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エルフのアラ百は若造(千里と桃香)

「それがね、いい方法が思いつかないのよ。ねえ、セーラ。王子ってこの出兵に出てくると思う?」


千里がセーラに疑問を投げかける。


「思いません」

「だよねー。じゃあ、攻めてくる騎士団って、セーラの言うことを聞くと思う?」

「兄上の命令の方が上位なので、聞かないと思います」

「当然セーラに出会ったら殺しに来る。だけど、それをすり抜けて王都に戻りたい。戻ったところでセーラが国王と王子を何とかすると」


 千里は悩む。桃香の方を見ても桃香は顔を振られるだけだ。


「その騎士達は、ここまで攻めてくるつもりなのか?」

「ゲルン、あなたがそういったんじゃない」

「そうだが、どこまで本気なのかとな。もし、ここまで攻めてこようと森に入ったのなら、我らが足止めをしておこう。そのすきに千里様達は王都に向かうというのはどうだろうか」

「殺しちゃわないのよね」

「森の中をさまよい続けさせるから、日が経てば経つほど飢えるかもしれんな。それにいざというときは、殺させてもらおう」

「それでお願いできるかしら、ゲルン」

「承知いたしました。それでは、森に我が戦士と兵士を展開させます。敵兵が森に入った段階で迷わせます。そのすきに森を出てください」

「ありがとう。そうさせていただくわ」


 と、千里はセーラを見て、言う。


「ほら。もうちょっとここでゆっくりできるわよ」

「今すぐ出るわけにはいかないのですか?」

「出てもいいけど、はち合わせたらそこでやりあうことになるわよ? 渓谷も含めて結構一本道だったわよね」


 セーラはもどかし気に口を閉じる。


「だからね、おいしいご飯を頂きましょう」




 数日後。


「敵兵、哨戒が森に入りました」

「本体が入るまで泳がせろ」


 さらに数日。


「本体が森に入ってきます。その数二千!」

「意外と少ないな。よし、手筈通り迷いの森を発動させろ」

「「「はっ!」」」


 カイナーズ軍を見ていたエルフ軍隊長は、肩に止まるオウムの足についた小さな筒に手紙を入れ、オウムを飛ばした。


「大長老様。連絡が入りました。敵軍、森に侵入しました」

「わかった。千里様達を呼べ」




「王国軍が森に入ったって?」

「はい。二千です」

「じゃあ、しばらくお願いしていい? 私達、行くね」

「ちょっとお待ちください。千里様と桃香様にお願いがございます」


 ゲルンの後ろに姫が現れる。なぜか武装している。


「千里様、桃香様、姫を同行させてください」

「え、なんで?」

「千里様と桃香様に敵国の姫が……」


 ゲルンが言いよどむ。しかし思い切って言う。


「敵国の姫が友達とおっしゃられました。それは私どもとしては納得できません。是非、私どもの姫もお連れください。そして……」


 再びゲルンが言いよどんだところで、


「お友達になってください。ローレルです」


 と、エルフの姫、ローレルが言った。

 ゲルンがフォローする。


「申し訳ありません、千里様、桃香様。お二方のような方の友達になど、恐れ多いことではございますが、どうかお聞き入れをお願いします。姫は、お転婆なことが幸いして武も魔法も能力にたけています。拾い食いで死ぬことはあっても、敵にやられることはないと思います」

「「「……」」」


 千里と桃香、さらに姫があっけにとられる。ひどい言いようだと。

 そして、


「友達って、そういう立場とかプライドとかでなるもんじゃないんだけどさ。まあいいか。よろしく、ローレル」

「よろしくです。ローレルさん」

「ただし、条件があるわ、ローレル」


 エルフの姫、ローレルは何かしら? という疑問の表情を浮かべる。


「私達の国に有名な格言があるの。それは、「友達の友達はみな友達」よ。ということだから、あなた、セーラとも友達になるの。それでいい? セーラもよ?」

「もちろん、そんなこといいわよ。千里様と桃香様のそばにいられるのであれば、そのようなことは些事です」

「私も構いません。というか、私からもお願いします。お友達になってください。ローレルさんは、きれいだし、かっこいいし……」

「ローレルでいいわよ。セーラ」

「はい。ローレル」


 二人は、握手を交わす。


「それに、こちらからも付き人を出す。ルージュ、フォンデ、お前達がつけ」

「「はっ」」


 ルージュとフォンデが返事をする。


「防衛隊長と副隊長じゃなかったっけ? いいの?」

「姫は千里様と桃香様をお守りする。その姫をお守りするのに必要だ」

「そ。ありがとう、と言っておくわ」

「うちも大所帯になってきましたー」

「そうね。みんな、準備ができ次第出るわよ」

「「「はいっ」」」




 ゲルンは、馬車を二台用意してくれ、食料等も積み込んでくれた。


「千里様、森を抜ける道はルージュが知っております。ですので、ルージュを御者として先行させてください。その後は、千里様と桃香様のご指示通りに」

「ありがとう、ゲルン。それじゃ、行くわ」

「ゲルンさん、ご飯おいしかったです。また来ますね」


 千里と桃香は馬車の上からゲルンに別れを告げた。




 馬車の中で


「千里様」


 ローレルが千里に声をかける。

 千里は、返事をするわけでもなく、ただローレルをにらむ。


「な、なんでしょう、千里様。私、何か……」

「あの、ローレル、あなた、何になりたいって言った?」

「……友達にと」

「なら、呼び捨てね。いい」

「え?」

「いーい!?」

「は、はい。えっと、ち、ちさ、と」

「なに、ローレル」

「あの、皆が着ているそのコートのような服、私達にもくれません……くれない?」

「今はいろいろあるから、落ち着いたらね。みんなでおそろいだから」

「はい。よかった」

「ところで、ローレル、あなた、いくつなの?」


 ローレルは二十歳前後の大人に見える。千里や桃香より大人っぽい。ある部分を除いて。


「あの、まだエルフとしてはあれで……きゅ、九十と、五歳です」

「アラ百?」


 桃香が思わず声をあげる。

 ローレルが顔を赤くしてうつむく。


「桃ちゃん、女の子の歳を気にしちゃだめよ?」


 千里は、前世で桃香にアラサーと言われた経験がある。


「は、はい。千里さん、ごめんなさい」


 千里は桃香の耳下で、「私達と同じくらいじゃん」と言い、桃香もそれに納得する。


「す、すみません、若造が偉そうに……」

「え、そっち?」


 千里が意表を突かれる。


「まあ、友達なんだし、気にしないわ。私達にも年上の友達はいるのよ」


 と、恵理子と優香のことを思い出す。もちろん、セーラも一つ年上だ。




「千里様、森を抜けました」

「よし、モルガンの街も避けて、一気に渓谷に入ろう!」

「はい」


 渓谷に入ると、ローレルが疑問を口にする。


「この渓谷、岩壁がすべて焦げていますけど、何かあったのでしょうか」


 千里と桃香はだんまりを決め込む。

 セーラは、自分達が皆で火魔法を放ったと言いたかったが、自分とミシル達が大して貢献していないことから、同じくだんまりを決め込む。ほぼほぼ千里と桃香のバカでかい魔法のせいだ。


 黒こげの渓谷を馬車が進む。


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