子供はお酒を飲んではいけません。飲ませてもいけません(貴博と真央)
その夜。貴博と真央は、久しぶりにグレイスの応接室に呼び出された。
「失礼します、パパ」
と、貴博と真央は部屋に入る。が、固まる。
そこには、グレイスだけではなく、二十人の妻が勢ぞろいしていた。さらにはメイド達がいる。
「貴博、真央、ちょっとこっちに来て座りなさい」
と、グレイスは、ソファの対面に座るよう勧める。
貴博と真央がグレイスの前に座ると、グレイスの周りを妻達が順番に埋めていき、取り囲まれる。グレイスの左右はいつも通り、シャルロッテとソフィリア。そして、貴博と真央の左右はリリアーナとレイが埋めた。
グレイスが指をパチンと鳴らすと、メイド達がグラスやおつまみ類を並べていく。
貴博と真央の前に置かれたのはシャンパングラス。それに、つがれるのもスパークリングワインだ。
ただし、レイの前には日本酒とイカが置かれている。
「えっと、パパ」
と、貴博が言葉を発すると、
「貴博、前世で数十年。猫歴あり、で、今世はすでに七歳。まあ、大人として飲もうよ」
と、グレイスが酒を勧めて来た。
「あの、体が子供ですが」
「心が大人で体が子供なだけだ。飲まなきゃやってられないこともあるだろう? 今日は聞きたいこともあるし、まあ、本音で語ろうよ。だから、僕のことはパパではなくグレイスと呼んで」
「え」
「真央もいい?」
「えっと、私、前世でもお酒ってちょっとしか飲んでないんですが」
「ま、健康な体になったことだし、いいんじゃない? それじゃ、カンパーイ」
「「「「カンパーイ」」」」
グレイスの妻達はノリがいい。あっという間にグラスを飲み干し、つまみを食べだす。メイドは、空になる前にグラスにどんどん酒を注いでいく。
ええい、と思い、貴博も真央もお酒を飲みこむ。
たわいのない話をしながら二杯三杯と飲んで、いい気分になってくると、貴博は思っていたことをグレイスに聞く。
「グレイス、君も転生者だよね」
「そうだよ。僕は八十で死んで、こっちに転生した。ソフィも七十六だったよね」
「うん。もうおじいちゃんとおばあちゃんだったよね」
「そんな年で転生して、子供からやったんでしょ?」
「そう。今君が体験している通り。いい年しておむつを代えられて、学校に通って、恋愛をしてね」
「それってどうなの?」
「貴博、君も思ったりしない? 自分っぽくなく熱くなっちゃったりとか」
貴博は、昨日、上級生を殴り倒したことを思い出す。
「結構ね、体に精神が引っ張られるみたいだよ。だってさ、十五歳で成人って信じられる? 十五歳で結婚だよ? ライラなんて、十四歳で僕と……」
バシン!
「何を言っているんですか!」
と、ライラが回り込んでグレイスの頭をはたいた。
「何が言いたいかって言うと、世界観が全然違うってこと。でも、それになじまないといけないし、慣れないといけない。ソフィリアなんて、一夫一妻制の世界から来たのに、あっという間に一夫多妻になじんだよ?」
「だって、フランちゃんかわいいじゃない。一緒にいたいって思ったもの」
「さて、本題。明日、今回の件に関連した親がもう一度集まることになった。学園の放課後にね。で、みんな、君を見たいってさ」
「……どういうことです?」
「君が公爵家の娘を娶るのにふさわしいかってさ」
グレイスは笑いながら言う。
貴博は、真央を見るが、真央はすでに頭を貴博の肩に預けて就寝中だ。
「僕は成人したら真央と一緒に旅に出る。ずっとその決意でいます。だから」
「それとこれとは別の話だ。真央以外に娶っても娶らなくても旅に出るんだろう? だから、どっちでもいいんじゃないのか?」
「それはそうですが。僕は、真央がいれば……」
寝ぼけた真央が声を発する。
「千里さん……」
「一夫一妻を押し通すのか、この世界になじむのか、真央と決めたらいいんじゃないか?」
「そうだぞ」
ついに、酔っぱらいれーちゃんが出来上がる。
「その時その時で、ここ」
と、貴博の胸に手を置く。
「それとここ」
その手をずらして貴博の股間に手を置く。
「それで決めたらいんじゃないか、あっひゃっひゃ」
真央の横にいるリリアーナが真っ赤な顔をする。
「れーちゃん、酔いすぎですよ」
シャルロッテが注意する。
「いいじゃないか。たまには若いやつをからかったって。ほらシャル、お前もせっかく貴博の正面にいるんだから、その無駄に大きいそれを寄せて、谷間を見せつけたらどうだ?」
「な、れーちゃん、ちょっと何もないからって!」
「いいじゃないか、グレイスはそれが好きなんだぞ!」
「ちょっと、れーちゃん、何を言いだすの?」
グレイスが火消しに入る。
その横でソフィリアがこめかみをぴくつかせている。
「なあ、フラン。お前はグレイスの好みを体系化しているんだろう?」
「むふー」
フランが得意げに鼻息を荒くする。
「わらわもグレイスの好みの体型だがな」
こはるまでが参戦。
「いい加減にしてって。多様性、多様性が大事だから!」
あはははは、と、妻達は盛り上がっている。
「ほらほら、貴博、日本酒も飲め、イカもあるぞ」
「あはははは。グレイスの周りはいつも楽しそうですね」
「ああ。楽しい。貴博、お前がどんな世界を作るかわからないが、自分の好きなように生きてみたらどうだ?」
貴博はれーちゃんに注がれた日本酒を一口飲んで、
「あー、久しぶり。それに、イカもおいしい」
と、一息をつく。
「貴博、楽しみなさい。せっかくの新しい人生だ」
「はい」
「ほらほら、真面目な話はやめて、ぽりぽり魚もあるぞ?」
と、れーちゃんは、乾燥させた小魚も出してくる。
「忘れちゃいけないのがこのマヨだ」
「うわ、マジでおいしい。真央、寝ちゃって残念がるかな」
「いつでも食べにこればいいさ」
リーゼロッテがやってくる。
「貴博、剣の方はどうだ?」
「はい、リーゼお姉さま、毎日グレイスに鍛えられていますよ」
「そうか、今度、手合わせしてやるからな」
「お願いします」
「私も稽古をつけてやろう」
おりひめまで参戦する。
「ありがとうございます。楽しみにしています」
貴博は、グレイスや多種多様な妻達と長い夜を過ごした。
「すみません。そろそろ、真央をちゃんと寝かしたいのですが」
「そうか。もうこんな時間か。貴博、また飲もう」
「はい。グレイス」
「あ、そうだ。ミルフェ、シルフェ」
「「はい」」
と二人の妖精がとんできた。
「あの、まさか、妖精まで奥さんにしているのですか?」
「私達はそのつもりなんですけど」
「なかなかベッドに誘ってくれなくて」
「「……」」
グレイスも貴博も、どうやって? と、想像する。
「ミルフェ、カンタフェとサンタフェ、確か姿を消せたよね」
「はい。私達もできますよ」
「二人を貴博と真央につけてくれないか。いざというときのための連絡に」
「わかりました。そのようにします」
「貴博、二人に妖精を二人付ける。メイドとして使ってもらって構わない。で、急遽僕に連絡を取りたいときは、妖精に言ってくれればいい」
「あの、妖精って、見つかったら問題になります?」
「さあ。慣れだと思うぞ。ミルフェとシルフェもすぐに受け入れられたし」
「そうですか。わかりました。よろしくお願いします」
「コルベット!」
「はい」
「二人を部屋まで送ってくれ」
「承知しました」
貴博は歩いて、真央は、コルベットに抱えられ、部屋へと向かった。
後ろからグレイスの声がかかる。
「明日も学校だからな。二日酔いはなしだぞ」
と。
貴博は、明日の朝、二日酔いだったらヒールをかけよう。そう誓った。




