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ローゼンシュタインの名において許さない(貴博と真央)

 放課後、六人は今日も訓練場で剣を交える。


 カンカンカン


 ちょうど、ミーゼルが真央の相手を終え、素振りに入ったところだった。

 訓練場の脇をとぼとぼと歩くシーナをミーゼルは見てしまう。

 どう見ても、シーナの足取りは重い。他のメンバーは見ていなかったようだ。


 ミーゼルは、


「ちょっと、用事を思い出しちゃった」


 と、木剣を力強く握ったまま訓練場を出ていく。


「「……?」」


 ルイーズとリルは首をかしげた。

 貴博は、


「真央」

 と、真央に呼びかける。だが、それだけだった。

 真央は、


「ちょっとトイレ」


 と言って、訓練場を出る。


 真央が訓練場を出ると、そこに、数十の猫が集まっていた。

 真央は、


「にゃん」


 と、猫達に声をかけると、猫達は散らばっていった。




 真央は、宣言した通り、トイレに行き、訓練場に戻った。


 訓練場に真央が戻ると、そこには、一匹の猫が待っていた。

 真央は、その猫の横を通り、訓練場に戻る。そして、


「お兄ちゃん、ちょっと行ってくるのです」


 と、宣言し、訓練場を出て行こうとする。


「まって、僕も行くから」


 と、貴博が真央の後を追うと、当然のように、ジェイド、ルイーズ、リルもついてくる。


 真央が、訓練場を出ると、待っていた猫が先行して歩き始める。訓練場の外を奥の方へ。

 ある、古ぼけた建物の前まで猫が真央達を連れて行くと、猫は、そこで「にゃん」と鳴いて立ち去った。




 そのちょっと前。

 ミーゼルは、こっそりとシーナの後をつけていく。見つからないように。

 シーナは、とぼとぼと歩みを進め、ある古ぼけた建物の前に立つ。

 そして、ノックをすると、ドアが空き、シーナは中に入っていった。

 ミーゼルはそれを見届け、さらに建物に近づく。そして、ドアの前まで行くと、ドアに耳を当てた。


「おい、昨日なんて言った? 金貨四枚って言ったよな。それが銀貨四枚だと? ふざけているのか?」


 少年は、リーナのベレーをつかんで取り上げ、そして、投げ捨てる。


「や、やめてください」


 シーナは、言葉で抵抗をする。


「お前、昨日切られたものを理解していないんだな。こっちの髪も切ってやろうか?」


 と、少年は、残った左に結ばれた髪をつかむ。


「お願いします。やめてください。ごめんなさい。明日、明日は持ってきますから。ごめんなさい、ごめんなさい」


 シーナは泣き出す。


「謝ったって駄目だ。昨日言ったことも守れないなんて」


 後ろの三人の少年は変わらずにやにやしているだけだ。


「ごめんなさい。明日、持ってきます」


 と、シーナは泣き顔で言うが、少年はつかんだ髪にナイフを当てた。

 そこへ、


「やめなさい!」


 と、ミーゼルが部屋に入り込んだ。


「あ?」


 少年達四人は、ミーゼルを凝視する。


「おいおい、お前、つけられちゃったのか? ダメじゃないか。ちゃんと気をつけないと」


 と言って、ナイフを当てていた髪を、サクッと切り落とした。


「あー」


 シーナが泣き、崩れ落ちる。

 少年は、切り取った髪をミーゼルに投げつける。


「お前が来たせいで思わず切っちゃったじゃないか」

「あなた達、許さない」

「へー、許さなかったら何だって言うんだ?」


 と、ナイフを持った少年が言った瞬間、後ろの少年の一人が飛び出し、ミーゼルの腹を蹴り飛ばした。


「あぐっ!」


 ミーゼルは飛ばされて、壁に激突する。


「ぐっ、ゲホっ」


 ミーゼルは倒れたまま、腹を押さえる。

 そこに、ナイフを持った少年がミーゼルのところまで歩み、そして、ミーゼルの髪をつかんで頭を持ち上げる。


「おいおい、聞いてんのか? お前が金貨四枚を、いや、利子付きで、明日、十枚持ってくるのか?」

「持ってくるわけないでしょう!」


 ザクッ!


 ミーゼルのつかまれていた髪が切り裂かれた。


「ああっ」


 持ち上げられていた髪を切られ、ミーゼルは崩れ落ちる。ミーゼルは目に涙を浮かべるが、ここは負けられない。私は、公爵家の娘なのだ。


 歯を食いしばって、顔を上に向ける。


「あんた達、絶対にゆるさないから」


 バシン!


 少年がミーゼルのほほを打った。


 バシン、バシン!


 少年は、ミーゼルのほほを右、左と打っていく。


「お前、生意気なんだよ。どこの誰なんだよ」


 自分を知らないなんて、下級貴族に違いない。ミーゼルは思う。涙があふれるが、そんな奴らに負けるわけにはいかない。

 だが、耐えられないものもいる。


「やめて、お願い。その子を放して。私が、私が明日、必ず持ってくるから」


 シーナは、もう大泣きしている。なんとか、それだけを声にした。


「シーナ、負けちゃダメ、こんな奴ら絶対に許さないから」


 ドガッ!


「許さないって、どういうことかな?」


 少年はミーゼルの腹に蹴りを入れた。


「ゲホッ、ゲホッ」


 ミーゼルは、倒れたまま胃液を吐く。


「お願い、お願いだから、許して……」


 シーナが、何とかすがろうとする。


 そこへ、


 ガンッ!


 扉を蹴とばして入って来る真央と貴博。


 だが、部屋を見回して状況を把握した貴博が、真央を制し、一歩下がらせる。


「ごめん、真央。僕、ちょっと怒った。ローゼンシュタインの名において、こいつら、許さない。僕の仲間にひどいことをしたこいつらを」


 貴博は木剣を握り、怒りの形相をもって、少年達に対峙する。


 すると、


「ちびっこが木剣なんてもって、どうするんだ?」


 と、ミーゼルの頭を踏みつけて、少年がナイフを見せつける。


「許さん!」

「だから許さなかったらどうするのかな? お前が金を持ってくるのか?」


 カチン!


 貴博は、床を蹴り、瞬間的に移動した。ナイフを持った少年の前へ。

 そして、木剣を突いた、少年ののどを。


「グエッ!」


 と、少年はナイフを落とし、手をのどにあてる。

 が、貴博は止まらない。

 ミーゼルを踏んでいた足の膝を思いっきり木剣でたたきつけた。


 バキィ!


 少年の膝が砕け、体が崩れ落ちる。

 が、崩れ落ちる前に、貴博は、もう一方の膝にも思いっきり木剣を水平にぶつけた。


 バキッ!


 左の膝も砕ける。

 貴博は、一歩下がって、崩れ落ちる少年の右肩にさらに木剣叩き落し、肩の骨も砕く。ついでに、のどを抑え射ている手首にも正面から木剣をたたきつける。

 そして、最後に、崩れ落ちた少年の延髄をたたきつけた。


 ドゴン!


 少年は床にたたきつけられ、気を失った。


 一瞬にして起こった出来事を、あっけにとられてみていた残りの三人の少年。


「クソガキが何をしやがる」


 三人が三人ともナイフを取り出した。狭い部屋である。ナイフが正しいのかもしれない。


「ナイフを出したってことは、覚悟をしたってことだね。じゃあ、遠慮なくやらせてもらうから」


 貴博は、流れるような剣捌きで、相手のナイフをよけては手首を砕く。のどに突きを入れる。膝を砕く。

 と、三人の少年を同じように無力化していった。


(真)「ねえセンセ、「ローゼンシュタインの名において」って、かっこいいこと言っていますが、ちょっと黒歴史になりませんです?」

(貴)「……やめて、真央……」

(真)「私も言ってみるのです。「グリュンデールの名において!(キラン!)」」

(貴)「お願い、許して」

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