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リア充、帝都学園に入学す(貴博と真央)

 年月はかなりさかのぼる。


 貴博、真央、共に六歳の春。もうすぐ七歳になる。

 ちなみに、優香と恵理子はこの年九歳、千里と桃香は八歳。まだどちらも旅に出ておらず、大陸の両端で厳しい訓練を受けている。そういう年。

 一方で、この年、貴博と真央の二人はアンブローシア帝国、帝都アンブローシアにある帝国学園に入学する。




 入学式の日。この日の付き添いはグレイスとソフィリア。


「新入生は教室に集まるって書いてあったから、そっちに行ってね。わかる?」

「はい。パパ、ソフィママ」


 真央が元気よく答える。


「貴博、真央のことよろしくね」

「はい。わかっています」


  グレイスとソフィリアは入学式が行われる講堂へと歩いて行く。

 貴博と真央は手をつないで教室へ向かう。


 真央はここに来るまでずっとご機嫌だ。貴博と手をつないでずっとスキップをしている。

 実際には、昨日の夜から楽しみすぎて、寝られなかったくらいだ。


「真央、学校に通えるのがそんなにうれしいんだ」

「うん。前の時も、うれしくなかったわけじゃないよ。だけど、休みがちだったし、あんまり友達もできなかったし。だから。ここでは思いっきり楽しみたいのです。それとお兄ちゃんと一緒ならどこでも楽しいのです」


 真央はおもいっきりの笑顔を作り、答える。かわいい、と貴博は思う。

 真央は、今世では、貴博のことをお兄ちゃんと呼ぶことにしたようだった。兄妹なので、間違ってはいない。ただし、貴博はローゼンシュタイン、真央はグリュンデールを名乗っている。


 貴博としては、学校がさほど楽しみというわけではない。人生三十数年、プラス猫。プラス七年。今更子供相手のつまらない授業をきいてなんだというのか。

 それよりグレイスの言葉、「真央のことをよろしく」の意味するところ。なんとなく想像がつく。真央をがっかりさせてはいけない。真央を楽しませないといけない。自分がサポートをしなければ。真央のために。自分は真央のために生きるのだ。

 



 貴博と真央は、校舎の廊下を歩き、一年生のSクラスへと向かう。Sクラスは、廊下の一番奥にある。

 教室のドアをスライドさせると、そこは、教室の前側。入って正面には教壇。左を見ると、階段状に机が並んでいる。


 二人が入った時には、一番前の机しか空いていなかった。

 だが、二人は気にすることもなく、一番前の机の席につく。真央は、むしろそこがよさそうだった。嬉しそうに座って、足をぶらぶらさせている。


 ちなみに、この国、アンブローシア帝国は、他国との戦争などがあるわけでもなく、基本的に平和である。

 しかしながら、それは手柄を立てる理由が一つないということ。つまり、貴族間の競争はつまらないところに現れる。


 それは子供も同じである。


 この帝国学園の入学試験はその最たるもの。入学できるかどうか、そして、このSクラスに入れるかどうかが大きな焦点となる。

 ちなみに、競争をするためには、相手を知らなければならない。しかし、貴族は貴族としか争わない。なぜなら平民と争っても何の意味もないからだ。そのため、貴族間の情報はしっかりと子供の頭にも入っている。逆に言うと、知らないということは、平民であるということ。


 教室にいた子供達は、誰もが貴博と真央のことを知らない。


「あいつら誰だよ。知らないってことは平民ってことか?」

「平民と同じクラスだと? 空気が汚れるじゃないか」

「平民風情がこの帝国学園に入学するなど許されることじゃない」

「平民ごときに負けるなんて、Aクラス以下に入ったやつらは恥ね」


 などなど、平民に対するあれこれが飛びかう。

 ちなみに、帝国学園は貴族だけでなく、平民の子供も才能があれば受け入れている。クラスになじめるかどうかは別として。


 真央は、貴博に耳打ちする。


「すごいのです。注目されているのです、私達。人気者になれるのですか?」


 貴博は思う。この能天気さはどこから来るのかと。

 真央は、学校に通えるのがうれしいだけだ。前世では注目されることもなく、いつも壁際に、影の中に、ひっそりといた。それが、健康的な体を得て、学校で噂をされるほどに注目を浴びている。そして、真央歴二十四年プラス猫歴プラス、ここまで約七年。貴博を除き、ここにいる誰よりも精神が大人だ。子供のあれこれなんてかわいいものだ。ちなみに、貴博はこういうのはめんどくさいと思っている。


 ガラガラと、ドアを開けて先生が入って来る。


「みんな揃っているな。私が今日からこのクラスを担任する、クラリス・ミッテンバーグだ。とりあえず、一年間よろしくな」


 と言うクラリスの挨拶に対し、


「とりあえず、ってことは、平民がこのクラスにいるのも、長くて一年ってことだな」


 なんて、ひそひそ話が聞こえてくる。

 それに感づいたのか、クラリスが話をする。


「君達は知っていると思うが、この学園は、貴族も平民も差別も区別もしない。能力至上主義だ。つまり、誰より運動ができる、誰より勉強ができる、誰より剣の扱いがうまい、誰より魔法の扱いがうまい。など、そういった評価がされる。だから、ここにいる全員に言う。だれそれを貶めている暇があるなら、自分を磨け。自分の能力をスキルをアップさせることに時間も思考も使え。人を貶めて、自分がその上に立って喜ぶような、くだらん人間になるな。実力で勝ち取って見せろ」


 一人の生徒が手をあげる。


「先生。ですが、貴族は偉いのですよね」

「貴族ってなんだ? 貴族だけで貴族って言えるか? 平民がいてこその貴族だろう。つまり、平民がいないと貴族なんてものは無くなるんだ。だから貴族は平民を領民を守る義務がある。平民は貴族からしたら守る対象なのだ。貴族なんてものがなくなっても平民はいる。だが、平民がいなくなったら、貴族なんて何の意味もない。貴族は偉いのかもしれん。だから、平民を大事にしろ」

「ですが、将来的に見ても、勤めるところ、国への貢献の仕方が違うと思います。同じクラスで学ぶ必要があるのですか?」

「お前は、平民に負けるのが怖いだけだろう。勉強の成績で、武術の授業で、魔法の扱いで、勝って見せればいいだろう。そのために、自分を磨け。人と比較するな」

「たとえ先生でも言っていいことと悪いことがあります。平民に負けるわけがない」

「あのな。このクラスに平民が二人いるが、その二人は、入学試験のトップと二番だぞ。このクラスの貴族全員がすでに平民に負けているんだ。ほらな。平民とか貴族とかいう区別をやめろ。そういう区別をしている間はずっと、平民に負け続けるぞ。考え方を代えろ。平民に負けたのではない。一クラスメートに負けたのだと。次はその一クラスメートに勝ってやると自分を磨け」


 そうは言われても、しょせん貴族の六歳児。納得できるものではない。


「な、僕のパパは公爵だぞ! たかが一教師が僕にそんなことを言っていいのか?」


 その言ってはいけない一言を生徒が発したその瞬間、教室は一瞬静まり返る。

 が、貴博は思わず笑ってしまう。そして、


「お前が偉いわけじゃないじゃん」


 と、つぶやいてしまう。

 しかし、静まり返った教室で、その言葉は隅々まで伝わってしまう。

 生徒は顔を真っ赤にして、階段状の席から降りてくる。そして貴博の前までやってくると、


「貴様、平民の分際で! 僕と勝負しろ!」


 と言って、貴博に手袋を投げつけてきた。

 貴博はそれをひょいとよける。

 すると、貴博の後ろに座っていた白髪の女の子の顔に当たってしまう。

 女の子は、みるみる目に涙を浮かべ、


「うわーん」


 と泣き出してしまった。


「ごめん。ごめんね。僕がよけたばっかりに。これ、僕が受けるから。ごめん。泣きやんで」


 貴博は、ポケットからハンカチを取り出し、女の子の手に無理やりそれを握らせる。

 そして、女の子の前に落ちた手袋を手に取り。


「よけて悪かった。ちゃんと受けるよ」


 と、答えた。


「貴様! 平民のくせに、言葉遣いってものを知らんのか!」


 ゴチン! ゴチン!


 クラリスが男子生徒と貴博の頭に拳骨を落とした。


「いったー」


 貴博が頭を押さえる。男子生徒は涙目だ。


「ほら、そこまで。貴博、その手袋をよこせ」


 クラリスは貴博から手袋を受け取ると、男子生徒のポケットに突っ込んだ。


「お前ら。今のは見なかったことにしろ。決闘なんて馬鹿なことをするな。授業の成績で勝負しろ。いいな」


 クラリスはそう言いながら、男子生徒の襟首をつかんで連れて行き、元の席に座らせた。


 ちなみに、その一部始終を隣で見ていた真央は、


「いいなー、テンプレです。私がやりたかったですー」


 と、目をキラキラさせていた。


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