高等学園、実は、ちょっと行きたかったです(貴博と真央)
「い、いいことじゃないか。それも君らの実力だろうに。怪我も命の危険もなく、依頼を全うできるなんて、いいことだぞ」
「そうかもしれませんが、僕ら、成人したら旅に出るんです。旅の路銀を稼ぐために冒険者になろうと思ったんです。だから、そのための知識を得るためにインターンシップに来たんですけど」
「なるほどな。だけど、都市間を移動するのに便利な護衛依頼なんかは、最低でもシルバープラスが必要だぞ。そうなると、やっぱり地道にポイントを稼ぐ必要があるんじゃないのか? それに、大きな依頼ほど、ランクが必要だぞ」
「なにか、ランクを簡単に上げられるそんな方法はないのですか」
「「……」」
ユリシーとマリーが視線を合わせる。
マリーは嫌な予感を感じる。ここには公爵家令嬢が三人もいる。ユリシーが説明する。
「ないわけじゃない。ギルマスと戦って、ギルマスが納得するランクから始めることが出来る」
マリーは、ため息をつく。ユリシー、言っちゃった、と。
「それは、どうやって申請したらいいんですか」
これに、マリーが答える。
「あのね、ほぼほぼ無理なのよ。どれだけの冒険者が地道にランクを上げていると思っているの? ギルマス権限のランクアップは、厳しくされているのよ。そりゃ当然よね。ギルマスがぽんぽんランクをあげちゃうわけにはいかないんだから」
「あのな、私達でもプラチナEなんだ。ギルマスはもっと上だぞ」
ユリシーの答えに貴博がメンバーに提案する。
「やっぱり、成人してからクラリス先生を正式メンバーにして、ギルマスに挑もうか」
「……今、なんて言った?」
ユリシーが聞く。
「クラリス先生をメンバーにして」
「クラリスって、帝国学園のクラリスだよな?」
「そうですけど」
「なんで、パーティメンバーになるんだ?」
「一緒に旅をしてくれるって言っていますので」
「あれの恐ろしさを知らないか?」
「知っていますよ。激強ですよね。毎日一緒に鍛錬していますから」
「お兄ちゃんは、クラリス先生に勝ったのですよ」
「「……」」
「さすがにそれは嘘だろう」
「本当よ。だから一緒に旅をするんだから」
ルイーズも加勢する。
「じゃあ、何でこのメンバーにクラリスがいない」
「これ、インターンシップだから」
「……そうだった」
「放課後木剣クラブの皆さま、本日はここまでにしませんか。明日、クラリス様を連れて来てください。その上で、ギルマスに相談しましょう」
マリーは、この恐ろし気な会話を、すべてギルマスに押し付けようと決める。
「はい。わかりました」
貴博達は、おとなしく引き下がった。
ギルマスの部屋。
「ギルマス、明日、そういうことなので、クラリス様を交えて、ランク査定をお願いしていいですか?」
「いやに決まっているだろう。何であのあほみたいに強い騎士とやりあわないといけないんだ。四姉妹、やってくれるか?」
「やるわけないわ。一度だけあれの戦いを見たことがある。あれ、無理よ。剣と魔法が同時に飛んでくるのよ? 剣と魔法、どっちがおとりかわからないのよ。どうやって倒せと?」
「放課後木剣クラブのメンバーが言うには、そのクラリス様を倒したメンバーがいると」
「そんなことあり得るか。あったらそれはそれで、私は今日から休暇を取る」
「ギルマス、逃げないでください」
「じゃあ、四姉妹が相手をしろ。四姉妹に勝ったらプラチナDからでいいだろう。
「断る。不戦勝でプラチナDをやっておけ」
「マリー、プラチナDのプレートを人数分用意しておいてくれ」
「わ、わかりました」
翌日、マリーは四姉妹と一緒に放課後木剣クラブを待つ。
すると、クラリスを加えたいつものメンバーがやって来た。
「あ、あの。クラリス様です……よね」
「そうだが?」
「このパーティメンバーだとお聞きしましたが」
「うん。旅に出るときに加わろうと思ってね」
「そうですか。では、一応確証も取れましたし、皆さまのプレートを交換させていただきたく思います」
マリーはプラチナのプレートを差し出してきた。
それを一人一人手に取る。
「あら、プラチナDって書いてあるけど、いいのかしら」
ミーゼルが確認する。
「はい。構いません。ギルマスの判断です」
「おい、私もプラチナDなのか?」
クラリスが不満を漏らす。
「え、あ、あの、えっと。は、はい。間違えました。クラリス様は、プラチナAでした。ごめんなさい」
と、マリーはクラリスのプレートを回収し、修正した。完全に命令違反だが、ギルマスは許してくれるだろうと信じることにした。
「おい、せめて貴博と真央のプレートもAにしておけ。私より強いぞ」
「は、はいー。真央さん、貴博さん、お願いします」
マリーは二人のプレートもプラチナAに修正した。
「よし、これで我々はえっと、Aが三人でDが四人だから、パーティとしてはプラチナCか?」
「い、いえ、パーティランクにSもEもないので、単にプラチナランクです」
「ま、いいか。ところで、インターンシップ中だから、高等学園を卒業するまで依頼を受けなくていいんだな?」
「は、はい。おっしゃる通りです」
「わかった。貴博、真央、みんな、帰ろう」
放課後木剣クラブはギルドを後にした。
「怖かったー」
マリーがつぶやく。
「この国最強の騎士が冒険者に?」
ユリシーがつぶやく。
「パーティ同士仲良くできたらいいな」
と。
「あの、クラリス先生」
シーナがおずおずとクラリスに聞く。
「なんだ」
「私達もプラチナDをもらっちゃってよかったのでしょうか」
「いいと思うぞ。私の感覚では、木剣クラブのメンバーはその資格があると思っている。この五年ちょっと、かなり頑張ったからな」
「クラリス」
「なんでしょう旦那様」
クラリスが頬を染める。クラリスはもう二十二歳。
「高等学校に行かなくても、もうプラチナランクの冒険者パーティってことだよね」
「正式に登録すればそうなります」
「どっちがいいと思う?」
「まだまだ基礎的な強さを求めるなら、高等学園に通いながら訓練を重ねた方がいいでしょう。ですが、実践を求めるなら冒険者かと思いますけど」
「じゃあ、高等学園に通いながら、夏休みとか休みの日に冒険者として活動するのもあり?」
「はい。ありです。いつでも一緒に行きます」
「真央、高等学園に行こうか」
「はい。実は、ちょっと行きたかったです」
「そうなんだ。じゃあ、言ってくれればよかったのに」
「学校が楽しみです」
「そうだったね。ごめん。真央は学校を楽しみにしていたんだもんね。一緒に通おう」
「はい」
「私達も勉強するわよ」
「「「はい」」」
ミーゼル達も、また同じクラスになれるよう、頑張って勉強しようと誓った。
結局、全員合格を果たし、春から高等学園に通うことになった。
「ふふふ、高等学園は制服がかわいいのです」
真央は、赤チェックのスカートを広げながらいう。上はブレザーだ。貴博は、普通にブレザーにパンツスタイルである。ちなみに、男子はネクタイ、女子はリボンである。




