素直に謝れて偉かったのです(貴博と真央)
「おおー」
真央が大きなコロシアムを見て目を輝かせている。
「こんなところが校内にあるなんて、さすが高等学園だな」
貴博達は、観客席に入り、全体を見回す。
コロシアムは大きな円形のグランドを囲むように、階段状の観客席が設置されている。
そこへ、全校生徒と全教師が集まってくる。
一学年、百名程度なので、三百名プラス教師だ。
どうやら、学年ごとに集まっているようで、貴博たちは赤いシートの方へ向かった。色は、ネクタイやスカートの色が学年によって違うらしい。青が三年生、緑が二年生である。
「ジェイドは、グランドに行くのかい」
「そういうことだと思うけど」
「それでは、両選手は、グランド中央までお越しください」
「ということらしい、じゃあ、行ってくるわ」
と、ジェイドは木剣一本を担いで、観客席を下りて行き、グランドへと飛び降りた。
「あいつ、かっこいい出場の仕方するな」
「やっぱり、私もやりたかったのです」
グランドの中央には、春なのにタンクトップのガタイのいいおっさんがいる。
「えっと、先生ですか?」
ジェイドが聞く。
「そうだ。お前がジェイド・クリムゾンだな。学園の中では貴族も平民もない。つまり、公爵家もない。それでいいな」
「もちろんです。先生」
ジェイドが木剣を両手でつかんで、ストレッチをしていると、向かい側から一人の少年が現れた。片手剣に盾持ちだ。
だが、身長が小さい。百六十センチないのではないだろうか。髪もストレートの金髪で少し長め。女の子でも通用しそうなヘアスタイルだ。
その小柄な少年が、大きめの盾を持っている。
「クラリス先生。ジェイドの縛りは継続ですか?」
貴博が相手の上級生を見ながらクラリスに確認する。
「ああ、そうだが?」
「あの、三年生、魔導士ですよね」
「ん? なぜそう思う?」
「魔力量が他の人より多い」
「そうか」
「とはいえ、体が小さいからそう見えるだけかもしれません。しかし、あの、この国の騎士と同じ片手剣に盾のスタイル。それに、あの盾、体の割に大きい」
「まあ、ジェイドに魔法を使わせたとして、あいつはさほど得意ではない。剣だけで勝負をした方がいいと思うがな」
「ルーク・シュナイゼル。準備はいいか」
「はい、先生」
「よーし、それでは、ルーク・シュナイゼルとジェイド・クリムゾンの試合を始める。剣も魔法もありだ。ただし、相手を殺すのはなし。いいな」
「「はい」」
「それでは、始め!」
ジェイドは、剣をかまえて、相手が出てくるのを待つ。
しかし、ルークは切りかかってこない。ただ、立っているだけだ。
「あの、先輩、切りかかって来ないのですか?」
「僕は見ての通りタンクなんでね、あまり攻撃は得意じゃないんだ。だから、そっちから来てくれると助かる」
「そうでしたか。それではこちらから行かせていただきます」
ジェイドは、走りながら上段に構える。背の高さがあまり変わらないか、こっちのが高い。下から攻める理由もない。
ルークは、盾の後ろに隠れる。
「甘いです先輩。誰が盾をわざわざ叩きますか!」
と、ジェイドはフェイントをかけて、盾の横に回り込もうとする。しかし、ルークはくるっと盾をジェイドの方へ向けてくる。
「え?」
ガキッ!
木剣が盾に阻まれる。
ジェイドは、ステップを踏みながら、フェイントをかけ、右から左から回り込んで切りかかろうとするが、すべて盾に防がれる。
「あのルーク先輩、たぶん、ジェイドを見ていない」
貴博が解説をつぶやき、それに真央が反応する。
「どういうことなのです?」
「多分、感じている。あの盾じゃ大きすぎてジェイドは見えないと思う」
「くそ―、盾で防いでばっかりで。こうなったら」
と、ジェイドが盾を吹き飛ばす勢いで、横から殴りつける。
バキィ!
ルークの盾が吹っ飛んでいく。
「ほら見たことか」
と、ジェイドがつぶやいた瞬間。ジェイドの横から、
「ファイアバレット」
バシュッ!
「うがー」
ジェイドにファイアバレットが直撃し、吹き飛ばされる。
ルークは、その様子を見ながら、ジェイドに吹き飛ばされた盾を拾う。
「あの人、面白いな。大振りに来たと思ったら、盾を捨てて回り込んで魔法か。多分、盾で防いでいる間に詠唱を終えているんだろうな」
貴博のつぶやき解説にミーゼルが反応する。
「ねえ、貴博、何でそんなに冷静なの」
「勉強になる」
「でも、大きな盾持ちってことは、後ろががら空きよね」
「複数対複数なら、誰かが背中を守る。だけど、あの人多分魔導士だから、防御魔法を後ろに展開するくらいはするかもね」
「このままだと、ジェイド、危ない?」
「危ないって言うか、さっきの魔法じゃなくて剣だったら、おなかに穴が開いていたよ。多分、右手なら剣、左手なら魔法が飛んでくるんじゃないかな」
「いったー。魔法かー。なかなかやりますね、先輩」
ふらふらと何とか立ちあがるジェイド。
「まだやるのか?」
「もちろんです」
「お前の仲間、ヒーラーいるのか?」
「いますよ」
「わかった。じゃあ続けよう」
ジェイドが再び走り出し、盾に向かって剣を振り下ろす。
ルークが剣に合わせて身構える。が、剣が当たるタイミングで衝撃が来ない。
少しずれて、
ドガッ!
ジェイドがショルダータックルを決めた。
ルークはタイミングをそらされたため、少しふらつくが、すぐに立て直す。
「ほう。クリムゾン家はそんな汚い剣を使うのか」
「うるせー、勝利こそすべてだ」
と、ジェイドは、今度はげしげしと盾を蹴り始める。
「あ、ジェイド、面白いことを」
と、つぶやく貴博に対し、
「何やってるのあれ」
と、ミーゼルが質問係になる。
「ルーク先輩は多分、盾を持っていると魔法を撃てない。右手は剣を持っているしね。だけど、剣を振ろうにも、自分の盾が邪魔。つまり、盾をおとりにして移動しないと攻撃できない。ジェイドは蹴りを入れているだけだから、剣はいつでも振れるしね」
「じゃあ、ジェイドの勝ち?」
「いや、ジェイドの攻撃も当たらないから」
「はあはあ」
ジェイドがいったん距離を開ける。
「地味な絵面だぜ」
「全くだ。野蛮な戦い方なんか、誰も見たくないだろうに」
「うっせー。行くからな」
ジェイドは飛び出し、さっきと同じように右から盾を吹き飛ばす。その陰からルークが飛び出すが、ジェイドは剣を横なぎに振った勢いそのままに回転し、ルークに剣をたたきつける。が、
「アイスシールド!」
ガキン!
ルークは氷の盾を顕現させ、ジェイドの剣を受け、さらに回り込んで、
「アイスバレット!」
と、ジェイドにアイスバレットを撃ちこんだ。ふきとばされるジェイドにさらにルークは容赦することなく追撃し、倒れるジェイドの首に剣を突きつけた。
「勝者、ルーク・シュナイゼル」
「あー、負けちゃった」
真央が残念がる。
「うん。氷の盾が出てくるなんて思わなかったよね。しかも、気配で人の動きを察しているから、対処がうまい。それに、盾がなくても盾使いになれるんだから、本当は、アタッカーなのかもね」
という、貴博の解説。
「盾持ちタンクって言うのは、フェイクってこと?」
ミーゼルも聞く。
「うん。わかんないけど、アタッカーもこなせるんだと思う。魔導士なのに」
ルークは、ジェイドの手首をつかみ、引き起こす。
「ナイスファイトだった」
「あ、先輩。ありがとうございました。ぶっ潰すって言ってごめんなさい」
と、ジェイドは頭を下げた。
ルークは右手を上げるだけで、去って行った。
「新入生歓迎会はこれにて終了します。両者に暖かい拍手を!」
パチパチパチ……




