エルフの森の中でエルフさんに出会った(千里と桃香)
結局、夜が明け、昼を過ぎ、夕方近くになり、渓谷を抜けて炭鉱の町、モルガンに着いた。残ったロックリザードは燃やしながら。
「あんたら、渓谷を通って来たのか?」
街の門兵が聞いてくる。
「ええ、そうですけど」
「ということは、渓谷はもう、通れるようになったということか?」
セーラは千里と桃香に確認の視線を送り答える。
「はい。ロックリザードはあらかた討伐しました」
「おぉー、そうか。助かった。食料とか消耗品が現地調達しかできず、大変な思いをしていたんだ。おーい、だれか、ギルマスに伝えてきてくれ」
と、門兵が言うと、一人の青年が走り去った。
「よかったですわ」
「で、あんたは?」
「はい。私は第一王女、セーランジェと申します」
門兵が固まる。セーラは騎士服を着ている。よって、王女には見えない。かもしれない。
「あの、通って構いませんか?」
門兵は固まっている。
「いいんじゃない。通ろう」
千里がセーラに声をかけて、門を通り、街に入った。
「千里、もう夜になりますし、宿屋を取ります?」
「そうね。さすがに街の中では行動を起こさないよね。ついでに馬車を預けたいし」
「ここから森に入るのですよね」
「そう。だから、馬車を置いてと」
千里達は、街で一番大きそうな宿屋に向かった。
宿屋では、大部屋を借りて休むことにした。
食堂で食事をしていると、筋肉質なずんぐりしたおじさんがやって来た。
「王女殿下であらせられますか?」
と、跪く。
「そうですけど」
「この度は、渓谷を通れるようにしていただき、ありがとうございます。これで、この街も孤立から解消され、食料品や必需品を再び購入できるようになります。感謝申し上げます」
「いいの。これは、私が受けた命です。ですので、その命を下した国王陛下に感謝してくださればと思います」
「なんというお言葉。それでも私どもは王女殿下に深く感謝いたします」
と、話が長くなりそうだったため、セーラが「下がってよい」と先に言ってしまった。
翌日。
街の東門から出て、森に入る。
これから森の中は徒歩なので、それぞれがリュックを背負っている。それは王女であるセーラであっても例外ではない。
しばらく森に入ったところで、千里がセーラに伝える。
「ちょっと私達、監視がどういう風に動くか見たいから、先に行ってくれる?」
「え、私達だけでですか?」
「大丈夫。ちょっとの間だけだし、すぐに追いつくわ。キキとララをつなぎにするから必ず追いつけると思う」
セーラ達がキキと共に森の深くを目指して足を進める。
千里と桃香は、森の入り口を入ってしばらくしたところで、ララと一緒に身をひそめる。
しばらく待っていると、
「来ました」
桃香が千里に告げる。
「うーん。どこまでついてくるのかな。近いうちに襲ってくるか、エルフと挟撃してくるか、それとも、そのままエルフの国に攻め込むのか」
「まあ、どちらでもいいですよね。じゃあ、私、左から行きます」
「じゃあ、私、右側の二人ね」
と、二人は、気配を消して、監視の後ろから近づく。
そして、首筋に手刀を当て、気を失わせる。
「これで、少しは時間を稼げるかな。それじゃ、私達も追いつこう」
二人は、気配を消したまま、セーラを追った。
「お待たせ」
「早かったですね。それで、どんな感じです?」
「うん。監視について来ていた三人の意識を刈ってきたから、まけると思う。今のうちに進もう」
「そう言いますけど、エルフの国がどっちにあるかわかるのです?」
「わかんないよ。だから、とりあえず東に行く?」
「え、北じゃないです?」
ふむ。と、千里が首をかしげると、
「「キュイ」」
と、キキとララが飛び出し、歩き始めた。
「キキ、ララ、もしかしてエルフの国がどっちにあるのかわかるのかい?」
「「キュイ」」
と、二匹は、得意げになって歩き始めた。
しかし、そう簡単に到着するものでもない。
一日歩き、野営をする。二日歩き、野営をする。
エルフの国シルフィード。
「大長老様、大長老様」
「なんじゃ、そうぞうしい」
大長老ゲルンは、あわただしく部屋に入って来たエルフ兵士に怪訝な顔をする。この長く平和な時を過ごすエルフにとって、騒ぎなどそうそう起きない。姫の暴走以外。
「森に入った人間どものことで」
「人間が森に入った? なんじゃ、そんなことか。どうせ、迷いの森でさまよっておるのじゃろう?」
「いえ、それが、まっすぐにこちらに向かってきています」
「なに? 迷いの森、我らのまじないが効かぬのか?」
「わかりません。ですが、効いていないように見えます」
「何人だ? 目的は何なのだ?」
「女が七人と、それと……。目的はわかりません。接触しますか?」
「うむ。大隊を率いていい。理由によっては、帰っていただけ。そうでなければ捕縛、もしくは排除しろ」
「承知しました」
三日目の夜。
「キキ、ララ、隠れて」
千里が二匹に指示を出す。キキは千里の、ララは桃香の団服の中に隠れる。
「ちょっと近くに寄って」
と、千里は、メンバーの顔を近づけさせる。
「誰か来る。気づかないふりをして。カウントダウンで驚くわよ。いい?」
桃香やセーラ、メイドの面々がうなずく。
メンバーは火を囲んで座っている。
千里が指でカウントダウンをする。三、二、一……
「「「キャー!」」」
「キャー」
「「「え?」」」
千里が振り返ると、胸を押さえて、ぜいぜいしている一人の女性がいる。
「あれ、タイミング間違ったかな?」
「千里さん、そうっぽいですね。しかも、敵対する感じでもないような」
千里は、仕方ないと、声をかける。
「あの、そこのお嬢さん、えっと、どちら様です? というか、御用ですか?」
胸を押さえていた女性は、大きく深呼吸をすると、くるっと振りむいた。
その顔を見て、メンバー全員が理解した。「エルフだ」と。緑がかった金色の髪、翡翠のような目、色白の肌、そして何より、とがった耳。
「申し訳ありません。ちょっとびっくりしまして、取り乱しました。私は、エルフの国、シルフィードで防衛隊長をしております、ルージュと申します。どうぞ、お見知りおきを」
「ご丁寧にありがとうございます。私はカイナーズ王国第一王女、セーランジェと申します」
「セーランジェ王女殿下でございますか。ところで、セーランジェ王女殿下、この森に入られた理由をお伺いしたいのですが」
「私は、国王の名代としてまいりました。我が国王は、我がカイナーズ王国と貴国シルフィードの間で和平を望んでおります。これが国王からの親書になります」
セーラは親書をルージュに渡そうとするが、ルージュは受け取らない。
「それは、我が国の姫に直接お渡し願いたい。が、その前に確認したいことがもう一つあります。皆さまの後に森に入られた武装した集団は関係者ですか?」
「え?」
セーラは千里と桃香を見る。心当たりありすぎだ。
「私達はこの七名で行動しております。ですので、その集団というのに心当たりはありません」
千里が代わりに答える。答えてしまう。セーラが何かを言う前に。
「わかりました。では、そちらの対処は私どもで行います」
ルージェは「よろしいですね」の確認をしない。関係ないと割り切る。
セーラも関係があるとはもう言えない。
「フォンデ!」
と、ルージェが呼ぶと、一人の女性エルフがやってくる。
「フォンデ、明日の朝、この人達を街に案内して。それから、今日中にそのことを大長老様に伝えて。いい?」
「はい。かしこまりました。それでは、皆さま、明日の朝、お迎えに上がります」
と、フォンデと呼ばれた女性は姿を消した。
「それでは、私もこれで」
と、ルージェも消えた。




