かかってきなさい。全員まとめて相手をします。あおはるです!(貴博と真央)
と、ジェイズが言った瞬間、貴博は・魔力の流れを感じ、真横に飛ぶ。
貴博がいたところに爆発が生じる。
「よく気づいたな」
「いやいや、あんなの食らったら死んじゃうじゃないですか」
「なんでもありって言ったろう」
「わかりました。では、僕も行きます」
そう言って、刀をかまえたまま、貴博は低空でダッシュし、クラリスへと迫る。
そして、下段から切り込むが、その前にファイアバレットを先行させる。
バシュ、キィン!
クラリスはファイアバレットをよけ、刀を受ける。
「なかなかえげつないことをするじゃないか」
「なんでもありだと」
ドカン!
二人の中央で魔法が炸裂する。
「たぁ!」
貴博が切り込む。クラリスがそれをはじくが、両者の後ろで火魔法が爆発する。
両者がその威力に吹き飛ばされて剣とクロスさせる。
お互いの足元から火柱が上がり、それを飛んでよける。
見ていたグレイスが感想を漏らす。
「あれ、マーレ先生の戦い方だな」
シャルロッテが答える。
「マーレ、ここで教えていたことがあるのかもしれませんね。ターレかオプシディアンの誰かかもしれませんが」
キィン、キィン……
剣が交差する音が響く。時々、ドオン、ドゴンと言った魔法がぶつかり合う音も混ざっている。
「貴博、お前、猫をかぶっていたな?」
「前にも言いましたけど、僕より真央の方が強いですよ」
「そうか、今度手合わせを頼むかな、お前を倒してから」
「いえ、そろそろ様子見は終わりにして、僕が勝たせてもらいます」
貴博は、バックステップでクラリスから離れると、クラリスの四方八方から、ファイアバレットを撃ちこんだ。何発も何発も。
ドドドドドドゴン!
クラリスの周りが煙だらけになる。が、その煙の中からクラリスが飛び出してくる。
「やってくれたな!」
「いや、化け物ですか。あれだけ食らって」
「人を化け物扱いにするな。本気で行く」
クラリスは魔法を捨てたようで、全力で剣を振るって来る。
ものすごい剣の応酬となる。クラリスは上から下から何度も撃ちこみ、貴博はそれをすべてはじいて行く。
さすがに、体重が違い、貴博が押され始める。手数で負けているわけではない。
「先生、そろそろつらくなってきたので、本当に勝たせてもらいますね」
「やれるものならやってみろ」
貴博は、剣に魔力をまとわせ、切りかかる。
バチン!
剣が合わさった瞬間、閃光が光る。
そして、クラリスが動きを止める。
その瞬間に、貴博は、クラリスののど元に剣を突きつけた。
「勝者、貴博!」
「はあ、疲れた。先生、大丈夫ですか?」
と、剣を納めながら聞くと、クラリスはそのまま倒れた。
それを貴博が何とか支え、クラリスが顔から倒れ込むのを防ぐ。
「先生、先生!」
やばいかな、と、貴博は、こっそり脈をとる。心臓は動いている。呼吸も大丈夫。あとは、この面々が見ている前でヒールを使ってよいか。
「ん、んん」
クラリスが意識を取り戻す。そして、貴博に支えられていることに気づくと、何とか自分の足で立った。
「先生、大丈夫ですか?」
「ああ。何とかな。最後のは何だったんだ?」
「魔法の一種です」
そうか、ここには電撃魔法はないのか。と、貴博は想像する。
ないのではない。広まっていない。
「まあ、なんだ。これで、皇帝陛下も公爵達も納得するだろう」
「えっと、なんのでしょう」
「婚約に決まっているだろう」
「あはははは」
苦笑いをする貴博。
観客席から放課後木剣クラブが降りて走ってくる。先頭はもちろん真央だ。
真央が貴博にダイブして抱き着く。
「お兄ちゃん、かっこよかった!」
と。
「さすが私の旦那様です」
シーナが頬を染める。
その後ろで、ミーゼルが叫んでいる。
「お父様、早く! 順位がかかっています」
「「あ」」
と、ルイーズとリルも父親を呼ぶ。
娘に呼ばれて猛ダッシュをしてきた三公爵。
「「「婚約を認める」」」
と、何を急いでか用件だけをいう。
「あ、あの」
貴博が言葉を発する。
グレイスやその妻達まで集まってきている。
「あの、僕は、前から宣言している通り、成人したら真央と二人で旅に出ようと思っています。僕は、真央と一緒にいたいし、真央を守るために頑張って来たんです。つまり、僕の中心にいるのは真央です」
真央が頬を染める。
「ですから、せっかくのお申し出はうれしく思うのですが……」
「うれしいのよね」
ミーゼルが口を挟む。
「じゃあいいじゃない。私が貴博といたいの。それに燃えるわ。私も貴博の中心になってみせる」
「私も!」
「私も負けません!」
「私は初めから貴博様について行くと」
ミーゼル、ルイーズ、リル、そしてシーナが宣言する。
「ま、真央……」
と、貴博が真央に助けを求める。
すると、真央は一歩前に出て、腕を組んで言った。
「かかってきなさい。全員まとめて相手をします。あおはるです!」
「真央、そういうことじゃなくってさ」
「楽しそうでいいのです。競い合ってもっともっとお兄ちゃんに好きになってもらうんです」
そう、真央は笑った。かわいい。
「貴博、話がまとまったようだから、僕らは帰るよ」
と、グレイス達は引き上げていく。
れーちゃんとラミとルミはメイドに担がれていった。
「それじゃ、娘のことを頼むよ」
スノーホワイト公爵。
「うちの娘も幸せにしてやってくれ」
シトラス公爵。
「うちもよろしく頼む。旅に出てもいいが、時々顔を見せてくれ」
ネビュラス公爵。
「うちだけ男爵家だけど、よろしく頼むよ」
ウエッジ男爵。
そして、
「うちの娘ももらってくれ。ちょっと年上だが、自分より強い相手じゃないと嫌だと言っていてな。ようやくその相手が見つかったんだ。よろしく頼む」
皇帝陛下。
「じゃあ、僕もジェイドを連れて帰るよ。ジェイドとはこれからも友達でいてくれ」
ジェイズ。
訓練場には、放課後木剣クラブとその顧問のクラリスが残る。
「貴博様、よろしくお願いします」
「私も幸せです」
「私も貴博様をお慕いします」
「どこまでもついて行きます」
「ようやく、ようやく私にも婚約者が」
と、婚約者になった者が貴博に抱き着いて行く。
「……あの、さっきのシーナのお父さんの後の人、だれ? 年上がどうかって言っていたけど。っていうか、どうしてクラリス先生まで僕に抱き着いているんですか?」
「ん? さっき、婚約が認められただろう。ウェッジ男爵の後に、うちの父があいさつしただろうに」
「「「「……」」」」
固まる者多数。
「えっと」
と、悩む貴博に、シーナが言う。
「あのお方は、皇帝陛下です。で、クラリス先生がどうしてかって言うのは……まさかと思いますけど」
「クラリス・ミッテンバーグ。本名、クラリス・アンブローシア。この国の第一皇女だ。よろしく頼む、旦那様」
真央を含め、全婚約者が固まる。
「あ、あの、先生はおいくつ?」
「女性に年齢を聞くのか? まあ、答えてやる。十七だ。十歳年上だが、気にするな」
「……」
貴博は思う。他の七歳児を婚約者にするより罪悪感が少ないかも、と。
それを察した真央が貴博の横腹をつついた。真央、心を読むな。
「それからな、学校の中では先生でいいが、普段はクラリスと呼んでくれ」
「く、クラリス?」
「なんです、旦那様」
と、口調を変えるクラリス。
「あ、そうでした。私、家を出て一人暮らしをしていたので、これを機に、旦那様と一緒に住みますね」
これにより、ファイトアンドヒールの犠牲者が一人増えたが、クラリスは逆に強くなれると喜んでいた。
押しに弱い男、貴博。七歳。婚約者六名。父親たるグレイスに追いつくまであと十四人。




