転生(優香と恵理子)-3
グレイスは赤子達を見て話しかける。
「そろそろ、落ち着いたかな」
二人は瞬きをする。
「現状について、話をするね。わかっていると思うけど、君達は、転生した。いわゆる転生者。正直、生まれた時から自我も知識もあるって言うのは、チートなんだ。チートってわかる?」
瞬き。
「その上で、僕は君達を預かってしまったから、この世界で生きられるようにする義務があると思ってる」
瞬き。
「さて、この世界なんだけど。その前に、君達は、地球というところから来た。あってる?」
瞬き。
「こっちの世界は、その地球で言うところの中世か、それよりちょっと前くらい。つまり、機械文明の前。正直、普通に人間同士が殺し合う世界だ」
目を見開く。
「だから、君達はこの世界で生き残れるように、指導を受けなければいけない」
鈍い瞬き。
「さてと、その前に、さっき、僕が君達に魔力を流した。それはわかる?」
瞬き。
「この世界には、魔法がある」
???
「見てみて」
と、グレイスは指先に炎を生み出す。
二人は目を見開く。
「地球では魔法は使えなかったよね。でも、こっちの世界には魔法があるんだ。つまり、この世界は、剣と魔法の世界。そこで生き残るためにはどうする?」
???
「まあ、はっきり言うと、剣術などの武術を学ぶか、魔法を学ぶか。両方を学んでもいい。そういった生きるすべを身につけた上で、好きな仕事をしたらいい。武人になるも、商人になるも、冒険者になるも、それは君ら次第だ」
「旦那様、そこまですると、他の孤児院の子供達と差が付きます。初志のレベルが違いますから」
シャルロッテが第四世界の言葉で口を挟む。そのため、グレイスは二人の手を離して相談を始める。
「そっか。どうする? やっぱり孤児院はなしにする?」
「というか、そこまで話してしまったら、隔離して育てるしかないかと」
「そっか。他の人に話せることでもないし、ばれても困るね」
グレイスは再び優香と恵理子に向き合って手をつなぐ。意思を聞くためだ。
「さて、優香と恵理子だったね。二人は何かやりたいことはある?」
(あの、僭越ですが質問させていただいても?)
「優香、いいよ。それに、丁寧な言葉はいらない」
(じゃあ、知っていたら教えてほしい。私達が転生したってことは、私達の仲間も転生している可能性があるってこと?)
「いきなり核心を突くねー」
(それって)
「わからない。確かに君達の世界からこっちの世界に転生してくる事例はある。君達のようにね。だけど、君達の仲間が転生して来ているか、来るかは僕にはわからない」
(では可能性がると?)
「ある。可能性がだけど」
(では、私は探しに行きたいです)
(私も)
「来ていないかもしれないよ?」
(それでも、可能性にかけます。(かけがえのない仲間なんです))
後半は二人がはもる。
「わかった。それじゃ、当面、君達は、この世界で生きていけるように成長する。その後、仲間を探しに行く。そういうことでいいね」
((はい))
「ところで、君達、前世では何をしていたんだい? というか、専門は?」
(私達は、看護師をしていました)
二人は、研究センターをやめた後、市立病院附属の看護学校へ通い、遅まきながら、看護師になっていた。
「じゃあ、人体の構造については詳しいんだね」
(手術なども参加していました)
「それは頼もしい。だけどね、この一年間は、この世界の言語習得と、魔力ぐるぐるおよび魔力操作に励んでほしい。一歳になって、歩けるようになったら、二人が仲間を探しに行けるように教育をしよう。ただし、この世界では、十二歳もしくは十五歳までは勉強することになっている。そこまでは、勉強に励んでもらうから」
((わかりました。お願いします))
「それじゃ、まず、これからの一年間は赤子らしく、過ごしてくれ」
グレイスは、二人から目を離して、コルベットに指示を出す。
「コルベット、二人の世話係を選出!」
「はっ」
「少なくとも、朝と晩に僕か妻達のところへ連れて来て。それと、日中は語学学習と魔力操作の訓練をさせて。寝る前に魔力を全放出させること」
「承知しました」
「マツリ、第七階層、アルカンドラ大陸の西に山脈に囲まれた、まだ人がいない土地があっただろう。海の近くに家を建てさせろ。そこだけで完結させるよう、畑の開墾もお願い。作物については、ソフィに相談して」
「はっ」
グレイスは、一通り方向性が決まって満足そうだ。
「ねえグレイス君、第七階層って」
「うん。僕たちが今いる第三階層みたいになっちゃったところ。ただし、魔法陣は生まれていない。だから、そこそこ不便だけど、おかげでそこそこ魔法が発達してきたよね」
「第一階層や第二階層みたいに悪魔や危険なものが少ないところでってことよね」
「そ、ある意味、危険性は少ないと思うよ」
「だけど、圧倒的強者が少ない代わりに、戦争はあるわよ」
「まあ、あの山脈を超えてどうこうするっていう強者はいないと思うけど。っていうか、メリットを感じる人なんていないと思うけど、どうする? ケルビーくらいつける?」
「お友達の犬っていうのもいいかもしれないわね」
「ライラ、来年から一緒に過ごせるように、二頭。それも、選抜育種してできた大きくならない奴を用意しておいて」
「はい。旦那様」
こうして、優香と恵理子はグレイスの下で少なくとも一年は育てられることになった。
翌日
「優香様、恵理子様、おはようございます」
優香と恵理子は目を覚ます。
「「ほぎゃ、ほぎゃ」」
もちろん、言葉は伝わっていない。
「私がアンヌ」
アンヌと名乗ったメイドは、自分を指さして、「アンヌ」と繰り返す。
「私がサーナ」
サーナも同様に自分を指さす。
「二人のお世話係になりました」
「「よろしくお願いいたします」」
「それじゃ、ご飯ですよ」
アンヌは優香を、サーナは恵理子を抱え、哺乳瓶をそれぞれ口に突っ込んだ。
「「んぐ、んぐ」」
ミルクを飲んだ後は、げっぷをさせられ、さらにおむつを取り替えられる。
優香も恵理子も、おむつ? と思うが、仕方がない。自分達も病院で赤ちゃんも寝た切りの人も対応したことがある。
「それじゃ、グレイス様のところへ行きましょうか」
二人は、優香と恵理子を連れてグレイスの執務室へと向かった。