猫を使って全部できちゃうから、やることがないんです(貴博と真央)
庭に出た貴博とユリシーにドロシーは、男の子に囲まれる。
「はいはい。鬼ごっこはこっちのお兄ちゃんね。戦いごっこは私とこっちのお姉ちゃんとやるよ。鬼ごっこは、鬼さんから逃げてね。それから戦いごっこは、お姉ちゃん達が悪者やるから、倒しに来るんだよ!」
「ぼく鬼ごっこ」
「ぼく、戦いごっこする」
固まっている貴博に、ユリシーは言う。
「ほら、待て待てーって走り回ってればいいから」
「は、はい」
貴博は気を取り直して、両手を上げ、
「ほらほら、追いかけるぞー、捕まえちゃうぞー」
と、子供を追いかけまわした。
「キャー」「わー」
子供達は大喜びで走り回った。
貴博は思う。子供達が喜んでくれるのはいいけど、基本ボッチにはつらい仕事だと。
「お姉ちゃん、絵本読んで」
「いいよー」
と、ルイーズは絵本を手に取る。そして、抑揚をつけて読み始める。
「昔々、ある国、やんちゃなお姫様がいました……お姫様は、自分より強い相手としか結婚しないと言い張っていました」
あれ、どこかで聞いたことあるような姫だな。
「お姉ちゃん、絵をかいてー」
女の子が紙とペンをもって真央のところにやって来た。
「なんの絵がいいかなー」
「動物―」
「動物ね。じゃあね」
そう言って、真央はすらすらすらと猫の絵をかいていく。
「うわー、お姉ちゃん上手。猫だー」
「猫ちゃん好きなの?」
「うん、かわいいからすきー」
「そうなんだ。ちょっと待っていてね」
真央は、孤児院から顔を出し、
「にゃん」
と言った。すると、一匹、二匹、十匹、二十匹と、猫が集まって来た。
「やー、猫ちゃん来たー」
「猫ちゃんかわいい」
子供達は大興奮だ。
「たたいたり痛いことしちゃだめだよ」
「「「はーい」」」
子供達は、猫を抱いて、なでたり、一緒に歩いたり、猫の様子を見ていたりと、皆、猫に夢中になった。
これには、ルーシーとキャシーも
「「猫ちゃんかわいい」」
と、猫カフェ状態になった。
また、外でも、鬼ごっこに猫が参戦する。子供達が猫を追いかけまわす。
「強くつかんじゃダメだからねー。優しくだよ」
「「「はーい」」」
ユリシーとドロシーは目が点になる。
「猫がわんさかと」
「もしかして、テイマー?」
結局、真央やミーゼル、ルイーズ、リルにシーナは猫に囲まれながら、女の子と絵本を読んだり、絵を描いたり。また、猫と一緒におままごとなどをしていく。
ルーシーとキャシーはずっと猫にメロメロで戦力外だった。
外では、貴博とユリシーにドロシーが猫と子供達と一緒に走り回ることになった。
三時間もすると、子供も疲れてくる。もうすでに眠くなっている子もいる。
神父さんがやって来て、
「そろそろお時間です。子供達もとても楽しそうでした。来ていただき、本当にありがとうございます」
と、お礼を伝えてくる。
それに対し、どうしていいかわからない貴博達だったが、ユリシーがリーダーである真央の背中を押す。
「あ、こちらこそありがとうございました。私達も楽しかったです」
「それでは、依頼書を」
と、言われたので神父に依頼書を渡すと、完了したことを示すサインをしてくれた。
「「「ありがとうございました」」」
と、改めて神父さんに頭を下げて、教会を後にした。
ギルドに戻ると、真央は、受付に依頼書を提出する。
「はい。確かに完了しましたね。頑張りました。それでは」
と言って、マリーは六つのカードを出してきた。
「これが、皆さんの冒険者カードです。大事にしてくださいね。このカードに今日のポイントを加算しておきました。依頼を受けるとき、受け終った時に全員分出してくださいね」
「「「はーい」」」
「それでは、今日はこれでおしまいです。また明日来ますか?」
マリーが笑顔で、しかも内心、もう来ないで、と思いながら聞く。
「はい。来ます」
真央が答えた。
「わかりました。それではまた明日、同じくらいの時間でお願いします。お疲れさまでした」
と、マリーが今日のインターンシップが終了したことを告げた。
真央達は、改めて四姉妹にお礼を言い、ギルドを後にした。
真央達がギルドから出て行ったのを確認し、マリーは、四姉妹に手でちょいちょいとアイズをする。そして、二階を指さす。
ユリシーは、頷いて、ギルマスの部屋へと向かった。
「お疲れさまだった。どうだった?」
ギルマスがユリシーに聞く。
「なかなかにいい子達でした。貴族であることを鼻にかけることもありませんでしたしね」
「そうか、それはよかった」
「それより、テイマーがいたよ」
ルーシーが興奮気味に言う。
「テイマー? 何を手なづけていたんだ?」
「猫よ」
「猫? それ、何の役に立つんだ?」
「リーダーの真央って女の子が外にむかって「にゃん」と言ったら、数十の猫が孤児院にやって来たの。おかげで孤児院の子供達も猫に夢中だったわ」
「なんだろう。すごいのかすごくないのかよくわからないな」
「すごいわよ。うちのルーシーとキャシーなんて猫にメロメロだったし。もし、私達とあの子達が対戦することがあったら、大量の猫に囲まれて、かなり危ないことになると思うわ」
「……なるほど」
翌日の依頼、商人の財布探し。
「猫が見つけました」
その翌日の依頼、若旦那の浮気調査。
「猫が見つけました」
その翌日の依頼、食堂のネズミ退治。
「猫が片付けました」
その翌日の依頼、秘密文書の配達。
「猫が届けました」
その翌日、貴博達は、早めに来て受付のお姉さん、マリーに相談する。
「あの、猫が出来る仕事じゃなくて、なにか普通の仕事ってないんですか?」
「そうよ。真央が呼ぶ猫が全部やっちゃって、私達、何もしていないの」
と、ミーゼルも不満気だ。
「猫を使わなければいいじゃないですか」
マリーが言う。
「だって便利だし、かわいいし。っていうか、街の外に出る依頼はダメなの?」
「ダメです。あなた達はそもそもカッパーだし、インターンシップ中で正式な冒険者じゃありません。そんな危険なこと、させられません」
「冒険者の仕事って、人の役に立ててそれはうれしいけど、地味なのね」
と、ルイーズが愚痴を漏らす。
「そうですよ。依頼の九割はそういった地道な仕事なんです」
「お姉さん、この冒険者カード、依頼をこなさなかったら取り消されちゃいます?」
「インターンシップなので、仮発行みたいなものです。正式に登録してから一年間活動しないと取り消しになります」
「わかりました」
そこへ、四姉妹がやってくる。
「放課後木剣クラブ、今日は早いな」
ユリシーが声をかけてくる。
「はい。ちょっと受付のお姉さんに相談を」
「なんだなんだ? 相談って」
「猫を使って全部解決できちゃうから、やることがないんです」
貴博が言う。
「「「「……」」」」




