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あおはる? ~放課後木剣クラブ誕生(貴博と真央)

 ジェイドは真剣に剣を振っていて、貴博と真央が近づいたことに気づいていなかった。


 貴博は、ジェイドに並び、剣を振る。


「ハッ! ハッ!」


 それに気づき驚くジェイド。


「へ、平民! 何しに来た!」

「ジェイド様が一生懸命に剣を振られているので、私もお付き合いしたくなりました」

「な、勝手にやれ! 俺はもう帰るところだ」


 と、木剣をしまおうとする。


「ジェイド様、もうちょっとやりましょうよ。せっかく体が温まってきたことですし」

「貴様なんかと一緒に剣を振れるか! 平民と一緒に剣を振っていたなんてことが知られたら、クリムゾン家の恥だ!」

「そんなこと言わないでくださいよ。それに、いつもの取巻きはどうしたんですか?」


 貴博は、剣を振りながら聞く。


「あいつらは帰った。なんかやることがあるとか言ってな」

「そうですか。で、ジェイド様はやることがないから剣を振っていたんですか?」

「お前! 失礼だぞ! 強くなりたいから剣を振っていたに決まっているだろう。剣を振るためにここにいたんだ!」

「じゃあ、もうちょっと振りましょうよ。せっかくだから。何なら、手合わせ願えませんか?」


 ジェイドは、貴博の強さを知っている。が、そんなことを言われて引き下がるわけにはいかない。


「よし、やってやる。剣をかまえろ」


 ジェイドは貴博と間合いを取って剣をかまえる。


 貴博もジェイドの正面に立ち、剣をかまえる。


「それでは、私が合図をするです。いいです? よーい、始め!」


 真央の掛け声で、ジェイドが貴博に切りかかる。

 それを貴博は右に受け流し、ジェイドの左側をすり抜ける。

 再び向かい合う。


「たー!」


 ジェイドが切りかかる。


「ハッ!」


 貴博が流す。


「やー!」


 ジェイドが切りかかる。


「ハッ!」


 貴博が流す。


 カンカン、カンカン、剣が合わさる音が何度も中庭に響く。

 当然、職員室にも聞こえてくる。


 クラリスは中庭を覗くと、ふっ、と微笑み、また職員室に戻っていった。


「はぁはぁ」


 ジェイドの息が荒くなってくる。


「ジェイド様、剣筋が乱れてきていますよ。集中です」

「な、貴様、さっきから受け流してばかりで。打ってこい!」

「それでは、少しだけ行きます」

「ハッ!」


 トン、と、ジェイドの肩に木剣が当たる。


「ハッ!」


 トン、と、ジェイドの手首に木剣が当たる。


「ハッ!」


 トン、と、ジェイドの胸に木剣が当たる。


 ジェイドは、よけなかったわけではない。よけられなかったのだ。


「貴様、いい気になって!」

「ジェイド様が打って来いと」

「たー!」


 ジェイドが上段から大きく木剣を振り下ろす。


「ジェイド様、大振りはダメです。隙を与えます」


 と、貴博はすすっと前に出て、ジェイドの腹に軽く木剣を当ててすり抜ける。

 すると、ジェイドは、木剣を地面に突き立て、そして、膝から崩れ落ちた。


「くそ! くそ! くそ!」


 と、ジェイドは、地面を何度も殴る。


 貴博は、ジェイドに寄り添い、その手を取る。


「ジェイド様、この手は地面をたたくためにあるのではありません。私達を、平民を、領民を、国民を守るためにあるのでしょう。そのように傷つけてはいけません」


「ヒール」


 そう、ジェイドの傷ついたこぶしに治癒魔法をかける。

 ジェイドは治癒されたことにも驚いたが、それ以前に。


「何で貴様はそんなに強いんだ。何で俺はこんなに弱いんだ!」


 顔は怒っているが、涙が流れている。


「ジェイド様。一つ目の質問ですが。私は成人したら真央と二人で旅に出ます。私は、絶対に真央を守るという決意をしています。だから、そのための強さが欲しい。そう父に願って、三歳から特訓をしてきました。毎日です。七歳児らしくない強さはそのせいだと思います。二つ目の質問ですが、ジェイド様は強いです。自分自身を強くするため、鍛えるため、こうしてお一人でも剣を振っていらっしゃるじゃないですか。その意思は必ずジェイド様をもっともっと強くします」


 貴博は、さらに聞く。


「ジェイド様は、なぜ、それほどまでに強くなりたいのですか?」

「……お前も知っているだろう。森からの魔獣魔物を抑えるのは、公爵家の役割だ。今期は我がクリムゾン家が対応している。我が家からは、父上の他に一の兄さまが出陣なさっていた。しかし、先日、その兄さまが怪我をされて帰って来られたのだ。兄さまは強い。強いのに、怪我をされた。俺もいつかは前線に出る。この国の人達を守るために。俺は欲しいんだ。守り続けられる強さが。戦い続けられる強さが。兄さまは怪我を治してまた前線に出ると言っていた。その兄さまが、強くなりたいと言った俺に、一緒に強くなろうと言ってくれたんだ。だから、俺は強くなる。兄さまに負けないように。兄さまと一緒に前線に出られるように。兄さまと一緒に……」


 ジェイドはこぶしを握る。


「さ、ジェイド様」


 空気を読まない貴博。


「いつまでも地面に膝をついていないで、立ち上がって剣を振りますよ」


 と言って、貴博は木剣を振り出す。


「な、貴様……貴博! もういい。俺のことはジェイドと呼べ。様をつけることは許さん。ついでに、敬語もやめろ。いいな!」

「はいはい、ジェイド。ほら、剣をもって」

「なっ、調子に乗りやがって、貴博、胸を貸せ!」


 ジェイドは、木剣をもって貴博に対峙した。


 座り込んでみていた真央は思う。いいなー、男の子って。それに、センセ、意外と子供っぽく青春しちゃってんじゃん。と。


 よし、と、真央は立ち上がり、


「私も混ぜてー」


 と、木剣をもって走り出した。


 カンカンカン、カンカンカン


 木剣が合わさる音が中庭に鳴り響く。

 クラリスは、よいしょ、と立ち上がり、中庭に出る。


「おーい、今日のところはそろそろ帰れよ。暗くなるぞー」

「「「はーい」」」


 三人は額の汗を拭き、笑いあう。


「それじゃ、また明日」

「おう。明日な」


 ジェイドが右手を出す。

 貴博がその手を握り、握手をする。


「あ、あたしも」


 と、その上に真央も手を重ねた。



  

 翌朝、教室で貴博と真央はミーゼル達と話していると、


「おはよ、貴博、真央」


 と、通り過ぎるジェイド。


「「おはよ」」


 貴博と真央は挨拶を返す。


「「「……?」」」


 ミーゼルたちは疑問符を頭に浮かべる。

 ミーゼルとルイーズは左右から真央の肩を組み、リルが真央の正面で顔を寄せる。


「何があったの?」


 ミーゼルが真央に聞く。


「うーん、あおはる?」

「あ、あおはるって何よ」

「うーん、男の友情みたいな?」

「真央は女じゃない」

「難しいです。放課後木剣クラブ?」

「何よそれ。余計にわかんないわ」

「顧問はクラリス先生で」

「だから、ちゃんと説明しなさい」


 たまりかねた貴博がフォローする。


「昨日の放課後、ジェイドが木剣をもって一人で鍛錬していたから、それに付き合った。そしたら、呼び捨てていいって」

「それで木剣クラブ? 放課後?」

「クラリス先生が顧問で貴博と真央が入っていると?」

「私も入るー」

「「私も!」」

「はいはい、静かにしろ、授業の時間だ」


 クラリスが教室にやって来た。


「先生、放課後木剣クラブ……」

「そんなクラブはないし、顧問もいない」


 と、バッサリ切るクラリス。


「「「ぶー」」」


 ミーゼルたち三人は、ほほを膨らませた。


「いいから授業を始めるぞ」



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