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対立(千里と桃香)

「なんだったのかしら」


 セーラが首をかしげる。


「現状、敵だとは判断されていないみたいね。味方とも思われていないと思うけど」

「明日に迎えに来るって言っていましたね」

「うん。だけど、迎えという名の捕獲かもよ」

「それはありますわよね」

「だけどさ、考えても仕方なくない? 明日にはシルフィードに行けるんだから」

「千里は能天気ですね」

「ミシル」


 千里は突然ミシルを呼ぶ。


「ミシルは、さっきの二人に勝てそう?」

「結論から申し上げます。無理です。あの去り際の速度、あの速度で攻撃されたらまず無理です。エルフの特徴は高い身体能力と魔法技術。私ではどちらも勝てないでしょう」

「そうか。っていうか。よく冷静に分析できました。私もそう思います。だから、明日は素直に従おう」

「はい。わかりました」




 翌朝、日が昇るのと同時に、フォンデがやって来た。


「セーランジェ王女殿下、お迎えに上がりました」


 言葉は丁寧だが、態度はへりくだるつもりは全くない様子がうかがえる。


「二、四、六……フォンデさんって言ったっけ。八人の部下の皆さんに、出てきていいよって」


 千里の言葉に、フォンデは額にわからない程度の青筋を浮かべ、


「出てこい」


 と言った。すると、八名の女性エルフがセーラ達を取り囲んだ。皆、ナイフをかまえている。


「ねえ、フォンデさん」


 千里がさらに聞く。


「私達は武器を手に持っちゃだめだよね?」

「当たり前だ」

「わかりましたよと」


 千里が立ち上がる。次いで桃香が、


「フォンデさん、片付けをしてもいいです?」


 と聞く。


「ああ」


 とだけフォンデは答えた。


 ミシルとセシルを中心に野営の片づけをする。

 エルフが森を大事にしていることは、知識として基本中の基本。火を焚いた痕もきれいにしておく。


 片付けが終わったのを見て、フォンデが声をかける。


「さあ行こうか」


 と。


 セーラ達は、エルフに囲まれて移動する。




 昼を過ぎ、夕方近く、森の風景が変わる。急に大木が乱立するようになった。大木と大木の間は広く、そこには何も生えていない。まるで手入れをされているかのように。


 さらにしばらく行くと、大木を利用したツリーハウスならぬツリーマンションが立ち並ぶ様子が見えてくる。


「うわー、すごい。すごくきれいです。森と調和するように住居が建てられていて、森と一体化しています」


 セーラが感嘆の声をあげる。


「すごいね。すごく壮大でかっこいい」


 千里も感想を漏らす。


「素敵です。こんな家に住むのもいいかもしれません」


 桃香も声をあげる。

 それを聞いたフォンデは苦い顔をする。自身の国を評価してくれた者を、この後処分しないといけないとは、と。




 セーラ達は、草木の生えていない広い空間に通される。その広場は、周囲を武装したエルフにより囲われていた。


 その正面には、高齢のエルフが並んでいる。

 フォンデは、広場の真ん中で足を止め、


「ここで待て」


 と言って、部下を従えて輪に入っていった。


 セーラは、相手の出方を待つことにする。

 すると、長老らしきエルフが前進してきた。そして、


「お前達の目的は聞いた。我が国と和平を結びたいと。して、その理由はなんだ?」


 と、聞いてくる。


「私はセーランジェ・カイナーズ。カイナーズ王国の第一王女です。国王の名代としてまいりました。貴国との和平を望む理由ですが……」


 そういえば聞いていない。千里を見ても首を振られるだけ。桃香も同じ。ミシル達も知らないだろう。


「私どもの国は、我が国の西にある人族の隣国、ドレスデンとファルテンの両国と緊張関係にあります。そのため、北にある貴国とは対立したくありません。そこで、和平をと考えております」

「ふっ」


 大長老は笑う。


「もともと我らは貴様ら人間どもと対立するどころか関わろうと思っておらん。人間族間で何をするにしても勝手にすればよい。和平など結ぶ必要はない」

「そ、そんな。でも、和平を結べば……」

「どんないいことが我が国にあるというのだね。何もないだろう?」


 セーラは言い返せない。エルフの国に何か必要なものがあるとは思えない。しかし、このままではミッションが失敗のまま終わる。このまま帰るわけにはいかない。


「ですが、ご一考いただけませんか?」

「王女殿下と申されたか」


 大長老が確認を取る。


「はい」

「王女殿下、この紋章に見覚えは?」


 大長老が旗を広げる。

 セーラは口に手をあて、驚愕する。


「そ、それは……」

「そうだ。これは貴国の王家の紋章ではないかね?」


 セーラはつばを飲み込む。なぜ、それを持っているのか。なぜその旗は汚れ、破れているのか。


「どうしたんだね、王女殿下。顔色が悪くなったようだが?」

「……」

「仕方ない」


 と、大長老は、パチン、と指を鳴らす。すると、長老達の後ろで並んでいたエルフ達が左右に分かれて行く。

 そのエルフ達が開けt空間で見えたもの、それは……

 セーラが息をのむ。


「この者どもは、貴国王家の騎士達であろう」


 大長老は、磔になった騎士達を指さして言う。

 セーラは何も言えない。


「こんな騎士団を送り込み、戦闘を仕掛けてくる国と和平だと? できると思っているのか?」


 そう言って大長老はもう一度指を鳴らす。

 すると、今度は槍を持ったエルフが磔になった騎士達の前に立つ。


「や、やめて……」


 セーラが何とか声を出す。

 しかし、大長老がもう一度指を鳴らすと、エルフは、騎士達の胸を槍で突いた。


「やめて……」


 セーラは顔を手で覆い、しゃがみこんでしまった。


「さて、次はお前達の番だ。我が国の場所を知ったものを返すわけにはいかない。ここで死んでもらう。特に敵対者はな。しかも、我が国に戦争を仕掛けてくる国の王女だ。二度とこのようなことをしないよう、首を送り付けてやる。ちゃんと国で弔ってもらえ」


 あっはっは、と、大長老は笑う。


 千里は周りを見渡す。


「桃ちゃん、これ、千以上いるね。無理だね」

「はい。無理です。殲滅魔法を撃つしかありません。ですが、そんなことをしたら、関係が完全に悪化します」

「だよね」


 大長老が手をあげる。すると、エルフ達は腕を伸ばし、手のひらを向けてくる。

 おそらく、大長老の一言で、千を超える攻撃魔法が飛んでくるのだろう。それを乗り切っても、次は弓、そして、接近戦。七対千。千里と桃香の二人なら何とか。だが、セーラ達を含めて……どうあがいても厳しい。それでも。


「桃ちゃん、やるか」

「はい」


 千里と桃香はちょっと気にいった大鎌を取り出す。


「ミシル、皆も抜刀。セーラを守って」

 


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