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気にしたら負け。真央はこういう子なんだ(貴博と真央)

 しばらくすると、クラリスがやってくる。


「おはよーみんな!」


 と、元気よく、教室に入って来た。

 ところが、返事をするのは、真央だけだ。


「おはようございます」


 貴博はこの年になって元気に挨拶をするのが恥ずかしいだけだ。

 だが、それを不思議に思うクラリス。


「おい。みんな? どうした? 不思議な体験をした、みたいな顔をして」


 クラリスが、パンパンと手を打つと、ようやく、生徒が動き始める。


「それじゃ、今日の授業を始めるぞ」




 午前中の授業が終わり、食堂へと足を運ぶ。

 食堂はそこそこ広く、一年生であっても臆せず座ることが出来る。

 真央と貴博がテーブルにつくと、


「ご一緒していい?」


 と、ミーゼルがやってくる。


「うん、いいよ」


 と、真央。そこへ、


「私達もいいかしら」


 と、二人の女子生徒がやって来た。


「私はルイーズ・シトラス」

「私はリル・ネビュラス。よろしく」

「うん。よろしくです」


 真央がニコニコの顔で返事をする。

 皆、貴族の子女らしく、静かに、丁寧に食事を進める。

 一応、真央と貴博もそれに習う。


 食事を終えると、おもむろにルイーズが話を始める。


「まず初めになんだけど、私達と友達になってくれる?」

「うん! なるなる! やった。友達が三人もできたのです!」


 真央は嬉しそうな顔をする。それを見て、貴博はうなずく。真央の幸せそうな笑顔は何にも代えがたい。だが、貴博はわかっていても一応聞く。


「二人とも、貴族だよね。僕らといて大丈夫?」

「先生が昨日言っていましたでしょ。ここでは貴族も平民もないって」


 リルが答える。


「でも、昨日の赤い髪の男子、公爵家って言っていたし、僕のこと嫌いみたいだけど?」

「それも大丈夫。私達三人も公爵家だから。つまり、この国の四公爵家のうち、三家がここにいるの。クリムゾン家が何を言っても気にしなくていいと思うわ」


 と、ルイーズが説明を加える。


「そうなんだ。それは心強い」

「あの、いくつか聞いていい?」


 リルが手をあげる。


「それで、まずなんだけど、どうして、わざと黒板けしに当たったの?」


 真央がバツが悪そうに答える。


「ばれていましたか。私じゃない誰かが当たっても嫌だったのと、なにより、あんないたずらに引っかかったら、面白いかなって思ったのです」

「「「……」」」

「あれ、面白くなかったです?」

「ま、真央、面白い面白くないじゃなくて、あんな嫌がらせ、無視していいのよ? 当たることないのよ? 当たった瞬間、あのバカ達は喜んでいたみたいだけど、他は誰も笑っていないわ」

「あら? 当たり方が面白くなかったのです?」

「そういう問題じゃないの。あなた、平民だってからかわれているのよ。っていうか、ストレートに言うと、バカにされているの。悔しくないの?」

「そういう、子供っぽいいたずらに付き合うのも面白いかなって……」


 三人の子女が頭を押さえる。


「あはははは。あきらめなよ。真央はこういう子なんだ。何でも楽しみたいって思っちゃうみたい」


 貴博がフォローを入れる。


「真央、あなたいくつなの……」

「え? もうすぐ七歳で、みんなと同じだと思うけど」

「なんか、発想が子供を相手にする保母さんみたいだわ」


 真央も貴博も苦笑いをする。


「もういいわ。それは。もう一つ聞くけど、さっきのは、風魔法よね?」


 真央と貴博が顔を見合わせる。まあ、堂々と使ったのだ。隠すことでもない。


「うん。お兄ちゃんは魔法の天才なのです」


 実際には、真央もある程度似たように使える。元研究者っぽく中二病を患っていた分だけ、貴博の方がイメージ力が強い。

 それに、貴博は、魔法を使えると知った時から、グレイスに頼み込み、何とか三歳から魔法を教わっている。グレイス直伝で。

 一方の真央は、丈夫な体を手に入れたことがうれしいのか、半引きこもりの貴博とちがって、武術を学びたがった。よって、どちらかというと、魔法は貴博、武術は真央が秀でている。


「魔法って、お父さまも言っていたけど、学園に入ってから習うんじゃないの?」

「私達は、パパから無理やり教えてもらったのです」

「じゃあ、真央も同じように使えるの?」

「私はお兄ちゃんほど使えないです」

「貴博、魔法の授業の時は、私達にも教えて!」

「まずはちゃんと授業を受けなよ。基礎ができてないとうまく使えるようにならないから」

「「「ブー」」」

「ほら、そろそろ休憩時間が終わるよ。教室に戻ろう」


 と、五人はそろって教室へと向かった。

 午後も普通に授業を受け、この日は終わった。




 翌日も登校し、教室へ行く。

 この日は、黒板けしはドアに挟まっていなかった。ところが、いつも真央が座っている机に、一輪挿しが置いてある。当然、嫌がらせだ。しかし、


「見てみて、お花が置いてあるのです。きれい!」


 と、真央は、花に顔を近づける。

 花を手につかんだと思ったら、それを髪にさし、


「見てみて、きれい? かわいい?」


 と貴博に聞く。貴博は思う。本当に真央はかわいいと。


「この花瓶ももらっちゃっていいのかなぁ。今日一日、ここにお花をさしておこっと」


 と、真央は花を花瓶に戻した。


 その光景を見ていた主犯であるジェイド達は、あっけにとられる。


「おはよー、っと? 真央、その花は何?」


 ルイーズが聞く。


「朝来たら、飾ってあったの。きれいでしょ」

「それ、違う奴だから」


 リルが言う。


「違うって?」


 真央は、当然わかっていて言う。


「ルイーズ、リル、気にしたら負けだ」


 貴博が二人にいう。


「おはよー、って、真央、その花……」


 教室に入って来たミーゼルにルイーズとリルが近づき、その肩をたたいて、首を振った。気にしたら負けだと。




 その翌日は、真央の上靴が隠された。見つかった時には泥だらけだったそれも、貴博の魔法で一瞬にしてきれいになった。

 その翌日は、昼休み中に真央のノートがゴミ箱に捨てられていた。しわしわになったノートも一瞬できれいになった。

 その翌日は、真央が水浸しになった。だが、一瞬で水がなくなった。

 いずれのいたずらも真央は楽しんだ。「明日は何かなー」と。




 さすがにそこまで真央に相手にされないどころか喜ばせているだけだと思うと、いたずらを仕掛けた方もイラついてくる。


 その日は、午後から剣技の実習だった。


 まずは、剣の型から練習する。何度も同じ型を繰り返しては確認する。


「じゃあ、二人一組になってお互いに確認しあってね」


 と、クラリスが言うと、


「平民、俺様が相手をしてやる」


 と、貴博の前にジェイドがやって来た。


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