持つべきものは師匠と義理の母(千里と桃香)
千里と大長老がにらみ合う。
すると、千里と桃香の団服からキキとララが飛び出し、千里と大長老の間で身構えてうなり声をあげる。
「なんじゃこの犬は。犬じゃないか、キツネか? 下らん。何ができるというのだ」
と言って、ゲルンはあげた手を下げ攻撃の合図を出そうとする。そこに、
「待った!」
と、上空から声がかかった。
緑色の髪、緑色のワンピースを着た少女がキキとララの下へと降りてくる。
「こ、高位精霊リーフ様!」
大長老が驚きの声をあげる。
「このようなところにこのタイミングで、いったいどうなされたのですか?」
「大長老、ちょっとその手を下げて、戦士達をおとなしくさせて」
「はっ、仰せのままに。ですが、いったい」
「ちょっと黙ってて」
と、高位精霊リーフが大長老を鎮める。
リーフがセーラ達に向かって声をかけようとする。が、その前に声を発する者がいた。
「高位精霊? 精霊だよ精霊、見て、桃ちゃん。野良の精霊って、初めて見た」
「の、野良?」
高位精霊リーフが突然とんでもないことを言われ、唖然とする。
「本当です。野生ですかね」
「や、野生……」
ひどい言われようのリーフ。
「ねえ、高位精霊さん。高位精霊さんはボッチなの?」
「ぼ、ボッチ……」
どんどん心を削られていくリーフ。
「あ、あの、言い訳がましいようだけど、精霊ってね、ボッチなものよ」
自らえぐるリーフ。
「でも、そう言うってことは、ボッチじゃない精霊も知っているの?」
胸を押さえながらリーフは千里に聞く。
「私達の義理の母様で師匠。れーちゃんと、ドライアちゃんと、ディーネさん。対精霊の戦い方を教えてくれたの」
対精霊の戦い方、というところを強調して言う。
「……」
リーフは口をあんぐり開けて固まる。
「おーい、高位精霊さーん。帰って来て」
千里の呼びかけにリーフがはっとする。
「あの、もしかして、れーちゃんって言うのは、大精霊レイ様で合ってる?」
「うん。合ってるよ」
「ドライアちゃんとディーネさんって、高位精霊のドライア様にディーネ様?」
「ううん。ちがう。ドライアちゃんもディーネさんも大精霊って言ってた」
「……」
リーフが再び固まる。
「あの、リーフ様?」
大長老が声をかける。
「その、大精霊レイ様とかドライア様にディーネ様というのは?」
「はっ」
我に帰ったリーフは大長老の疑問に対して説明をする。
「この世界にはあまたの精霊がいますが、そのトップが大精霊レイ様。そして、それに次ぐのがドライア様とディーネ様なのです」
レイもドライアもディーネも、大精霊でありながら天使でもある。天使であることは知られていないが、精霊達からしたら大精霊というだけでも雲の上の存在。
「とはいえ、高位精霊であれば、リーフ様と同格ですよね?」
「違うわ。お三方とも大精霊だって、この子らが言った。そもそもこのお三方は精霊界のトップスリー、そして、そのお子様達も含めてトップトゥエルブなのです。特にお子様達の力がハーフなのにもかかわらず強すぎるのです。それでもご両親を敬っていらっしゃることもあり、私達有象無象ではお近づきになることもできません。そして、その方々は皆さま家族で行動されており、確かに、野良でもボッチでもありません」
「なっ! そのような方が義理の母上だと? 師事したと? 嘘を言っているのではないのですか?」
「あの、そこの高位精霊さんは、どうしてれーちゃん達を知っているの?」
千里が割って入る。
「祝福してもらったからです。ですが、私は運がよかった。レイ様達は、旅をしておられるので、捜しても見つからない。私はたまたま見つけてもらえたのです」
そもそもレイ達は、住んでいる階層も違うので、めったに会うことはできない。よって、リーフはかなり運がよかったと言える。
リーフは大長老に向く。
「あなた達にとってもただ事ではありません。そこにいるフェンリルの子供を見なさい」
「「「ふぇ、フェンリル?」」」
大長老と、千里と桃香がはもる。
「フェンリルって? フェネックじゃないの?」
「フェンリル、神獣です」
「「「え?」」」
「あなた達、いや、あなた様方は、このフェンリルの子供をどうしたのですか?」
「師匠にもらいましたが?」
「師匠というのは?」
「ハイエルフのラミさんとルミさんです」
「……」
今度は大長老が固まる。
「大長老、起きなさい。わかりましたか? あなた方にとってもただ事ではないと」
「ハイエルフ様のお弟子様だと? 本当なのか?」
これにはリーフが答える。
「フェンリルは大昔、その時の大精霊様がハイエルフに下賜した動物です。と、言われています。ですから、ハイエルフしか飼育していません。それをこの者、いや、この方々が……」
リーフは怪訝な顔をして千里に聞く。
「あの、あなた様方、あなた様方がこのフェンリルを使役されているのですか? それとも、フェンリルのお世話係をしているのですか?」
「「は?」」
「キキとララは、私達の言うことを聞いてくれる友達よ」
「はあ、あなた様方が、ハイエルフにも認められた存在ということがわかりました」
リーフはため息をついた。
「あなた様方のお名前をお教えくださいますか?」
「千里」
「桃香」
「それでは、千里様、桃香様。大精霊レイ様、ドライア様、ディーネ様のご息女のお二方。私はこれで下がらせていただきます。できれば大精霊様方にお会いした暁にはこのリーフが感謝していたとお伝え願えればと」
リーフは千里と桃香のことを様付けする。そして大長老に向かい、
「大長老、この二人は、大精霊様の、そして、ハイエルフの関係者、義理ではありますがご息女であり、かつ、お弟子様です。どうしますか? よくよく考えて対応なさい。私だって、この二人に何かして、大精霊様方が出てこられては存在の危機なんです。それでは」
と言って、リーフは消えてしまった。
大長老は、振り上げたこぶしを下げられない状態だ。プルプルしている。そこへ千里が追い打ちをかける。
「ちなみに、ハイエルフの師匠はラミさんとルミさんだけど、同じくハイエルフのラナさんとルナさんは義理のお母様よ。もちろん、そのお子様達とも知り合いよ、二か月だけお世話もしたわ。それに、ラミさんとルミさん、ラナ母様とルナ母様の旦那様も知っているわ。さっきの高位精霊さんが言ってた、大精霊ファミリーとも付き合いがあるわ」
正しくはラミとルミはグレイスの妻ではないが、まとめてしまおう。ついでだから、れーちゃん達も利用させてもらおう、そう千里は思った。
「皆の者、控えろ!」
大長老は周りのエルフ達に向かって命令を下し、自ら跪いた。
「千里様、桃香様、ようこそシルフィードへ。歓迎いたします」
この急激に変わった態度に納得いかないのがセーラだ。
「ちょっと待ちなさい。我が国の兵を殺しておいて、その態度は何?」
大長老がセーラに対して殺気をまとう。
「セーランジェと言ったか? 忘れていないか? 我が国とお前の国は今、戦争状態なのだぞ? その根本は、お前の国が武装した兵士を我が国に送り込んできたことではないか。それでその言い草はなんだ? 我々は、千里様と桃香様を歓迎すると言っている。貴様は今でも殺すべき対象だ。お二方と一緒に扱ってもらえると思うな!」




