「かわいいは正義」の使い道(千里と桃香)
千里と桃香はセーラと共に馬車に乗って王都にたどり着く。
「千里、桃香、あれが王都よ!」
セーラが馬車から身を乗り出して得意げに言う。
「おー」
「あれが……大きいです」
横に長くそして高く広がる城壁。その中央から見える、そびえたつ王城。
「よくあんなド派手な建物を建てたわよね。あれ、税金でしょ?」
外から見るに、王城はとがった屋根の塔が何本も合わさっているように見える」
「……」
セーラが千里をジト目で見る。
「千里さん千里さん、本音駄々洩れです。ここはかっこいいとか素敵って言うところです」
黙ったセーラを見て、桃香がフォローを入れる。
「……もういいわよ」
王都が近づいてくると、にぎやかさが伝わってくる。
「あれ、セーラ、にぎやかだね。王都っていつもこんな感じ?」
「ふふん。そうよ。王都は栄えているのです。しかも、なんて言ったって今日は」
と、セーラは腕を組んで鼻高々な顔をする。
「私が帰って来たのですから」
「「???」」
馬車が城門をくぐると、ファンファーレが鳴り、紙吹雪が舞う。
「これ、どういうこと?」
通り沿いには、たくさんの人が手を振っている。子供達は音楽に合わせて飛び跳ねてはしゃいでいる。
セーラは馬車の窓から体を乗り出し、手を振りながら言った。
「言ったでしょ。私が帰って来たからですわよ。しかも、お勤めを果たしてね」
「それって、セーラがホーンベアを倒すっていうあれ?」
「そう。今年最初のホーンベアを王族が先頭に立って倒すっていうこのイベントよ。去年までは兄さまがやっていたのですが、今年、初めて任されたんです」
「へー。それで、お祭りムードなわけだ」
「そうです。見てください、この私の人気!」
「そうね、ただのしょぼしょぼ姫じゃなかったわけだ」
「……またしょぼしょぼ姫って言った……」
だが、セーラはめげない。
「私はただのしょぼしょぼ姫ではないわ。なんてったってこの美貌があるの。人気が出ないわけが……」
ミシルが「よく言った」と手を叩いている。
千里はおでこに青筋を立てて、体を乗り出しているセーラを馬車に引き戻す。そして、
「どの口がそんなこと言ってるのかなー」
と、セーラのほっぺたをつまむ。
「いはい、いはいれふ、ひはほはん」
「あー、千里さん、それ、私とキャラがかぶりますー」
セーラと桃香が苦情を言う。
「痛いですよ、千里。ですけど、王族はそれくらい無理やりにでも自信過剰でないとやってられないんですよ」
と言って、また窓から体を乗り出して手を振り出す。
「千里も私のお付きなんですから、一緒に手を振ってくださいよ。桃香も人気者ですよ。せっかくお二人ともかわい美人なんだから」
「え、そう、振っちゃおうかな。ほら、一人じゃ恥ずかしいんで、千里さんもお願いします」
「なんか、ほめられたのか、中途半端って言われたのかわかんないんだけど」
だが、窓から手を振ると、領民が皆手を振り返してくれ、悪い気はしなかった。
それを遠くから見ている男がいる。
「チッ、帰って来たか。帰って来るにしても、てっきり逃げ帰ってくるかと思っていたのにな」
「まあまあ、そんなことは言わず。なんの才能もなくても、看板としては役に立ちますからな」
「看板? 俺より目立ってどうするんだ。ちゃんと俺の優秀さをアピールしてくれないと困るんだよ。比較対象であってくれなきゃ困るんだよ。それ以外の利用価値はない」
「お厳しいですな。次期国王はアーニス様に決まっていることでしょう。後は、あれをどう利用するかではないのですか。特に、あれがあなた様を慕っている限り、何も覆りませんよ」
「だが、あいつに人気があるのも事実だ」
「ですから、それは、あなた様が演出されたことでしょう? あなた様がいてこそです。そういう風に思わせればいいですし、それを事実にしてしまいましょうよ。次期国王様は懐の広いお方です」
「ま、そうだな。だが、あいつがいなくても私ならやっていけるわけだろう? それこそ、あいつの事故死でも利用してやるさ」
「そうでございますね。出来れば、他国にやってもらうと、我が国も正当な理由の下、攻め込むことが出来るというわけですな」
「あいつの人気にふさわしい利用価値だと思うがな」
「ご聡明、感服いたします」
馬車は城門からまっすぐ伸びる大通りを進んでいく。その先にあるのは王城だ。
「ねえセーラ、この都市、城門から王城までこんな風に道がまっすぐだけどさ、攻められたとき、あっさり王城までたどり着かれちゃうんじゃないの?」
「それでいいんですよ。まあ、万が一にも攻められたときですが」
セーラが続ける。
「もし、回り道をさせたりしたらどうなると思います? その道沿いには民が住んでいるんです。被害が拡大する可能性があります。私どもが勝とうが負けようが大事なのは民です。だから、この大通りで勝負をつけるんです。まあ、王城まで攻められるようなことがあったら、もうだめですけどね」
「なるほどね。まあ、いい心がけなのかもね」
「実際に戦争になったら、城の外で白黒ついちゃいますよ、相手が人であろうと魔獣であろうと。ま、考えても仕方ないことですが、相手がドラゴンだったら、悩むことなく終わりますしね」
セーラは手を振りながら説明をした。
馬車は安定したペースで進み、入城を果たした。
謁見の間。
「面をあげよ」
「はっ」
セーラを先頭に、千里、桃香が跪いている。
「此度のホーンベア討伐、大儀であった。王として、父としてうれしく思うぞ」
「ありがたきお言葉。身に余る光栄でございます」
「さて、褒美を取らせねばならない」
「陛下。もしお願いを聞いていただけるのであれば、この後ろにひかえる、千里と桃香を私のそば付として置かせていただきたいのです」
「その者達は?」
「ホーンベア討伐の時に友達になりました」
「その者達が敵だったりスパイだったりしたらどうするのだ!」
王の横に立っているアーニスが叫ぶ。
「私は、この二人を全面的に信頼しています。私を裏切ることはありません」
「私を?」
「はい。私の友達ですから」
「それは、カイナーズ王国に、王に忠誠を誓っているわけではない、と、同義だぞ!」
「……」
セーラは黙る。証明のしようがない。
めんどくさくなった千里が口を開いてしまう。
「あのさ、ぶっちゃけ国とかどうでもいいんだわ。私は、セーラと友達だから一緒にいる。それだけよ。それが気に入らないなら、今すぐ国外追放でもなんでもしたらいんじゃない?」




