インターンシップ初日。子供達と遊ぶ依頼(貴博と真央)
冒険者ギルドから放課後木剣クラブが出て行ったのを確認し、受付嬢は走る。二階のギルドマスターの部屋へ。
ドンドンドンガチャ!
「おいおいマリー、返事をしてから開けろよ」
「ぎ、ギルドマスター」
「な、なんだよ。その形相は。一大事か?」
「はい。インターンシップの件です」
「は? そんなもの、新人冒険者に任せておけばいいじゃないか」
「で、ですが。これを見てください」
マリーと呼ばれた受付嬢はメモをギルマスに見せる。
「なになに、う、うん……」
ギルマスはつばを飲み込む。
「マリー、これ、受けちゃったのか?」
「断る理由が見つけられず」
「これ、何かあったら、三公爵家が黙っていないやつだよな。ダメなやつだよな」
ギルマスもマリーも冷や汗が止まらない。
「おい、今つかまりそうな最高ランクの冒険者、誰かいるか?」
「え、えっと、今、休息中ですが、プラチナの女神の四姉妹など、いかがでしょうか」
「いいな。あの四姉妹なら子供達の面倒を見てくれるだろう。下手なむさくるしい男どもよりいい。早速呼び寄せろ。報酬も弾むと」
「わかりました」
マリーは急いでカウンターへと降りて行った。そして、掲示板にでかでかと、「女神の四姉妹は、ギルド受付まで!」と貼り紙をし、さらに、依頼掲示板に、「女神の四姉妹を連れて来てほしい、報酬は一人につき銀貨一枚」と、依頼も出した。
受付嬢のマリーがあわただしく貼り紙をするので、ギルド内にいた冒険者はその依頼を覗き込んでは、ギルドから飛び出していった。
女神の四姉妹は二時間もせずに集められる。冒険者はほぼほぼ借り物競争のノリだった。帝都内にいて、大体どのあたりにいるのかわかり、しかも、プラチナランクの有名冒険者。聞き込みをすれば、すぐに見つかった。
四姉妹は、ギルマスの執務室のテーブルにつかされる。
「ギルマス、マリー、なんなのかしら」
リーダー兼剣士のユリシーがギルマスに要件を聞く。
「おやつを食べようとしていたところなんだけど」
「お昼寝したかった」
「……」
それぞれ剣士のドロシー、魔導士ルーシー、弓使いキャシーである。
「女神の四姉妹に最重要の依頼をしたい」
そのギルマスの真剣な面持ちに、四姉妹は黙って唾を飲み込む。
「それは、なんなのかしら、命にかかわるとか?」
「ある意味かかわる」
「そんな重要な依頼、私達でいいのかしら」
正直、命をかけてまで仕事をしたいと思っていない。
「君達が適任だと判断した。依頼料はそれなりに払うつもりだ」
ギルマスは、ためにためを作って、
「その依頼は」
「その依頼は?」
「インターンシップの世話役だ」
ガタンドタンゴロン……!
四姉妹がこける。
「ちょ、ちょっと待って。インターンシップの世話役なんて、新人に頼む依頼でしょう? なんで私達がやるのよ」
「頼むよ。君らしかいないんだ。このメンバー表を見てくれよ」
ギルマスは、メモを四人に見せる。
「「「「……」」」」
「よし、帰ろう」
ユリシーが合図をする。
女神の四姉妹、全員が立ち上がり、部屋の入口へと向かう。
「ちょっと待ってくれ、マリー、通すな。出すな。ドアを閉めろ」
「ギルマス、私達、まだ死にたくないから。こんな依頼受けられないわ」
「頼むよ。俺だって死にたくないんだよ。こんなの新人に頼んで粗相してみろよ。ギルドごと吹き飛ばされかねないんだぞ? ベテランしかできないんだよ。しかも、子供の扱いが出来そうな君ら四姉妹しか」
「これくらいなら、マリーだってできるんじゃないのか?」
ギルマスを含め、全員がマリーを見る。すると、マリーはそっと懐から紙を取り出す。
「この依頼をさせられるくらいなら辞めます」
と、その紙をテーブルに出す。紙には辞表と書かれてあった。
「マリー、それは引っ込めていい。なあ、四姉妹、報酬は弾むから」
「ちょっと相談させて」
と、四姉妹はひそひそ話をする。そして、
「ポイントを多めにもらえるならいいわ」
「わかった。善処する」
「それから、依頼は安全なやつを厳選して」
「わかっている」
「みんな、飲みに行くわよ。こんなの飲まなきゃやっていられないわ」
「「「……」」」
四姉妹は明るいうちから酒場へと向かった。
翌日の昼、貴博達は冒険者ギルドへ行く。
貴博は、マリーのところへ行き、インターンシップに来たことを告げる。
「言われたとおり、昼にきました」
「はい。今日からインターンシップですね。では、皆さんのお世話をしてくれるお姉さん達を紹介します。女神の四姉妹の皆さんです」
女神の四姉妹は、別に隠れていたわけではない。普通にテーブルでうだうだしていただけだ。
「女神の四姉妹のリーダーのユリシーだ。それから、ドロシー、ルーシー、キャシーだ。よろしく頼む。冒険者の仕事を体験してもらうが、今日はギルドが用意した依頼を受けてもらう。本来なら、依頼があそこの掲示板に貼ってあって、自分たちが受けたい依頼を受け付けに持っていくんだ。リーダーは誰だ?」
「真央、やる?」
「いいの? やります。はい。私です」
「はい。じゃあ、これが依頼。読んでみて」
「町はずれの孤児院の子供達の相手」
「はい。今日はその依頼を受けます。それを受付に出してくれるかな」
真央は、依頼書を受付に出す。
マリーがそれを確認する。
「はい。これで受付完了です。頑張って来てください」
「それじゃ、町はずれの孤児院に向かおうか」
ユリシーがギルドを出て行き、貴博達がそれに続く。最後尾に四姉妹の三人がついて行く。
「なんか、思ったのとちがうわね」
「子供の相手とか、冒険者がするんだ」
と、ルイーズとリルが話をしている。
「冒険者は基本的に困った人の手伝いをするのが仕事なの。それが街の中だったり、外だったりいろいろね。特に新人のうちは、街の中の仕事をこなすことが多いわよ」
と、ルーシーが説明する。
「なるほど」
ルイーズが納得した。
それを見て、ルーシーもホッとする。街の外に行きたいなんて言われたら、危険が増すし、こっちは確実に護衛が仕事の中心になる。怪我でもさせた日にはどうなることか。
放課後木剣クラブと女神の四姉妹は、とことこと街の中を歩いて行き、街はずれの孤児院につく。
「孤児院はたいてい教会が運営しているから、教会の横にあることが多いわ」
「そうなんですね」
「それじゃ、教会に行って、神父さんに依頼を受けてきたことを伝えましょう。はい、教会に入るよ」
皆で教会に入っていく。
当然、ギルドから神父に冒険者のインターンシップが行くことが伝えられている。むしろ、安全で怪我もしなくて、無難な依頼を貴博達にさせるため、ギルドから依頼をした方だ。
「ようこそお越しくださいました。それでは、こちらへ」
神父は皆を孤児院へと案内する。そして、子供達がいる部屋へ行き、
「みなさーん、冒険者の皆さんが、遊びに来てくれましたー」
と、神父が言うや、
「やったー」
「何する?」
「絵本読んで欲しい」
「お絵描きしたい」
などなど、子供が騒ぎ出す。
貴博達は、どうしていいか固まっていると、ユリシーが声をあげる。
「はいはい、男の子は、このお兄ちゃんと外へ行くよ。女の子は、こっちのお姉ちゃんに何して遊ぶかお願いしてね」
「「「はーい」」」
貴博とユリシー、ドロシーは孤児院の広場に男の子を引き連れて出ていく。
女の子は、真央やルイーズを捕まえては、絵本読んで、とか、お絵かきしよう、とか、おままごとー、とか言っている。
ルーシーとキャシーが真央達の背中を押す。
「ほら、みんなで遊ぶよ」




