千里はローレル側、桃香はセーラ側らしい(千里と桃香)
ルージュが持っている盾を殴り蹴る悪魔の横腹にローレルはこぶしを叩き込む。
「さっきはよくもやってくれたわね」
ローレルはルージュの左に立ち、アーニスの右こぶしや蹴りを受け流す。
ルージュも盾を使って同様に流す。
が、決定打が撃てない。むしろ、効いているようには見えない。
そこへ、
「二人とも、抑えて!」
その声にローレルとルージュがアーニスの腕をつかみに行く。
二人が腕を押さえた瞬間。
ザシュッ!
セーラがアーニスの胸にナイフを突き刺した。
「セ、セーランジェ……」
アーニスが崩れ落ちる。
「兄さま……」
アーニスが伸ばした手をセーラがつかむ。
「セーランジェ、俺は、お前のその美しさ、明るい性格、そして、国民からの人気がうらやましかった。怖かった。だから……死ね」
アーニスがセーラの手を右手で引き、左手で殴りかかた。
ザシュ
アーニスの左手が飛ぶ。
「私の友達に何をするんだ」
ローレルがナイフをふるった。
そして、ルージェがアーニスののどにナイフを突きつけた。
アーニスはついに崩れ落ちた。
セーラがアーニスに駆け寄る。
「お兄様……」
セーラがアーニスの手を取ろうとしたその瞬間。
アーニスが起き上がろうとする。
「セーラ、危ない!」
ザシュ! ザシュ! ザシュ!
千里がアーニスの背に、アイスランスを撃ちこんだ。
そして、今度こそ本当にアーニスが沈黙した。
アーニスが沈黙したのを確認した千里。
「セーラ! 早く終息宣言を! でないとフォンデが危ないかも!」
セーラは、アーニスの手を離し、涙をぬぐう。そして大声で宣言する。
「皆の者、戦闘をやめろ。国王と王子は倒れた。今日から私がこの国の王だ。私は、セーランジェ・カイナーズ、この国の王だ!」
謁見の間で戦闘を続けていた騎士達が動きを止める。
そのすきを見て、千里と桃香は謁見の間を飛び出し、フォンデのフォローに向かう。
「フォンデ、ごめん。大丈夫だった?」
フォンデは、まだ戦闘を続けていた。たった一つの扉を守るために。
「はい。これくらい何ともありません」
なんともないわけがない。服も肌も切り裂かれて、血が流れ出ている。
千里は声を張り上げる。
「お前達。今この瞬間に新しい王が誕生した。セーランジェ・カイナーズ国王陛下だ。剣を引け!」
「な、何を言っている! 国王陛下と王子殿下はどうした!」
「元国王陛下は、セーラに王位を譲る発言をし、王子に刺された。その王子は、悪魔化したため、我々が討ち取った。信じられないなら、謁見の間に行き、自分の目で確かめろ」
千里がそう言うと、衛士も騎士も戦闘をやめ、謁見の間へと向かった。
謁見の間では、王子の剣が刺さった国王、悪魔化した王子が倒れていた。
謁見の間に集まった騎士達にセーラが告げる。涙を我慢して。
「兄上であったアーニスは、悪魔化した。そのため、我らが討伐をした。その兄上は国王を刺し殺した。つまり、これは悪魔の犯行だ。悪魔がいつの間にか兄上とすり替わっていたに違いない。本物の兄上がどこにいるかわからないが」
セーラは続ける。
「このような事態が起こったため、王位継承権第二位を持つ私が王となる。異論はないな!」
「「「はっ」」」
衛士も騎士もひざまずく。
「それでは、勅命である。まず一つ目、王都内を走り回っている私の四人の従者を保護してまいれ。二つ目。我が国カイナーズ王国は、エルフの国シルフィードの傘下に入る。そのための手続きをしろ」
ザワザワと、衛士や騎士達に動揺が走る。
「我が国は、現時点でエルフの国、シルフィードに攻め入っている。しかし、攻め入った騎士達はすべてエルフの国で取り押さえられた。よって、我が国はエルフの国シルフィードに対し、敗戦の意を示し、騎士達を開放してもらう」
「そんな!」
「いいのだ。攻め入ってとらえられた騎士達も私の大事な国民なのだ。無事に帰って来てほしい」
「しかし、それではエルフの国から虐げられるのではないですか?」
「それも心配いらない。悪魔を倒してくれたこの二人は、ローレルとルージェといい、下の階でお前たちの相手をしたのはフォンデという。三人はエルフだ」
「「「「……」」」」
ローレル達がフードを取ると、美しく金に輝く緑色の髪、そして長い耳が現れる。
「しかもローレルはエルフの国の姫だ。そして、私の友達だ。だから心配するな」
衛士達も騎士達も驚愕の顔を浮かべる。
「簡単には信じられないかもしれん。だが、我が国カイナーズは、これから先、エルフの国シルフィードと共に歩む。いいな」
「「「「はっ」」」」
「そうと決まれば、文官達に仕事をさせろ。シルフィードとの和平条約を結ぶように言え」
十人がセーラの部屋に集まる。
ミシル達は、何事もなかったかのようにお茶の用意をする。
「ローレル、ありがとう。父上と兄上以外の血を流さず、王位を得ることが出来ました。本当に助かりました」
「いいのよ。私達は千里と桃香の役に立ちたかっただけ。それがセーラの役になったのなら、それは、千里と桃香のおかげだわ」
「っていうか、今回の騒動の発端は悪魔よ。セーラの兄さんがどこ行ったのかわからないけど、全部悪魔が仕組んだこと。セーラのお父さんと兄さんは、悪魔の犠牲になっちゃったの。そのかたき討ちが出来てよかったと思う、んだけど。どう?」
「はい。そう思います」
千里の言葉にセーラが答えた。セーラは続ける。
「きっと兄さまももう、この世にはいませんわ。千里が言うように、私が、私達が悪魔を倒し、父さまと兄さまの敵を討てた。それでいいのだと思います」
「じゃあ、めでたしめでたしでいい? セーラはちょっと悲しいかもだけど」
「はい。いいと思います。国民の犠牲はなく、騎士の犠牲がちょっとあっただけ。しかも、それは悪魔のやったことです。とはいえ、人のせいにしてはいけませんね」
セーラはローレルに向く。
「我が国、カイナーズは、貴国シルフィードに攻め入りました。全面的にこちらに責任があります。謝ります。申し訳ありませんでした」
セーラが頭を下げる。
「セーラ、頭をあげなさいよ。確かに、カイナーズがうちの国に攻め込んだのは悪い。だけど、それも悪魔のせいでしょ。それに、あなたがゲルンに言った通り、うちの国の傘下に入ると宣言したし。ま、悪いようにしないよう、ゲルンに言っておくわ」
「ありがとう。ローレル」
「いいの。友達でしょ」
「うん」
セーラは緊張の糸が解けたのか、涙を流し続けた。
「さあ、やることもやったし、千里、桃香、シルフィードに帰りましょう」
ローレルが千里と桃香に声をかける。
「いや、行かないよ」
「え? 何でです?」
「私達、セーラが集めてくれている情報が欲しいから、ここにいるけど?」
「な、情報ですか?」
「うん。この大陸中の、そして、他の大陸の情報を、セーラに集めてもらっているの。だから、ここから動けないの」
「……じゃあ」
ローレルが言う。
「私もここにいます。ねえセーラ。エルフの国と和平を結ぶんだから、街にエルフが歩いていてもおかしくはないわよね」
「うん。そうしようと思ってる」
「じゃあ、私、千里と桃香のそばにいる。つまりは、私もここに住むわ」
「「姫様!」」
「あなた達も私について来たなら一緒にいなさい」
「「はい。承知しました」」
なんとなくうれしいような表情を浮かべる二人。
ローレルは思い出した。
「ことが終わったら、その黒いかっこいいコートのような服を買ってくれるって言っていましたよね、千里。買ってください」
「ローレル、あなた千里と桃香についているのですわよね」
セーラがローレルに言う。
「ええ、そうだけど」
「じゃあ、メイド服も買わなきゃね」
「え?」
「「姫がメイド服?」」
ローレルだけでなく、ルージュもフォンデも反応する。
「ちなみに、私も持っていますわ」
「千里? 桃香? あなた達、一国の王女を何だと思って?」
「えっと、よくわからないけど、お付きなら着るって」
「ルージュ、フォンデ、あなた達は着なさい」
「「……」」
「そして、私も着ます。千里と桃香の友達であっても、付き人という役割は忘れていません。そこはきちんと線引きするべきです。だから私もメイド服を着ます」
「そんな必要はないんだけど」
「セーラ、さっき、カイナーズはシルフィードの傘下に入るって言いましたよね。ということは、私が筆頭メイドです」
「な、私の方が先にメイドになりました。だから私が筆頭です」
という、不毛なやり取りが始まる。
「桃ちゃん、これ、男の人だったらうれしいんだよね」
「そう思います。私から見てもメイド服はかわいいんです。だけど、こういう風に争うのは……」
「だよねー」
「千里! 桃香! メイド服を買いに行きますよ」
「ミシル、セシルもイリスもアデルも、私達もメイド服を新調しますよ。丈をかわいく短くしますよ」
「「「「……」」」」
「セーラ、エルフのこの抜群のスタイルを見よ! メイド服が世界一似合うのは我々だ!」
「は? 何を言っているんですか。メイド服には胸が必要なんですよ。エルフに胸はないじゃないですか」
「セーラ、お前、言ってはいけないことを!」
「あー、気にしてるんだ、ぺちゃ」
「キーッ! なんてことを! でかけりゃいいってもんじゃないだろう! 千里! 言ってやれ」
「え? 私、エルフ側?」
「桃香、あなたはこっち側です。その胸強調しなさい!」
「きゃー、セーラ、私の胸をもむのやめてください」
千里と桃香を巻き込んだこの争いは、まだまだ続く。




