転生(千里と桃香)-1
「何しに来たんだ、よーちゃん。嫌な予感しかしないんだけど」
「子供を手放してしまって寂しいかなって思って、もう二人連れてきた」
「……」
「お願いできる?」
「あの二人との関係者か?」
「ん? 知らないよ。そんなこと、僕が気にすると思う?」
「クリーニングは?」
「あ、忘れちゃった」
「……(とぼけやがって)」
「で、お願いできないかな。去年も言ったけど、うち、人口減少がひどくてさ。優秀な魂は保護して欲しいんだよね」
「ソフィ?」
ソフィリアは怪訝な顔をする。自分としてはいいとは思っても……。
「ねえ、ソフィリアちゃん、頼むよ」
「お言葉ですが、私、首席ではないので、神々の話し合いに参加する資格を持っておらず」
「そんなこと言わないでよ。基本的にソフィリアちゃんに決定権があるって聞いてるよ? じゃあ、シャルちゃん」
「あの、あなたにきやすく呼ばれるいわれはないのですが」
上段からシャルロッテがにらみつける。
「うー、そのさげすむような眼。相変わらずのクールビューティさがたまらないね」
陽が自分の体を抱きしめ、身もだえる。
ドカッ!
あずさが陽の背中にミドルキックを撃ちこむ。
「あずにゃん、痛いじゃないか」
「あ、ごめんあそばせ」
「コントはもういいからさ、一つ聞かせてよ。これで最後?」
「最後最後。きっとね、たぶんね、おそらくね」
「絶対違うよね。だって、去年六人って言ったじゃん」
「あ、覚えてた? 記憶力いいねー。僕なんて忘れてたよ」
全員がため息をつく。
「はあ、シャル、ソフィ」
「はい、かしこまりました」
シャルロッテとソフィリアは、階段を下りてあずさの前まで進み、あずさからそれぞれ赤子を受け取る。
それを見届けたよーちゃんは、
「よし、あずにゃん、撤収!」
「はい!」
と、二人で消えた。
「ソフィ、解散で」
「はーい。みんな、ご苦労様。かいさーん」
騎士団やメイドの面々が謁見の間から出ていく。
グレイスの妻達は、階段を降りて来て、赤子を囲む。
「旦那様。もらい子ではなく、私との子を育ててみないか?」
おりひめが唐突に子供を作ろうと提案する。
「おりひめ、もう子供を作る必要もないだろう」
「だけど、こうしてみるとかわいいじゃないか。おりひめとしては子供を作っていないしな」
「はいはーい、私も!」
リリアーナが手を上げる。
「リリィ、恥ずかしいからやめて」
「照れちゃって、かわいい」
「リリィにやられるとは……」
「だが、来年、また赤子を持ってくるだろう? 子育てをしていないと、断れないかもだぞ? 子供がいれば、忙しいって言えるんじゃないのか?」
レイまでがグレイスに子作りを勧める。
「れーちゃんまで、何を言い出すの?」
「冗談ではないぞ? 皆準備オッケーということだ」
「これ以上天使を増やしてどうするのさ」
「必要なのは天使ではない。子供だ。皆、子供がかわいいという気持ちまで忘れたわけじゃないぞ」
「……」
「そもそも、お前、ステラとの間に子供を作っていないだろう」
ボッ!
ステラの顔が真っ赤になる。
「ステラを娶ってからもう、何百年経っていると思っているんだ?」
「……」
「そもそもだ。お前は何で実体を持ったまま妻たちを天使にし、しかもずっと若い姿を保ち続けさせているんだ? なさるためだろう!」
妻達が皆顔を赤らめる。
「れーちゃん!? ストレート過ぎない?」
グレイスがわたわたする。
「はいはい、そういう話はそこまでにして、今は、この二人の子供のことでしょ」
ソフィリアが冷静を装い、手を打って、話を戻そうとする。しかし、
「何を言ってるんだソフィリア、ファーストであるお前が始めないと何も進まないだろう。とっととしてこい!」
「れーちゃん?」
ソフィリアが顔を真っ赤にする。
「そりゃそうだろう。ファーストであるお前が子作りをしないと次に進まないんだ。なぁフラン」
フランも顔を真っ赤にしてうつむく。
「ほら、赤子は私が見ていてやる。二人で消えろ」
レイは、ソフィリアから赤子を半強制的に受け取ると、魔法陣を展開する。
「れ、れーちゃん、強制的な転移はちょっと……」
グレイスがレイにクレームを入れる。
「心配するな、行先は海底だ。一度で済む。おーい、ミルフェにシルフェ」
「「はい」」
「受け入れ準備をよろしくな」
「「はい、かしこまりました」」
「れーちゃーん」
「ちょっと、心の準備―」
「できるまで帰って来るなー」
「ふっ」
二人が消えると、レイはやり切った感を出し、
「コルベット、いるか」
「は、ここに」
「この子たちを頼む。明日の朝、グレイスたちが帰って来てからでいいだろう」
「はい。かしこまりました」
「フランも明日、用意しておけよ」
ボッ!
誰もが思った。
(れーちゃん、恐ろしい子)
翌朝、グレイスの執務室において。
「えっと、シャル、ソフィ、二人を」
シャルとソフィが赤子を二人グレイスに手渡す。
シャルはそっとソフィにささやく。
「ソフィ、そのぼさぼさな髪はなんなの? いやらしいわね」
「な、お母様、なんてこと言うんですか……間違ってはいませんけど、ぶつぶつ」
「お母様だなんて嫌だわ、同じ妻同士なのに。いくらお疲れだって、身なりはちゃんとしなさいな。ファーストでしょうに」
「……ごめんなさい」
グレイスは他人事のように視線をそらし、赤子の手を握る。
「ちょっとおとなしくしていてね、今、会話できるようにするから」
グレイスは、両手からそれぞれの赤子に魔力を流していく。
「こんなもんかな。ねえ君たち、言葉がわかるかな?」
グレイスは日本語で話しかける。
(わかるわよ! って言うかあなた、昨日私のこと放置したでしょ。本当は昨日説明があったんじゃないの? おかげで昨日は眠れなかったわよ。一体何してたの。まさか、女じゃ……)
グレイスは思わず右手を離す。あ、めんどくさいやつだ。と。
グレイスは左手で手をつないでいる赤子に話しかけることにする。
「言葉はわかる?」
(はい。わかります)
「今の会話は聞こえた?」
グレイスは、前回の例からきっと関係者だろうと、はじめから意思のアクセスをつなげていた。
(えっと、今の剣幕、声、もしかして千里さんですか?)
千里って言うのか。やっぱりつながりがあったか。
「ごめん、わからないんだ。まだ聞いていないから。で、君は?」
(藤原桃香です)
「藤原さんね。で、どうしてここにいるのかとかは?」
(えっと、よく覚えていないのですが、死んだ後にピンクヘアーの人から、転生しないかって)
「それで受けちゃったの?」
(はい。探し物が見つかるかもしれないって言われて)
「探し物?」
(私、確かに前世に未練を残してて、それで、何かなしたいことがあるんですけど、意識を持ったまま生まれ変わってそれがなせるとも思えないし。私、そのピンクヘアーの人に何を言って、何を言ったからこうして転生できたのか、どうも、記憶があいまいだし。それに、そう言われちゃったら気になっちゃって)
「そうか。そうだよね。ところで、この世界で暮らすってことでいいのかな?」
(はい。っていうか、それしかなくないです?)
「そうなんだけどね。この世界ってね、君達が住んでいた世界とちがってね……」
グレイスは、優香たちにした説明をしていく。
「だからね、この一年間は、ここで過ごしてもらって……。この世界では十二歳から働けて、十五歳で成人で……。おおよそわかった?」
(はい、理解できたと思います)
「わからなかったら、一日一回は誰かしらが会うつもりだから、その時に聞いて」
(ありがとうございます)
「さてと、こっちの子とも話してみようかな」
グレイスは右手の子ともう一度手をつなぐ。
(ちょっとあんた、また私を放置したでしょ。どういうこと?)
(千里さん、千里さんですよね?)
(え? 桃ちゃん? 桃ちゃんなの?)