真剣……これで僕、死んじゃうかもだけど(貴博と真央)
翌朝。
「貴博様、貴博様、朝でございます」
と、貴博のほほをぺちぺちたたく者がいる。
「な、何? 朝?」
貴博が目を覚まして体を起こす。
「はい。朝です。朝食の用意もできております」
と、貴博の目の前で妖精が浮いている。
「えっと」
「わたくしはサンタフェ、ちなみに真央様の下へカンタフェが行っております」
「そっか。グレイスが妖精をつけてくれるって言っていたっけ。サンタフェさんだっけ」
「さん、は、いりません。サンタフェとお呼びください」
「サンタフェ、じゃあ、よろしくね」
「はい。貴博様」
すると、ドアをノックする音が聞こえた。足音は聞こえていない。
サンタフェがドアを開けると、もう一人の妖精が入って来た。
「えっと、カンタフェ?」
「はい。カンタフェです。おはようございます。あの、貴博様にお願いがあります」
「何?」
「真央様が二日酔いでございます。ヒールをお願いします」
「……わかった。今行く」
貴博は、妖精二人をつれて真央の部屋へと向かった。
「真央、大丈夫?」
「ううん? 大丈夫じゃないです。頭が痛いです」
「そんなに飲んでいないのにね」
「子供の体で飲むのが間違いです、きっと。お兄ちゃんは大丈夫です?」
「うん。大丈夫。じゃあ、ヒールをかけるから」
「お願いします。二日酔いだと、自分ではうまくヒールがかからないみたいです」
「そっか。勉強になった。じゃあ、かけるよ。ヒール」
真央が光って、その光が収まると、
「あー、助かったのです。お酒はほどほどにするのです」
「そうして」
「ところで、この妖精さん達は?」
「パパが僕らにつけてくれたみたい。パパとの急な連絡も取ってくれるって」
「そうなんだ。かわいいのです。よろしくなのです。カンタフェ、サンタフェ」
二人は、シャワーを浴びて酒臭さを取り除いたあと、朝食を取り、学園へ行く準備を整えた。
二人は、いつも通り学園へと手をつないで歩いて向かう。ちがうのは、貴博の両肩に妖精が座っていることくらい。
「どうして、二人ともお兄ちゃんの肩の上なの?」
と、自分の肩になぜ座らないかと、暗に聞く。
「真央様の肩はなで肩で座りづらいのです」
「あー」
と、真央は一瞬で納得した。
二人が教室に入ると、すでに女子会が出来ていた。
貴博が教室に入ったのを見つけるや、
「貴博、昨日……」
と、声をかけたミーゼルの言葉がそこで止まり、肩に座っている妖精に視線が行く。
他の女子も気づいたようだ。
「貴博、その、肩に座っている、かわいいお人形のような……人? は?」
「カンタフェ、サンタフェ、あいさつを」
「カンタフェです」
「サンタフェです。私どもは、貴博様と真央様のお付きを命じられましたので、こうしてそばにおります」
「ということ。よろしくね」
「……初めて見た。妖精よね」
「うん。初めて。本の中だけかと思ってた」
「妖精って、メイド服を着ているのね」
と、公爵家三令嬢が妖精に見入っている隙に、シーナが貴博の腕をとる。
「貴博様、おはようございます」
と、上目遣いで顔を赤らめて挨拶をする。
「あー、シーナ、どさくさに紛れてー」
ミーゼルがシーナに苦言を呈する。
「ですが、わたくしは婚約者として認められておりますし……」
と、赤らめた顔を貴博の腕にぐりぐりして言う。
「ですが、ですが、今日の放課後、すべては決しましてよ」
ルイーズが力強く言う。
「そうですわ。今日、私もその腕につかまる権利を得るのですわ」
リルまでもが言う。
「あの、一応、僕の意見も聞いてもらえるんだよね?」
「「「断る権利があると思って?」」」
公爵家三令嬢がはもる。
「今日の放課後に決まるんだよね。お兄ちゃんがふさわしくないって思われちゃえばいいんだよ」
真央が言う。
「そんなことが許されると思って?」
「貴博様、全力でお願いします」
「お願いします」
「ほらほら、席に……つけよ」
クラリスは、貴博の肩に止まる妖精達に一瞬言葉を詰まらせるが、見なかったことにして、着席を促す。
「それじゃ、最初に事務連絡。放課後木剣クラブは放課後に訓練場に来るように」
クラリスは事務連だけ端的に伝え、何もなかったかのようにクラリスは授業を始めた。
放課後、放課後木剣クラブの面々は訓練場に向かう。
「シーナ、あなた放課後木剣クラブじゃないわよね」
「え? 貴博様の婚約者であることから自動入会です」
「む」
と、ライバル意識満載のミーゼル。
「シーナ、あなた、手を見せてみなさいよ」
と、シーナの手のひらを見るミーゼル。
「ふふん。そんな木剣も持ったことないような手じゃ、貴博様の旅の邪魔にしかならないわ」
「旅立ちまで九年あります。それまでにふさわしい妻になりますわ。なにせ、わたくしは婚約者ですもの」
「きー」
七人プラス妖精二人が訓練場に到着すると、馬車が並んでいることに気づく。しかも、高級そうな馬車が何台も。ミーゼル達は自分の家の馬車であることに気づく。というより、今日、このような場が設けられたことは事前に伝えられている。
貴博達が訓練場に足を踏み入れると、
「おーい、こっちだ」
と、訓練場の真ん中でクラリスが手を振る。なぜかクラリスは騎士服を着ている。
またクラリスの横には、ジェイドの兄、ジェイズがいた。
「君が貴博君か。弟のジェイドが世話になっている」
「いえ、僕もジェイドと一緒に鍛錬するのは楽しいので」
「あはは。ありがとう。その一言で認めたくなるね」
ジェイズは、貴博に今日のことを説明する。
「周りを見てごらん。真ん中から、皇帝陛下夫妻、各公爵家夫妻、ウェッジ男爵家夫妻、それと、あの集団は?」
貴博はジェイズの説明を聞けていない。その集団がずっと気になっていた。
「はい。パパとママ達です。
「ママ達?」
「パパは二十人の妻がいますから」
「……」
ジェイズはあの親にしてこの子か、と思った。
「あの、あっちで酒盛りをしている人達もか?」
ジェイズが指を差した方向にいたのは、ござを敷いて酒盛りをしている、れーちゃんとルミとラミだった。貴博はちょっと頭を手で押さえて答える。
「はい。一人がママの一人、残りの二人は、ママの母上達です」
「そ、そうか」
ジェイズは気持ちを切り替える。
「今日は、貴博君の見極めをするために、皇帝陛下まで来ている。頑張ってくれ。方法は、ここにいる、クラリスと戦ってもらう。僕が立会人を務める。いいかな」
貴博はうなずく。ダメなんて言えないだろう。あれ? 皇帝陛下って?
「それじゃ、ジェイド、他の子達を観客席に連れて行って」
「わかりました兄さま」
貴博を除く放課後木剣クラブの面々は、訓練場から観客席へと移動した。
「貴博君、その肩に乗っているのは?」
「あ、サンタフェ、カンタフェ、君達も向こうで見ていてくれる?」
「はい。わかりました」
妖精達も飛んでいく。
「それじゃ、立ち合いを始める。お互いに木剣でやる?」
「真剣でいいぞ。どうせ、怪我は必至だ」
「え? 子供相手に真剣ですか?」
「木剣だと折れるかもしれないじゃないか」
「あの、先生、僕が一年生だって忘れていませんよね?」
「私が一年生を担当しているのに、忘れるわけがないじゃないか」
「それに、僕は真剣なんて、持って来ていません」
というと、ミルフェとシルフェがグレイスの方から飛んできた。子供用の両手剣、刀をもって。
「えっと、ありがとう? これで僕、死んじゃうかもだけど」
ミルフェとシルフェが下がると、ジェイズが仕切る。
「それじゃ、いいかな。真剣を用いた勝負。魔法もありで。じゃあ、距離を取ってね」
貴博がクラリスから離れて、剣をかまえる。
ジェイズが両者を確認し、準備ができたと判断する。
「よーい、始め!」




