ロックリザードの倒し方~おしりはNG(千里と桃香)
千里は、ロックリザードが自分にロックオンしていることを確認すると、そろりそろりと退却を始める。
ロックリザードも千里を追って歩き始める。
千里はスピードを上げる。
ロックリザードもスピードを上げる。
千里は思う、「思ったより速い」と。
千里は走る。桃香達の方に向かって。
「桃ちゃーん、ごめん、こいつ速い。止めてー」
千里が桃香に向かって叫ぶ。
桃香は思う、「えっと、どうやって?」と。
桃香は、とりあえずセーラ達から離れ、数十メートルを前進する。
そこで、桃香は槍を取り出し、垂直に構え、こっそりと身体強化を行う。
これで、止まってくれるだろうか。
「桃ちゃーん、お願い!」
と、千里が走って来て、桃香の横を通り抜ける。
桃香はかまえる。ロックリザードを槍一本で押さえるため。
千里を追ってやって来たロックリザードが桃香に迫る。迫る。迫る。
桃香が力を入れる。が、
ロックリザードは、突然、桃香の手前でくるっと時計回りに回転した。そのスピードを維持したまま。
「やばっ!」
桃香は槍を右に構える。
回転したロックリザードの尾が桃香に迫る。スピードに遠心力を乗せた尾が。
桃香は、槍をかまえたまま、威力を殺すために後ろに飛ぶ。
ゲイーン!
「桃ちゃーん!」
「桃香!」
千里とセーラの叫び。
桃香は、後ろに飛ぶことで尾の勢いを消したものの、逆にそのせいで盛大に吹っ飛ばされた。
しかし、ロックリザードは回転したことにより、足が止まった。
「桃ちゃん、よくやった。早く戻って来てね!」
と、今度は千里が槍をもってロックリザードに向かっていく。
千里は、ロックリザードの岩のうろこの間を狙うが……。
刺さることは刺さる。が、それだけだ。致命傷を与えられない。
セーラ達は、魔法を撃ちこむすきを狙うが、千里が張り付いている以上、なかなか撃てるものではない。
「セーラ、顎を跳ね上げるから、そこを狙って!」
セーラは右手を伸ばし、ファイアランスの準備をする。
「千里! いつでも行きます」
「じゃあ、三、二、一、今!」
千里が槍の柄でロックリザードの顎を下から強打し、顎をあげて、飛びのく。
そこに、ファイアランスが直撃する。
ボフン!
「な、しょぼっ!」
「しょぼって何ですか。頑張ったんです。当たったじゃないですか。それに、こんな場面で全力でなんて撃ちません!」
「そうだけどさ、ぼふん、って、初めて聞いたわ」
セーラはプルプルしながら千里をにらむ。
「でも、セーラ、よく当てた。それに多分ちょうどいい」
千里がセーラをほめる。
セーラは、無詠唱でファイアランスを打てるようになっていた。それ自体はものすごい上達だ。
「ふん。頑張りましたから」
と、セーラは腕を組んでどや顔をする。そのため、それに気づくのが遅れた。
当然、ミシル達は気づいており、撤退を始めている。
千里もそろりそろりとロックリザードから離れる。
ロックリザードはファイアランスが放たれた方向を見定める。
ロックリザードは、セーラに狙いを代えた。
「え、え? 千里、千里? ロックリザード、こっちを向いてますけど?」
「あ、ごめん。せっかくだから、ちょっと交代して。疲れたし」
「な……」
セーラは顔を真っ青にし、冷や汗をかく。そして、一歩一歩あとずさる。
「い、いやー!」
セーラは走る。
ロックリザードはそれを追いかける。
「ミシルー、私を守ってくれるって言ったじゃんー!」
セーラとロックリザードの追いかけっこが始まった。
ミシル達はとりあえず様子を見る。本当に危なくなったら割り込もうと。だけど、本音としては嫌だな、と。
「さて、どうするかね。桃ちゃん帰って来ないかな」
と、周りを見渡すと、ナイスタイミングで桃香が帰ってくる。
「千里さん、ちょっと、ひどい目にあいました。いきなりヒールをこっそり使っちゃいましたよ。何ですかあのしっぽ、ものすごい力ですよ」
「うん。うろこの間も硬くてね、なかなか槍の刃が刺さらないよ。どうしたらいいかな」
「えっと、そしたら、柔らかいところを探します?」
「定番としてはそうだよね。そうなると、目か口の中」
「それから、お尻ですか?」
「ねえ、桃ちゃん、お尻に槍を突っ込みたい?」
「絶対に嫌です」
「だよねー」
遠くから叫び声が聞こえる。
「千里―、桃香―、もうだめ。何とかして―」
逃げ回るセーラが叫ぶ。
「桃ちゃん。剣とか槍で刺しても、そこから切るってのが難しいんだよね。刺して引いて切るでしょ。だからさ」
千里は、セーラの叫びをスルーする。
「フラン母様直伝で行こうと思うんだけど」
千里は桃香に提案する。
「あれなら、回転を加えながら刺せるし切れますね。それで行きましょう」
「じゃあ、槍をしまってと」
千里と桃香は、槍をしまって、大鎌を取り出す。
そして、
「セーラ、いいよ、こっちに向かって走って来て」
「うわーん! もうだめー、助けてー」
セーラが千里たちの方へ向きを変えて走ってくる。
が、千里は、右手の人差し指と親指を立てて、セーラとロックリザードを狙う。そして、
「ロックバレット!」
と、ロックバレットを飛ばした。セーラの足元に。
チュイン!
セーラの足元にロックバレットが着弾する。
「え?」
自分の足元を狙われたセーラは、思ず立ち止まってしまう。
すると、ロックリザードはセーラに迫る。
セーラは身の危険を感じ、振り返る。
ロックリザードが口を開けて、真上から今にもセーラに襲い掛かろうとしている。
セーラは涙する。もうだめだと。ロックリザードに食われると。
手を合わせて、目を閉じる。そして、願う。神様、助けて、と。そして、恨む。千里のバカ―。化けて出てやる、と。
だがその瞬間、千里と桃香が飛び上がり、最大限体を回転させつつ、ロックリザードの両側から大鎌を振った。ロックリザードの開いた口の両端に大鎌が突き刺さる。そして、千里と桃香は遠心力を利用して大鎌を振り切り、顎を裂く。
ザシュッ!
「え?」
目を開くセーラ。
目の前にロックリザードの下あごが落ちた。
そして、ロックリザードの上あごが落ちた。セーラの上に。
「ぐえっ」
セーラが押しつぶされる。
「た、助けて……」
セーラはロックリザードの顎からはみ出た手足をバタバタさせる。
桃香が、ロックリザードの頭を持ち上げて、千里がセーラを引きずり出す。
助け出されたセーラは、女の子座りをして、そして、泣き出す。
「えぐっ、えぐっ。怖かったよ。死んじゃうと思ったよ。うわーん」
千里と桃香は、抱きしめてあげようかと思って手を伸ばしたものの、セーラはロックリザードのよだれでべたべただった。
「セーラ? 大丈夫? ナイスおとりだったよ?」
千里が優しく声をかける。
ギンッ、と音がしそうな勢いで、千里をにらむセーラ。
「おとりって言いましたね、おとりって。私をおとりにしたのですか?」
「最初は私がおとりをやったじゃん。順番だよ順番」
「それはそうですけど、私、死ぬかと思ったんです」
「だけどさ、セーラがロックリザードの口を開いてくれたから、大鎌を口に突っ込むことが出来たんだよ。セーラの大手柄だよ」
「だからって、足元にロックバレットを撃ちこんで足を止めなくても……」
その時のことを思い出すと、また涙が出てくる。
「怖かったよー」
「セーラ、ごめんって。ほら立って。そのべたべた、洗おうよ。ね、桃ちゃんお願いできる?」
「はい。ホットウォーター!」
ビシャッ!
セーラの頭上にお湯の玉が現れ、セーラに落ちた。
「もうちょっと、優しい洗い方をして欲しいです」




