ホワイトドラゴン救出作戦(貴博と真央)
「今、なんて言おうとした?」
セレンの言葉に飛び出して、セレンのほほを叩いたのはミーゼル。
こういう時の点火スピードは一番早い。
ミーゼルはセレンに向かってまくしたてる。
「人間なめてんじゃないわよ。私、言ったわよね。家族は絶対に守るって。それにね。自信がないわけじゃないわ。セレンには言ってなかったけどね、私とルイーズとリルはアンブローシア帝国四大公爵家の娘よ。シーナだって貴族の娘。何より、クラリスは王女なの。それに貴博と真央、この二人はキザクラ商会会長の子供。レティがエルフの国の王女なのは知っているでしょ。ね、わかる? このパーティがどれだけこの大陸に影響を与えられるか。それにね、何より一番大きいのは、貴方。セレンディ、貴方はブラックドラゴンでしょう。私達のパーティに怖いものなんてないのよ! 人を敵に回す? 家族を守るためならいくらでも回すわよ」
ミーゼルの説得を聞いて一番顔を青くしたのはギルマス。
他国のとはいえ、なんというパーティに、あんな態度や言葉遣いや……。
しかし、ここはおいておく。
突っ込みを入れる雰囲気ではない。
「それが何。今、なんて言おうとした? それ、一番言っちゃいけない言葉じゃないの? ねえ、セレン!」
ミーゼルが涙目だ。
セレンが全員の目を見回す。
それに全員がうなずきで返す。
貴博は、セレンと全く同じことをアンブローシアの砦でした。
なので、セレンの気持ちはよくわかる。
それに、ミーゼル達妻の覚悟もよくわかる。
「ミーゼル!」
セレンは感動のあまり、ミーゼルの胸に飛び込み、抱きしめた。
が、ミーゼルは押し倒される。
セレンはブラックドラゴンなのだ。
「セレン、セレン、ギブギブ。貴方、ドラゴンだってこと忘れているでしょ。私、つぶれる……」
「セレン、遅くなってごめん。僕も皆もミーゼルと同じ意見だ。だから、絶対にホワイドラゴンをふ化させよう」
「ミーゼル、旦那様、みんな、ありがとう」
セレンがミーゼルにのしかかったまま、涙目で感謝を告げた。
「グエッ、晩御飯が、出る……」
ミーゼルはつぶれたままだが。
「よし、作戦会議」
貴博が仕切る。
「ギルマス、もし、落札できるとして、おおよその値段は?」
「はっ! え、えっと。値段ね。えっと、たぶん出てくるのは大物貴族もしくは商人だから、おそらく金貨で二千から五千。それ以上かも」
ミーゼルが顔を青くする。
この前に賭けに勝った金貨がある。
リルのおかげで稼いだお金がある。
三千、それくらいなら自分達で何とかなる。
啖呵を切った手前、出せないなんて言えない。
いざとなったら実家に借金だ。
「ミーゼル?」
貴博の問いに、ミーゼルは答える。
若干、視線をそらして。
「五千なら何とか?」
実家への借金も込みとはここでは言わないでおく。
「ありがとう。で、それは置いておいて、じゃあ、もし、万能薬が必要な人がいた場合。これについて、リル。急いで万能薬のこと調べて。代わりになる対策が見つかるならそれにこしたことはない」
「はい」
「サンタフェ、カンタフェ」
「「はい!」」
「応援を!」
「「はい!」」
会議終了後、ミーゼルが青い顔をする。
「ミーゼルどうしたの?」
ルイーズが聞く。
「五千って、大見え切っちゃった。パパに借金しなきゃかも」
「あはは、なんだそんなこと? その時は私も頼むわ」
「私だってです。みんなで頼めば千や二千、出てくるよ」
「私も、あんまり出てこないかもだけど、少しでも」
ルイ―ズ、リル、シーナがミーゼルを慰める。
「あなたが言ったんじゃない。こんな影響力の強い、最強のパーティいないって」
ルイーズが笑う。
「そうよ。だから大丈夫」
リルも笑う。
「私もそう思います」
シーナも笑う。
「みんな、ありがとう。ありがとう」
ミーゼルが泣き笑う。
翌日、放課後木剣クラブは獣人の国を早々に出発する。
「サンタフェ、応援は?」
「現地集合するそうです」
「どうやって?」
「移動経路は教えてもらえませんでした」
「わかった。来てくれるならいいや」
第三階層、ローゼンシュタインのグレイスの屋敷。
「グレイス様。我ら五十名集合しました」
妖精の女王ミルフェがグレイスの前に出て報告する。
「ミルフェ、ありがとう。僕からの注意事項、というか命令と取ってもらっていい。まず一点目、死ぬな。捕まるな。ミルフェ達なら大丈夫だと思うけど、万が一ということもあるから注意するように。二点目。ホワイトドラゴンの卵を密売するような奴ら、潰してしまっていい。遠慮をするな。それじゃ、第七階層に飛ばすよ。貴博達のことを頼む」
「承知しました。行ってまいります」
ミルフェ達が転送された後、グレイスは母親でありかつ妻でもあるリーゼロッテに視線を向ける。
「母上」
「リーゼだと言っておろうが」
「リーゼ」
「なんだ」
「黒薔薇を借ります」
「黒薔薇でいいのか? こういう時はパールじゃないのか?」
「もうすでにパールは潜入させていますから」
「わかった」
「それに、貴博達が取り残したのを狩るだけで、基本は傍観しますので」
出発から三日が経ち、オークション当日。
貴博達はその自治の街に到着する。
「確かキザクラ商会で手配してくれた宿は……」
「あ、あそこじゃないです?」
シーナが指を差す。
「……ずいぶんと立派な」
「ですが、立派な宿に泊まれるような人じゃないと、オークションに出られないって言ってましたよね」
「じゃあ、仕方ないか」
貴博達は、宿にチェックインする。
その部屋は最上階だった。
「それじゃ、打ち合わせをするよ」
貴博が地図を広げる。
「まず、目標だけど、第一目標がホワイトドラゴンの卵。オークションで落札できればそれでよし。第二目標、卵を必要としている人。落札した人と必要な人が同じ人とは限らない。と言うわけで、会場はここ。オークションは夜の十時にスタート。ホワイトドラゴンはおそらく十二時ころ。僕、ミーゼル、セレン、サンタフェがオークションに参加。サンタフェは隠れていて」
「「「はい」」」
「正面、卵を買った人が出てくると思う。クラリス、ルイーズ、リル、シーナ、カンタフェ。五人は卵の行先をつけて」
「「「「「はい」」」」」
「会場の裏。真央とレティ、ラビとマイマイ。四人にはタルフェ(応援の妖精の一人)がついて。裏から出る可能性もあるから見張っていて」
「「「「「はい」」」」」
「連絡は妖精を通して」
「「「はい」」」
「タルフェ、他のメンバーは?」
「会場の各所に配置することになっています。情報の集約はミルフェ様です」
「了解」
「最後、リル、万能薬についてわかったこと」
「……はい」
リルは少し言いよどむ。
「万能薬ですが、ホワイトドラゴンの血が必要のようです。胚胎を取り出して血液を抜いて使います。ですが、なるべくたくさん取るために、結局は解剖して各臓器から血液を抜くようです。血はふ化後から入手しても使えそうですが、実質入手が不可能です」
「血だけじゃダメなのかな?」
「というと?」
「血だけなら何とかなるような気がする。例えば、ふ化させてやったんだから血をよこせとか。ちょびっと殻を割って、血管から血を抜くとか」
「そうかもしれませんが、どちらも難しいと思いますけど。前者は逃げられるかもしれませんし、襲われるかもしれません。後者はそんなことが出来るんですか? それに、失敗したら結局ホワイトドラゴン死にますよね」
「うーん。まあ、そうかも。で、リルがちょっと言いよどんだ理由は?」
「私も創薬業界のことを良く知りませんけど、この万能薬を作れる人、心当たりがあるのは……」
「メルシーってこと?」
「はい」
「まあ、ポーションや解毒剤なら作れる人はそれなりにいるかもしれないけど、それ以上ってなるとね。ああやって存在しない薬を新たに作っちゃうメルシーなんて、すごい創薬師なんだろうね。でも、アンブローシアの北の森で会った冒険者も怪しげな薬を作る人がいるってほのめかしてたし、メルシーが必要としているとは限らないから、それについての先入観は捨てよう」
「はい」




