どうしたもんかねぇ(千里と桃香)
翌日、応接室に通された千里と桃香。
「本日は朝から申し訳ありません、千里様、桃香様」
ゲルンが話しかけてくる。
「えっと、いいけど、どうしたの? 姫もいるけど」
「今後の話をさせていただきたく思います」
「今後?」
「はい。我が国とカイナーズ王国の戦争の話です」
セーラが顔を青くする。
「現状、我が国が攻められておりますので、これから反撃に出ます。ただ、カイナーズの一部隊を殲滅しておりますので、向こう側でも気が付いているかもしれません。そうなると、奇襲は難しいでしょう」
「あの、そのような話を私達にする理由は?」
姫が一歩前に出る。
「我がシルフィードは、千里様、桃香様に付き従います。が、今回の件は、お二方が何をおっしゃられようと我が国のメンツの問題です。泣き寝入りはできません。ですので、カイナーズに攻め込みます。ご承知おきいただきたく思います」
姫がゲルンに代わって宣言した。
「それは絶対なの?」
「絶対です」
「うーん」
と、千里と桃香が悩む。そこへ手を挙げたのがセーラだった。
「あの。発言をお許しください」
皆が注目する。
「今回、我が国の軍がこのシルフィードに攻め入ったのは、我が父と兄の指示だと思います。私も承知していませんでした。つまり、戦争状態にしたのは父と兄です。責任はこの二人にあると思います。そこで、提案させていただきたい。私は、昨日国を裏切るという話をしました。それを決行します。私が国でクーデターを起こし、私が王となります。私が王となった暁には、私を含め国ごと千里様、桃香様の傘下に入らせていただきます。付き従います。そうすれば、我が国と貴国は兄弟です。争う必要は無くなります。そのために、お力をお貸しいただけませんでしょうか」
ゲルンが怒りの表情を浮かべつつ、呆れて答える。
「あのな、小娘。我が国に全くメリットがない。これからお前の国を滅ぼして、我が国の属国にするのだぞ。何が兄弟だ。ふざけたことを言うな。対等なわけがあるまい」
セーラがシュンとする。ゲルンの言っていることは正しい。よくわかる。だが、このままでは、国中が戦争になり、民に被害が及ぶ。もしかしたら、弱ったところに他国から侵略があるかもしれない。
「とはいえ、無血で国を乗っ取り、それを属国にする方が楽と言えば楽だな。セーラと言ったか、カイナーズを落とし、国王になれ。その上で我が国に忠誠を誓え。さすれば、我が国はお前の新しい国には攻め入らないでおいてやろう。それでどうだ? できなければ潰すぞ」
これしか手はないのか。実際我が国が悪い。これについて千里たちに助けを求めるわけにはいかない。それに、属国。どれだけひどいことになるか。
「お前達は、他の国々とも争っているのであろう? 我が国の属国になれば、助けてやれることもあるかもしれんぞ?」
正直、属国になった後の待遇の話だけだ。国民が虐げられるのは抑えなければいけない。
「わかりました。クーデターを成功させ、私が王となった後、王位を譲ります。譲る相手はお任せします。我が国は、帰国の属国となります。それでよろしいでしょうか」
「わかった。では、楽しみにしておるぞ」
「それでは失礼します」
セーラが立ちあがる。
「セーラ、またね」
「セーラさん、ごきげんよう」
千里と桃香がセーラに別れを告げる。座ったまま。
セーラは固まる。
「あ、あの、千里さん、桃香さん」
なぜかさん付けになる。
「一緒に帰るのではないのですか?」
「ごはんおいしかったんだもん。もうちょっといたい」
「お肉おいしかったのです」
「「キュイキュイ」」
「千里さん、桃香さん、このパターン、もうおなかいっぱいなんです。あの、一緒に帰って手伝ってもらえませんか?」
「え、クーデターでしょ。王と王子を殺ればいいんだよね。セーラなら寝室でもどこでもいつでも入れるんじゃないの? サクッとやっちゃえばすぐだよ」
「私が父上と兄上を……?」
「誰にやらせるつもりなのさ」
千里が真顔になって聞く。
「……」
セーラがうつむく。自分が父親と兄を手にかける。それを急に実感し、体が震える。
これまで慕ってきた父親と兄である。自分達を亡き者にしようとしたとはいえ、そう簡単に決心がつくものでもない。
「セーラ、あなた、殺されるところだったんだからね。本当なら、あの騎士達と一緒に磔だったんだから。それでいいの? ほっといたら、また狙われるよ? 今回は、ガチで危なかったんだから。それからね、今、あなたが死ぬのを回避したことだし、これから国民が戦争に巻き込まれるのを回避するんでしょ。誰がやるの? 誰が国民を守るの? このままだと、三方から攻められるのよ。そしたら、死ぬよ、国民が」
千里は続ける。
「あなたのお兄さんね、もしかしてエルフに勝てると思ってるんじゃないの? 私、会うまでわからなかったけど、たぶん無理ね。魔法技術のレベルが段違いだわ。あなた達、ホーンベアを相手にした時も、誰も魔法を撃とうとしなかったじゃない。魔法を撃てる者が少ないんじゃないの? ミシルだって魔法を撃てたけど、あれくらい、ここのエルフなら全員が撃てると思うわよ。実際、騎士達があっさり捕まっていたわよね」
ゲルンも姫もうなずいている。
「はっきり言うけど、あなたの父親とお兄さん、踏んじゃいけない尾を踏んじゃったのよ。どうするの、第一王女様」
セーラは泣きそうな顔をこらえる。そこへゲルンが口を挟む。
「口を挟んで申し訳ない。昨日も言ったが、我々がそちらの騎士を捕まえた段階で、情報がもって帰られているんじゃないか? となると、すでに国王の耳に入っており、こちらを攻める準備をしているということもありうる」
「そうね。その可能性はあるわね。よくもうちの騎士をって」
「さらに言うなら、そこへ無傷の第一王女が帰ってきたら、何を疑われてもおかしくないな」
「第一王女も一緒に殺されていて普通だからね、王や王子の思惑通り。そうか。思惑通りか。じゃあ、ゲルンが言う通り、出兵している線が濃厚ね」
ゲルンと千里が考察を進める。
「私、止めなきゃ!」
涙をぬぐってセーラが宣言する。が、しかし。
「あ? どの口が言うんだ? 我が国を攻めてきたのはお前の国だぞ? その国王らの思惑通り、お前をこの場で殺してもいいんだ。むしろ、ここで殺しておかないと面倒なことになりかねん」
ゲルンが剣を抜く。
「ひぃ!」
セーラが悲鳴を上げる。
「ゲルン、ちょっと待って」
それを千里が止める。
「ゲルン。あなたの言うことは正しいと思うわ。だけど、ごめんね。セーラは私達の友達なの。殺させたりはしないわ」
「千里―!」
セーラが涙目で千里を見る。本当は抱き着きたかったが、そんな雰囲気ではない。
「千里様がそうおっしゃるなら」
と、ゲルンは剣をさやに収め、その上で発言する。
「それでは、どうされるおつもりですか?」




