人とも婚約者とも過ごす時間が大事だとグレイスが判断し、夕食までに帰ってくることで、放課後木剣クラブが存続することになった。その分、夜も朝もおりひめ達との特訓が厳しくなったが。
また、貴博達は、ジェイド達におりひめ達から教わったことを少しずつ伝えていく。こうして、放課後木剣クラブもその実力を上げていく。




