転生(優香と恵理子)-5
十か月後
「待ってください、優香様、恵理子様」
十か月になる金髪の二人の子供が、短いドレスを着て、おむつを丸出しにしてとたとたと走っている。
「そんな短いおみ足で走ったら、こけます」
ドタッ!
「ほら見たことか」
「大丈夫ですかー、恵理子様!」
アンヌは毒づき、サーナは恵理子を立ち上がらせる。
「お願いです。もうちょっとおしとやかに」
「どうしたんだ、アンヌ」
「あ、グレイス様」
「ご主人様」
「えっとですね、二人が成長して、つかまり立ちをしたと思ったら、積極的に歩く練習を始めてしまいまして、ついには、走り出す始末です」
「早くないか?」
「二人とも、二人の間ではかなり話し合いができるようで、二人でいろいろと考えたのか、これは、私の想像ですが、身体強化を覚えてしまったものかと」
「あー、これだから転生者は。特に目的意識を持った奴は……」
と、グレイスは自分のことを棚に上げ、頭を抱える。
「さてと」
と言って、グレイスは素早い移動で二人を捕まえ、戻ってくる。
両脇に抱えられた二人は、
「あ、パパ」
「パパ、おはよ」
「はい。二人ともおはよう」
「ね、パパ、パパみたく速くなりたい」
「どうする?」
「あのな、二人とも、二人がやっているのは身体強化だろう」
二人は視線を合わせる。
「それは、魔法の一種なんだ。当面使用禁止だ」
「「え」」
「魔力と一緒で、体の方も基礎から鍛えてくれ。じゃないと、身体強化魔法に頼った体になってしまう」
「でも」
「でももへちまもない。魔法は六歳から」
二人はシュンとする。
「とりあえず後二か月はひたすら魔力ぐるぐると魔力操作。いいね」
「「はーい」」
グレイスは二人を開放する。
「ねえアンヌ、発声も早いよね」
「はい。それも二人で練習してまして……」
「魔力ぐるぐるのせいかな?」
「そうかもしれません」
こうして、転生から一年がたった。
二人は、謁見の間に呼ばれる。
「なに、ここ。もしかしてパパは王様だった?」
「ほんと、どういうことかしら、私達どうなるの?」
アンヌとサーナに連れられて、謁見の間を歩いて階段下まで行く。
階段の上では、グレイスと妻達が並んでいる。
さらに、両サイドには騎士団やメイド達が並んでいる。
「優香、恵理子、一年間頑張ったね」
「「はい、パパ」」
「これからだけど、家から出て、外の世界で育ってもらう」
「「?」」
「これまで家の中に閉じ込めてきたけど、外に出てもいいってことだ」
「やった」
「どんなかな」
「それでだ。この家を出てもらう」
「「え?」」
「ここはちょっと特殊な場所でね。ここでは、君達をこの世界の住人として育てられない。要は、世間知らずになってしまう」
「「……」」
「でも、心配しなくていい。これまで通り、アンヌとサーナ達をつける。それから、母上!」
「リーゼと」
「……リーゼ」
「なんでしょう、旦那様」
「……黒薔薇をつけてもらっていい?」
「わかりました。ジェシカ、ベティ、ビビアン、この子らの警護に当たれ。第九を連れて行っていい」
「私達ですか?」
「こっちに残って私との稽古の方がいいか?」
「はい、喜んで行かせてもらいます」
「旦那様、黒薔薇をということは、鍛えろということでもあります?」
「まあ、六歳までは体を鍛えるくらいしかやることないしね。六歳になったら、魔法を誰かに教えさせるよ」
「そういうことだ。ジェシカ、お前達で二人を立派な騎士にしろ」
「「「サーイエッサー」」」
「アンヌ、サーナ、メイド達と一緒に、この世界の生き方を教えてやってくれ。この二人は旅に出ることを目標としている。生活に関することは君達に任せる」
「承知しました」
「ということで、優香と恵理子、とりあえず、六歳までは自由に暮らせ。その後、十二歳まで教師をつけるから勉強に励みなさい。後は、君達が決めればいい。この世界では、十二歳から働くことが出来る。ちなみに、成人は十五歳だ。十五歳になれば結婚もできる」
「はい。わかりました」
「パパやママ達には会えなくなるのでしょうか」
「いや、時々遊びに行くよ。僕らには僕らの仕事があるからね」
「よかった」
「それじゃ、明日に備えて今日はゆっくり寝なさい」
「「はい」」
二人は、アンヌとサーナと一緒に謁見の間を退出した。
「ふう。これで大丈夫かな」
「大丈夫じゃない? 過保護な方だと思うよ。最初は孤児院任せにしようとしたでしょ? それに比べれば、お姫様扱いだよ」
「ソフィ、そうかもだけどさ。ここまで一緒に暮らすと、心配になっちゃうよね」
「まあそうだけどね。あーあ、久しぶりの赤ちゃん、かわいかったなー」
「そうだね。でも、これで落ち着いたよ」
「旦那様!」
突然シャルロッテが声を上げる。
「む、マジか」
そこにピンクヘアー陽が現れる。あずさも一緒に。
「やあやあ、久しぶり。一年ぶりかな」