誰も彼も後先考えずに行動するのはやめて欲しい(貴博と真央)
しかも、これは、真央が前世で貴博に使った手だ。
ウェッジ男爵は目を見開いて固まり、ミーゼル達は顔を真っ赤にして固まった。
貴博は、顔を真っ赤にして、「どういうこと?」と、周りに説明を求める。
クラリスが、髪をぽりぽりかいて、説明と宣言をする。
「貴博。騎士の見届けがあれば、略式だが婚約が認められることがある。で、私は騎士だ。認めてやる」
「クラリス先生。えっと、ちょっと待ってください、そんな簡単に認めないでください」
「だが、認めてしまったものは仕方ないだろう。あきらめろ。騎士に二言はない」
「じゃあ、先生。私もお兄ちゃんとキスするから認めて!」
真央がクラリスに懇願する。
「悪いけど、一日一回で十分だ。また今度にしろ、リア充」
「あーん! 先を越されたのです―」
「あの、貴博様、私ではお嫌ですか?」
貴博の顔の斜め下から、上目遣いで聞くシーナ。
「……」
こんな状況で断るような度胸もなく、
「パパに(断り方を)聞いてみる」
とだけ、返した。
「はい! それでは末永くよろしくお願いいたします」
シーナは、満面の笑みを貴博に返した。
「それじゃ、今日は解散。明日は、親を連れて来てくれ」
と、今日のところは、クラリスに解散させられた。
帰り道、真央はぶつぶつ言っている。
「お兄ちゃんとのキス、したいけどシチュエーション……」
「真央、前世でしたじゃん」
その一言で、真央は、あんなこともこんなことも思い出して真っ赤になる。
シーナがしたのは前世の真央と同じ手。シーナにずるいともノーカンとも言えない。
「うん」
と、真央は貴博の腕を抱きしめた。
「僕は真央とずっと一緒にいる。ずっと一緒にいたい。真央にいてほしい」
「うん」
貴博は、真央を引きはがし、そして、改めて抱きしめ、真央の唇に自分の唇を重ねた。
真央は、目を見開いて、貴博を手で押して離し、
「お兄ちゃん、道の真ん中!」
「あ」
道行く人が、ちっちゃな子供が何をやっているのかと、くすくす笑っている。
「お兄ちゃん、相変わらず考え込むと周りが見えなくなるんだから。変わってないよね」
「はい。ごめんなさい」
「もう」
真央は、笑いながら貴博の手を引いた。
「ほら、手をつないで帰ろ」
翌日の放課後。
この日は放課後木剣クラブの活動はお休みになった。その代わり、学園の会議室には、四公爵家が集まる。ただし、クリムゾン家は遠征中のクリムゾン公爵に代わり、長男のジェイズがいる。すでに怪我はよくなっているようで、騎士服をまとっている。
会議室のテーブルには、上座からクリムゾン家、ネビュラス家、シトラス家、スノーホワイト家の順番で座っている。この順番は、遠征に出る順番になっている。順番をきめておかないと、誰が上座かもめる。
この四公爵家の下座に、席を一つあけてウェッジ男爵が座る。さすがに、公爵の隣に座るのは気が引けたらしい。
そのテーブルの対面には、クソガキの親が並ぶ。カールス子爵、ドリッド男爵、ウォンド男爵、バターソン男爵の四人だ。席を一つ置いて、クラリス。
そして、正面には学園長が座った。
学園長が声を発する。
「挨拶云々は抜きにさせていただきたい。クラリス、状況報告を」
「はい。細かいことは置いておきます。高等学園に通う生徒四名が、帝国学園に通う一年生である、シーナ・ウェッジを使っていなかった倉庫へ呼び出し、日ごろから金をたかっていた模様。それに気づいたミーゼル・スノーホワイトをはじめとする放課後木剣クラブがその倉庫へ突入し、ことを収めた。というところです」
これに声をあげたのがカールス子爵。
「四公爵閣下方の前で失礼かとも思いますが、あれが収めたというレベルですか? 我が子はのどをつぶされ、肩と手首、膝までも砕かれ、もう声を出すことも剣を握ることもできないのですぞ! そのような、人とも思えぬ仕打ちを我が子にしたのが誰なのか、はっきりさせていただきたい!」
これに対してスノーホワイト公爵が殺気をまとって答える。
「今はそんなことを明らかにする時ではないのではないか? 貴様の息子は我が娘の髪をナイフで切ったらしいな。我が娘を蹴り飛ばしたらしいな。我が娘の頭を踏みつけたらしいな。今すぐ貴様ら一族郎党を我がスノーホワイト家が殲滅しても構わんのだぞ? 貴様ら一族が行ったことは、そういうことだ。まあ、今すぐはやめておいてやる。近いうちに必ず殲滅する。お前らも同じだからな」
と、他の三人の男爵にも牽制を入れる。
カールス子爵をはじめとした四人は震えあがる。この瞬間、四貴族が消されることが決定したのだ。
しかしこのままでは話が進まない。
上座に、カールス子爵の正面に座るジェイズが助け舟を出す。
「カールス子爵、今は言い訳ではなく、謝罪が先なんじゃないかね」
「で、ですが……」
シャキン!
ジェイズが立ち上がった瞬間、カールス子爵のほほが切れた。
「僕の助言すら足蹴にするとは、いい度胸だ。貴様、我がクリムゾン家に対しても敵対したぞ?」
と、ジェイズが言った瞬間、三人の男爵は椅子から降りて土下座をした。
「申し訳ございませんでした」
「私どもの子供の教育が至らなかったと反省します」
「反省いたしますので、どうか」
「謝る相手が違うんじゃないのか? 実害があったのは、ウェッジ男爵家とスノーホワイト公爵家だ」
冷静にネビュラス公爵が三人に告げる。
三人は大急ぎでテーブルを回ると、スノーホワイト公爵家の後ろで土下座をした。
スノーホワイト公爵は、おもむろに立ち上がると、無言で土下座をしているドリッド男爵の頭を蹴り上げた。
「まずはウェッジ男爵に謝ってこい! 一番の被害者はウェッジ男爵家だ」
「「「は、はい」」」
三人は立ち上がり、ウェッジ男爵を取り囲むように土下座をした。
しかし、スノーホワイト公爵は、ウェッジ男爵に言う。
「ウェッジ男爵。その場で首をはねていいぞ。どうせ我が家がそいつらを全員殺すんだ。今やっても同じだ」
そんなことを言われても、この場で剣を振り下ろす気になれない。というか、公爵家の四人が怖すぎるのだ。よって、ウェッジ男爵は、許すとも許さないとも言葉を発することが出来ない。ただただ、土下座に囲まれて、わたわたするだけだ。
「ウェッジ男爵。許す必要なない。そのまま放置で構わん。気にするな」
と、スノーホワイト公爵が、ウェッジ男爵に助言をした。
ジェイズが声をあげる。
「さて、謝ることもできないこのくずをどうしましょうかね」
カールス子爵に剣を突きつける。
カールス子爵は目から鼻から股間からいろんなものを流しており、立ち上がることもできない。
「好きにしたらいい。我らに敵対したのは事実だ」
と、ネビュラス公爵。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
と、ジェイズはカールス子爵ののどを、かばおうとした腕ごと突いた。剣で。
カールス子爵はのどから血を吹き出して倒れた。
「掃除……」
クラリスがつぶやく。
学園長がクラリスに視線で合図を送る。
クラリスは会議室を出て、掃除係を呼びに行った。




