高等学園入学。先輩には敬意を表しましょう(貴博と真央)
入学式の朝、朝食を取っていると、グレイスが話しかけてくる。
「貴博に真央、それからクラリス。ちょっと話がある」
「なんでしょうか、パパ」
「今日から高等学園に通うということで、うちでの鍛錬も担当を変えようと思う」
「それは、パパからではなく、他の方から教わるということですか?」
「そういうことだ」
「僕ら、パパに全くかないませんけど、もっと現実的な方が、ということでしょうか」
「そうだな。ある意味現実的かな」
「ある意味?」
「実戦的、という意味だ」
逆だったか―、と貴博は思う。
「……嫌な予感しかしないんですけど」
「戦闘については、おりひめとそら、みずきにお願いした。こはるは別に仕事があるからな」
こはるは優香と恵理子の方へ行っている。
「それから、魔法については、ラナとルナ、リンとレンにお願いした。あと、ヒール役にみのりとしずくも呼んであるから、安心してくれ」
それは、安心していいのかどうかわからない。不安になる一方だ。完全にぼこぼこにされること前提の布陣だし。
「それからクラリス」
「はい。お義父さま」
「君には今日から高等学園の教師をしてもらう」
「あの、えっと」
「寄付金は最高の手札なん、グエッ」
グレイスの両隣にいるシャルロッテとソフィリアが見えないようにグレイスの腹にこぶしを入れた。
三人は今日は一緒に高等学園に出勤、登校する。
「旦那様。あの、私達を鍛えてくれる新しい方々って、おりひめ様やラナ様、ルナ様はお会いしたことがありますが」
「おりひめ母さん……いや、姉さんは正直最強。なにせ、ドラゴン族だから。で、同じドラゴン族のこはる母さんもいて、この二人の子供がそら兄さまとみずき姉さま。ということで、この二人はドラゴン族と人間であるパパとのハーフだけど、ドラゴン族の強さとパパの魔力を受け継いでいて、正直意味が分からない」
「おりひめ様が最強ということです?」
「それがわからない。っていうか、誰も、本人達もそれを知ろうと思わないらしくてさ。やりあうと、瞬間的に街一つが消滅するらしい」
「……リン様とレン様は?」
「同じく、ハイエルフの母様達とパパのハーフ。ハイエルフの魔法能力を、お父さま譲りの魔力がブーストしてしまった感じ。正直、人族最強の魔法使いらしい」
「……あまり聞きたくなくなってきましたが、人族最強というのは?」
「みのり姉さまとしずく姉さまは、大精霊のドライア母様とディーネ母様とパパのハーフなんだけど、精霊を使役している上にパパの魔力まで受け継いでいて、魔法の使い方が精霊なのか人なのか、僕にはよくわからない。実際、お母様方の分体で、実体がないから精霊らしい。だから、人族最強ってリン姉さま達のことを言ったけど、みのり姉さま達は、なんて言っていいか、この世の魔法をつかさどっちゃってる感じなんだよね」
「そんな神様みたいな人たちが私達を鍛えるのですか?」
「あ、言っちゃった。神様って言葉が一番ピンと来るけど、神様が僕らなんかの相手をしているとは思えないんだよね。それに、そんな万能な立場の神がこんなところで世界に関わっているとは思いたくないし」
と、転生の時以来会っていないピンクヘアーを思い出す。
「そうですよね。神なんて存在が近くにいたら、やってられないですよね」
「そうそう。あ、もうすぐ着くから、ほら、教師モードに戻って」
「わかった。それじゃ、貴博に真央、ちゃんと勉強するんだぞ。問題起こすなよ」
「「はーい」」
高等学園一年次のSクラスの教室に入る。放課後木剣クラブは皆、同じクラスになれた。
「おはよー」
「「おはよー」」
「また同じクラスだねー」
真央を含めて女子五人は手をつないでぴょんぴょんはねて喜んでいる。
「ジェイドおはよ」
「おはよ、貴博」
「ジェイド、ブレザー似合っているじゃん」
「お前も同じ格好だろうが」
「でも、そんな風に入学初日からネクタイ緩めて、先輩に囲まれないようにしろよ」
「何を言っているんだ。放課後木剣クラブにかなう先輩がいるか」
「まあね。インターンシップで新人騎士をぼこすような下級生に、喧嘩を吹っ掛けたりしないよね」
「それを言うなって。口止めされているんだ。それに勝てたのは新人だけ。後はぼこされたよ」
「ま、卒業後の進路が決定していてよかったな」
「まあな」
「はいはい、席についてー」
クラリスがやってくる。
「私が担任のクラリスだ。と言っても、大半が帝国学園Sクラスからの持ちあがりみたいになっているから、あまり代わり映えもしないがな。さて、これから入学式だ。ジェイド、挨拶頼むな」
「はい」
今回の挨拶はジェイドが行うことになった。公爵家だし、新人騎士に勝てるくらいの腕なのだ。誰も文句を言うまい。
「それから、入学式が終わった後、新入生歓迎会が行われる」
教室の面々の顔が明るくなる。楽しいだろうか、おいしいものが出るのだろうかと。
「新入生歓迎会は、各学年のSクラスから代表者を選抜し、対戦を行う」
「「「え?」」」
「ん? パーティか何かかと思ったか? 違うぞ。上級生のトップが新入生Sクラスのトップをぼこして、どや顔したいだけのイベントだ。方法は武器あり魔法ありのなんでもありの一対一だ」
一瞬にして、クラスメートの顔が曇る。一部を除いて。
「誰か出たいものはいるか?」
「はいはーい」
真央が元気よく手をあげる。
「却下だ」
「え?」
「真央が出たら試合にならん。本当に死人が出る」
「ぶー」
「他には」
「俺はだめですか?」
ジェイドが手をあげる。
「うーん。実は、新入生代表がたいてい選ばれるんだが、ジェイドねー。制限付きなら許可しよう」
「制限とは?」
「木剣のみ、魔法なしだ」
「……わかりました。それでお願いします」
入学式
「新入生代表、ジェイド・クリムゾン」
「はい」
ジェイドは壇上に上がる。
「私達一年生は、これまで帝国学園の六年間で頑張って己を磨いてきました。この高等学園ではさらに質の高い指導をうけ、より強くなりたいと思います。まずは、歓迎会でしたっけ。俺が出ます。三年生のトップとやら、胸をお貸しください。誰か知らんが、ぶっ潰す。以上」
シーン
会場が静まり返る。
貴博と真央は、必死になって笑いをこらえる。
他の一年生は思う。上級生に喧嘩を売った、これから生きていけるかなと。
入学式が終わり、
「ジェイド、最高だったよ。面白かった。久々に笑った気がする」
「ずるいです。あんなおもしろそうなこと、私も言ってみたかったのです」
「何言ってんの。ジェイドだけならいいわよ。放課後木剣クラブとか、一年生全員が目の敵にされたらどうするのよ」
「いいだろう。どうせぼこすんだから」
「なんでそんな能天気なのよ。三年生の実力知っているの?」
「知らん。だから胸を借りると」
「ぶっ潰すって言ったわよね」
「そのつもりでやるしな」
しばらくすると、放送がかかる。
「それでは、先生、生徒の皆様は、闘技場にお集まりください。これより、新入生歓迎会を行います。ただし、今年度につきましては、二年生が出場を辞退いたしましたので、三年生Sクラス代表、ルーク・シュナイゼル君と、一年生Sクラス代表、ジェイド・クリムゾン君の一戦だけとなります」
「あれ、そういえば、二年生って、辞退するぐらいなら弱いのかしら」
「そうなのかもしれないわ。その、ルーク先輩って人がすごい強いとか?」
「やったらわかるよ。さあ、行こう」




