セーラのクーデター(千里と桃香)
渓谷を出た後も、街や村は避けて通る。そして、数日後には王都が見えてくる。
「ねえ、セーラ。外からこっそり王城に入れる隠し通路みたいの、無いの?」
「あるのかもしれませんが、私には知らされていません」
「そっか。じゃあ、強行突破かな」
ローレルにルージュ、フォンデは指をぽきぽき鳴らしている。
「それじゃ、全員フードをかぶって。フォンデ、ミシル、馬車を飛ばして」
「「はい」」
馬車は王都の門に向かって疾走する。
それに気づく門兵たち。
「と、止まれ!」
大声をあげたところで止まるわけがない。
「門を閉めろ!」
と言ったところで、通行人が多数並んでいる。簡単に閉められるものでもない。
馬車が門に突入する。
並んでいた通行人達は慌てて飛んでよける。
「おい! 衛兵の詰所に連絡! 馬車が二台、強行突破した!」
王都内はあわただしくなる。鐘がカンカンとけたたましくなり続ける。
「王城のなるべく近いところで馬車を下りるよ。私と桃ちゃんとセーラは王城を目指す。ローレル、足止めをお願いできる?」
「任された。ルーシュ、フォンデ、やるよ」
「できるだけ、殺しちゃだめだからね」
「わかっている」
「ミシル達は、クーデターが成功するまで街中を逃げ回って、フードをかぶったまま」
「「「「わかりました」」」」
城門の前まで無理やりたどり着くと、
「それじゃ行くよ。ゴー!」
全員が馬車から飛び降りる、ミシル達四人は町方向へ散らばっていく。千里と桃香、セーラにローレル達は、王城へと入っていく。そして、前からくる衛士は千里と桃香が、後ろからくる衛士はローレル達が沈黙させていく。
六人は、謁見の間の玉座を目指す。
王城の広いフロアに出ると、多くの衛士に囲まれることになる。
「千里、行って」
と、ローレルが声をかける。
「お願い!」
千里と桃香は一点突破し、セーラを含めて三人が通ったドアを、ローレル達三人がふさぐ。
「ここから先は、通しませんよ」
と、ローレル。
「姫、通す通さないではなく、殲滅しますよ」
と、ルージュ。
「ルージュの言う通りです。これくらい、私とルージュにお任せください」
「あ、そう? じゃあ、私行くね」
と、フォンデの言葉を真に受け、ローレルが千里達を追いかける。
「え?」
「姫、鵜呑みにしちゃったよ」
「しょうがない。私達だけでやる?」
「ここを守るだけなら何とかなるかしら」
「ま、余裕ね」
「「来なさい!」」
二人が衛士達をあおる。
すると、百を超える衛士がルージュとフォンデに襲い掛かった。
しばらくはルージュもフォンデも衛士を殴り飛ばし、蹴り飛ばしていた。しかし、フルプレートメイルを着込んだ騎士がやってくる。
「あれ、殴ると痛そうね」
「そうね。どうしましょうか」
「私達も武器を使う」
「ま、時間が稼げればいいから、それで行きましょうか」
と、二人は落ちている槍を拾う。
さすがに鎧を着こんだ騎士は、そう簡単に倒れない。スピードが遅くなっているのでまだ対処ができる。しかし、倒すのに時間がかかる。
体力が尽きる前に、クーデターが成功するのか?
ルージュは疑問に思う。しかし、休んでいる暇はない。
千里と桃香、セーラは謁見の間に到着する。
中に入ると誰もいない。
セーラは絨毯の上を進み、階段を上り、玉座に座る。
千里と桃香はその左右に立つ。
すると、謁見の間になだれ込んでくる騎士達。
その先頭には、国王とアーニスがいる。
「父上、兄上。今日この時より、私が国王となります」
セーラが宣言する。
「な、なにを!」
と、怒りにまかせて大声を出すアーニス。一方で、
「セーランジェ、私のセーランジェ。決心してくれたか。お前は王位には興味がないと思っていたよ。だが、お前がそれを望むなら、今より、王位をお前に譲ろう」
国王がいとも簡単にセーラに王位を渡そうとする。
「な? 父上?」
納得いかないのがアーニス。
「なぜ、セーランジェに王位を?」
「私は、セーランジェが王位に興味がないと思っていた。セーランジェは賢いし、何より国民に人気がある。だから、セーランジェこそ国王にふさわしいと思っていた……」
国王がそこまで言ったところで、アーニスが剣を抜き、国王の胸に剣を突き刺した。
「グハッ!」
「父上―!」
セーラが叫び、そして、玉座より立ち上がり、駆け寄ろうとする。が、千里がそれを諫める。
代わりに、槍を持った千里と桃香が階段を下りていく。
「アーニスとやら、国王を、父親を殺すとはどういうことだ?」
「貴様、千里とか言ったな。そんなのは決まっている。王位を継ぐのはこの俺様だ。セーランジェに王位を譲ろうとした国王も、王位をうばおうとする妹も俺様はいらない。死ね!」
そう言って、アーニスは剣を千里に向ける。
「お前達、たかだか三人だ。殺せ。クーデターを起こした罪人だ。気にするな。殺ってしまえ!」
千里と桃香が百を超える騎士達に立ち向かう。
千里と桃香は、槍で騎士達を殴り倒していく。スピードを乗せた動きで、相手の剣をよけながら。
だが、それを横目に走り出すアーニス。
「お前を殺れば終わりだ!」
アーニスはセーラに向かって走る。
「あ、やばっ! 桃ちゃん!」
と、騎士をぶん殴りながら桃香に応援を頼む。しかし、
「千里さん、ごめんなさい。行けません」
と、桃香も周りを囲まれた騎士を殴り倒すので精一杯だ。
二人とも、騎士達に囲まれており、身動きが取れない。
「死ね!」
アーニスがついにセーラに剣を振り下ろす。
その瞬間、風が吹いた。
アーニスが横に吹っ飛ぶ。
「間に合ったー」
「「ローレル! ナイス!」」
「ローレル、セーラの護衛をお願い!」
「承知!」
ローレルがセーラの護衛についた。
千里と桃香は安心して騎士達を殴り飛ばして無力化していく。
三十、五十と、倒していくが、その時、
「きゃっ!」
ドゴーン
ローレルが吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。
「ローレル!」
千里が振り向いた先にいたのは、真っ赤な両目、浅黒い肌、背中から伸びる黒い翼、そして、細長い尾。悪魔だった。
「よくもよくもよくも、妹の分際で!」
「桃ちゃんやばい、変なの出た!」
「こっちもやばいです。終わりません」
「貴様がいなければ、何もかもうまくいったのに。貴様がいるせいで貴様のせいで!」
悪魔がこぶしを振り上げ、セーラに殴りかかる。
ドゴン!
「いったーい」
騎士から奪った盾をセーラの前で構えるルージェ。
「ルージェ! よく来てくれた。でもフォンデは?」
「フォンデは下の階で一人で足止めを」
「じゃあ、早く何とかしないと。桃ちゃん、ごめん。無理やり突破して、ローレルを復帰させて!」
と、千里は桃香の前の騎士に槍をぶつける。
「わかりましたー」
桃香がローレルの下へと走り、ヒールをかける。
気づいたローレルが、
「いったー。油断したー」
と復帰する。
「桃香、あの悪魔は、私とルージュが押さえます。お二人は、騎士達をお願いします」
「わかった」
ローレルの提案に桃香は一人で奮闘する千里の背に戻る。そして、ローレルはルージュのところへ走る。
「桃ちゃんおかえり。でも、これ、終わんない」
「コツコツやりましょう。ローレルさん達が何とかしてくれるかもしれません」
「なるかなー、なるといいなー」
と、千里と桃香は騎士達をひたすら倒す。
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