ロックリザードの倒し方は秘密なのです(千里と桃香)
そこへ、ミシル達が馬車を引き連れてやってくる。
「セーラ様、大丈夫ですか?」
「見ての通り、大丈夫じゃないわ。着替えたい……」
「はい、今すぐご用意します」
セーラはミシル達と馬車に入っていった。
「桃ちゃん、これ、つらいね。何匹くらいいるのかな」
「渓谷の奥の方までだと、それなりにいるかもしれませんね」
「もう、焼き払っちゃわない?」
「監視の目はどうします?」
「そうだね。こうしようか。ごにょごにょ」
「じゃあ、私、ちょっと森に行ってきます」
「あ、私も行く。着替え、しばらくかかるんじゃない?」
「ですが、監視が何かするかもしれません」
「そうか。ロックリザードを倒しちゃったしね、一匹だけど。姫は生きていることだし。ごめん、お願いできる?」
「はい。行ってきます」
桃香は、森へと向かった。
馬車からセーラ達が出てくる。
「ねえセーラ、討伐証明っているの?」
「いるのかもしれませんけど、この後もまだ旅を続けますし、持っていられないのではないでしょうか。それに、ここを通ってエルフの国を探しに行くわけだし、渓谷にいるほかのロックリザードも討伐しないといけませんよね。つまり、目的を達成してしまえば、討伐も認められるんじゃないかと」
「だよね。じゃあ、これ、燃やしちゃっていい?」
「はい。いいです。その前に……」
セーラは、倒れているロックリザードの死体に近づき、おもむろに足を上げ、踏みつけようとする。が、そこでやめた。
「魔物とはいえ、死体に足を上げるのはいけませんね。すごく怖かったですけど」
と、足をおろした。
「セーラの気がすんだのならよかったよ」
「忘れませんけどね」
何を、とは言わない。
「さて、セーラ、どうする?」
「どうするとは?」
「あの渓谷の中、まだまだいると思うんだけど」
「……同じような倒し方をする、ということでしょうか。もう、おとりは嫌です」
と、ミシル達を見る。
ミシル達は誰もが顔をフルフルとする。
「まあ、渓谷の前まで行ってみよう。どれくらいいるのかもわからないし」
「は、はい……」
千里とセーラ達は馬車を進める。
渓谷の入り口まで移動すると、桃香が薪を運んでいた。
「桃ちゃん、お疲れ様。代わるよ」
と言って、今度は千里が森へと向かう。
「桃香、何をしているんですか?」
「千里さんと相談したんですけど、渓谷をいぶそうかと思って」
「渓谷って、どれだけの奥域があると思ってるんです? いぶすって、できるんです?」
「そこはね、ごにょごにょ」
「わかりました。じゃあ、私達も薪を集めます」
と、馬車を森へと向けた。馬車で運んだ方が早い。
結局、夕方までかけて、渓谷の入り口に薪を積んだ。しかも、生木も含めて。
「ねえセーラ、渓谷の中に人がいると思う?」
「思いませんわ。ロックリザードがまだたくさんいるんでしょう?」
「うん。多分いる。だから、まとめてやっつけようかと思ってね」
「で、今日、やりますの?」
「うん。明日の朝まで待ったら、違うのが出てきちゃうかもだし」
「そうですよね。わかりました」
「じゃあ、みんなで薪に火をつけてくれる?」
「わかったわ」
「「「「わかりました」」」」
セーラとミシル達は、魔法で火をつけていく。
薪に火がついて、燃えていく。生木は煙をあげる。
渓谷の入り口が煙によって隠されていく。
日が落ちかけ、暗くなってきたころ、
「そろそろやるよ。監視も見づらくなっていることだし」
と、千里と桃香はセーラ達を引き連れて渓谷の中に足を踏み入れる。
「じゃあ、みんなでやるよ。しょぼいファイアランスじゃなくて、本気の奴。心の準備はいい?」
千里がセーラ達に確かめる。
「キキ、ララ、撃ち終わったら、私達に魔力を供給して」
「「キュイ」」
「じゃあ、行くよ。かまえ! 三、二、一、てー」
ドッゴーン!
千里と桃香、セーラ達が、最大級の炎魔法を渓谷の中に向かって撃ちこむ。煙の奥、渓谷の中が炎で包まれる。
ふらっ!
千里と桃香が倒れる。そこへ、キキとララが寄り添い、おでことおでこを合わせる。
「「キュイッ!」」
魔力が千里と桃香に流れる。全回復にはならないが。立ち上がることはできる。
「キキ、助かった」
「ララもありがとう」
「千里、桃香、私達は倒れていないってことは、まだ修業が足りないってことですよね」
「でも、いい感じで魔力をコントロール出来ていると思うよ。倒れないまでもフラフラでしょ。今日は危ないから、渓谷の外にでて野営をしようよ」
「はい。わかりました」
七人は、渓谷から出て、馬車まで戻る。そして、倒れるように寝た。
監視サイド。
「一体何をしたんだ?」
「煙に隠れて見えなかったが。煙を渓谷の中に送り込んでいるのか?」
「わからんな。だが、ロックリザードを一体倒し、全員無事だってことは確かだ」
「やっぱり、あの二人は、ロックリザードを倒すだけの実力はあったってことだな。かなり苦労はしていたがな」
「だが、ほとんど姫とあの二人の三人でやったんだぞ? 我々にできるか?」
「……難しいな」
「見栄を張るな。三人じゃ無理だろう。そもそも、最初に飛ばされたあの少女。よく無事だったな。確実に死亡コースだろう、あの衝撃」
「全くだ。不死身なのか?」
「まあ、我々は監視して報告するだけだ。後は、本隊に任せるさ。正直、今が一番の殺り時だと思うが」
「だよな。あの強ささえ見せつけられなかったらな」
「一応、報告しておくか」
「頼む。そんな感じで」
真夜中。
キキとララが気づく。
「「キュイ」」
「なに? キキ」
「キュイ」
「……やっぱり来たか」
「桃ちゃん、起きて」
「ん? 何です? 朝じゃないですよね」
「予想通り。来たよ」
「え。来ちゃったんですか。どうします?」
「めんどくさいから逃げよう。渓谷の中へ」
「わかりました。セーラさん達を起こしますね」
「静かによろしく。私、馬車を出せるようにするから」
「なんだっていうのです? こんな夜中に」
「セーラさん。追手が来ました。逃げます。静かに、ばれないように逃げます。いいです? 声をあげないようにお願いします」
ミシル達に目を向けると、黙ってうなずいている。
セーラはいまだに信じられないような表情を浮かべる。
「桃ちゃん、出てもいい?」
「はい。大丈夫です」
「じゃあ行くよ」
千里は、馬車をゆっくりと渓谷の中へ進めた。
「隊長! 逃げられました」
「ち、勘のいいやつらめ。仕方ない。明日の朝、渓谷に入る。追うぞ」
「はっ」
「千里、追っ手って?」
セーラが聞く。
「うん。四十人くらいの人達かな。それが盗賊か騎士かわからないけど」
「近づいてきたのですか?」
「うん。だから逃げ込んだんだけど」
「追ってくると思います?」
「思うけど、朝になってからじゃないかな。それまでは、馬さんには申し訳ないけど、ヒールをかけながら移動かな」




